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Monday, October 16, 2023

今季注目のビッグトレンド 「クワイエットラグジュアリー」 - GQ JAPAN

ファッション界を席巻する“クワイエット ラグジュアリー”とは何か? 小石祐介が、その潮流について解き明かす。

クワイエットラグジュアリーという言葉が流行しつつある。いつ頃生まれたのか定かではないが、ナルシソ・ロドリゲスがディレクターをしていた2000年頃のロエベ、そして10 年ほど前のフィービー・ファイロによるセリーヌがこの言葉で評されていた。調べると、この言葉の流行は今年3月下旬にグウィネス・パルトロウが裁判所に出廷した際に着ていた、ザ・ ロウのコートとプラダのブーツを組み合わせたスタイルがきっかけで再燃したようだ。ロゴや模様といった自明なブランド性を表象しない、シンプルなシルエットのものを身にまとい、質感や形の微妙な差異を自己の表現手段として背後にある価値観をアピールする。ここまでは過去話題になったノームコアと同様だ。その違いは、別名ステルス・ウェルスというだけに、「富」を宿す点だ。

静かなる富、静かなる言語

清貧の思想のある日本には、ロゴ入りの服やジュエリーなど、富をわかりやすく象徴するものを身にまとうよりも、解せる人だけに機微を伝える形で、必要最小限に匂わせるのを「粋」とする美意識がある。だが近年のストリートブームにより、表参道を歩くとロゴ入りのラグジュアリーブランドを身にまとうスタイルを目にしない日はなくなった。そういったスタイルを品がないと言う人もいるが、果たしてそうだろうか? コロナ前、ブティックが一軒もないような海外の小さな街に仕事で旅をすると、服の形や素材の機微よりもむしろ、ラグジュアリーブランドのロゴが、誰にでも伝わる自己表現として雄弁なことを実感したものである。ロゴは富を雄弁に語るボキャブラリーの一種だ。一方、それを静かに語るクワイエットラグジュアリーは、「機微」を解せる人々が周りにいてこそ活きるスタイルであり、流行しているその場所が豊かであることの表れでもある。

今、海の向こうでは戦争が起き、都市のあちこちでは暴動が起きる一方、世界ではラグジュアリーブランドの旗艦店が続々と生まれ、ロゴ入りのプロダクトが発表され続けている。そんななか、クワイエットラグジュアリーが世界の大都市を中心に再燃しているのは何故か。
「ありふれた富は盗めるが、真の富は盗めない」とオスカー・ワイルドは言った。「富」のボキャブラリーが街にあふれ、 騒々しい社会の中で、他者がすぐに真 似できない新たな、そして静かな言葉を探したくなる気分だからかもしれない。時に、雄弁は銀、沈黙は金なのだ。

小石祐介

クリエイティブディレクター/文筆家

株式会社クラインシュタイン代表。コム デ ギャルソンを経て、パートナーのコイシミキとクラインシュタインを設立。NOVESTA(ノヴェスタ)、BIÉDE(ビエダ)等、国内外のブランドのプロデュースを行う。
Instagram:@yusukekoishi
ホームページ:kleinstein.com

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