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Friday, June 3, 2022

社説:エリートツリー 普及と併せ課題検証を|秋田魁新報電子版 - 秋田魁新報電子版

 県林業研究研修センター(秋田市河辺)は従来の苗木より生育が早い秋田杉の品種「エリートツリー」の開発に力を入れている。導入により循環利用が加速し、二酸化炭素(CO2)吸収効果が高まると期待されている。一気に導入を進めたいところだが、雪深い環境でうまく育つか、伐期を迎えた時点で強度が十分かなど、まだ分かっていない点もある。まずは慎重に検証を積み重ねながら普及を図るべきだ。

 センターは2016年からエリートツリーの研究に着手。県内18カ所の試験林の中から外観や強度に優れたスギを選び、挿し木をして特性を調べてきた。その結果、生育の早さが従来の1・5倍以上で、花粉の量は半分以下にとどまる10品種の開発に成功。種子を生産する体制を整え、25年にも苗木生産者への供給を始めるという。

 導入により伐採から再造林、育成に至る循環サイクルの短縮や、幼木の周囲に生えた草木の下刈り回数の削減を図ることができる。サイクルが早まる分、森林でため込む炭素も従来の1・5倍程度になると見込まれる。造林コストの低減と脱炭素化の推進に貢献しそうだ。

 政府は50年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。昨年5月に策定した「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」では、30年までにスギ苗木の3割、50年までに9割以上をエリートツリーに置き換えると明示。達成するには、本県のように全国屈指の森林資源を有する地域が普及に本腰を入れなくてはならない。

 ただ課題も少なくない。エリートツリーは開発からまだ日が浅く、生育や強度に関する詳しい知見は得られていないのが実情だ。数十年に及ぶ成長過程で雪や風への耐久性がどれだけあるか分かっておらず、成熟した時点での強度も不明。生育が早いと年輪幅が大きくなるとみられ、秋田杉の特徴ともいえる細かな木目が出にくくなることも考えられる。

 伐採と再造林が短いサイクルで繰り返されることで、土壌が痩せることも危惧される。土壌を酷使し続ければ劣化が進み、スギの育ちが悪くなるほか、倒木や土砂流出などの災害リスクが高まることが想定される。

 こうした懸念を踏まえれば、一気呵成(かせい)に普及を図るのではなく、従来の品種を含め多様性をしっかり維持しながら段階的に進めていく観点が必要だ。同時に成長具合の検証や土壌調査を進め、伐採の適切なサイクルを見いだしていく取り組みも求められよう。

 国内では、高さ44メートルの木造の高層ビルが横浜に完成するなど、脱炭素社会の実現に向けた木材利用の動きが加速している。伐期を迎えている秋田杉の販路拡大を図りつつ、エリートツリーの利点や課題を見極めながら森林の更新を進め、持続可能な林業を確立させたい。

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