アップルは3月9日未明、クリエイター向けデスクトップ「Mac Studio」を発表した。
出典:アップル
アップルが2022年春の新商品を発表した。多くの人にとっては「iPhone SE」の新機種が気になるところかもしれないが、最も大きな「新機軸」だったのはMacだ。
新機種となる「Mac Studio」では、アップルとして最も高速なCPUとなる「M1 Ultra」が搭載された。
プロが求めるハイエンドなデスクトップを目指し、2021年秋に発売したプロ向けノートPCである「MacBook Pro」の上位モデルに搭載した「M1 Max」を超える性能を実現している。
M1 Ultraはどの辺が「ウルトラなつくり」になっているのだろうか?
M1 Maxを「2つ使って性能を出す」力わざ
アップル・ハードウエアテクノロジー担当シニアバイスプレジデントのジョニー・スルージ氏は、2021年秋からずっと隠していた「M1 Maxの秘密」を明かした。
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「M1 Maxを発表した段階で、1つ明かさなかった秘密がある」
アップルでプロセッサー関連技術の責任者を務める、ハードウェアテクノロジー担当シニアバイスプレジデントのジョニー・スルージ(Johny Srouji)氏は、発表会の映像の中でそう語りかけた。
彼らが隠していた秘密とは、M1 Maxよりも性能の高いプロセッサーである「M1 Ultra」をつくるための方法だった。
デスクトップ型Mac「Mac Studio」向けのプロセッサーである「M1 Ultra」。アップルは「史上最もパワフルなプロセッサー」だという。
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M1 Ultraの秘密は、アップルが公開した写真を見るとすぐにわかる。M1 Maxを並べて2つ使っているのだ。
これによって、CPUコアもGPUコアも、映像の圧縮に使う専用コアも、数がすべて倍になる。
左から、M1・M1 Pro・M1 Max、そしてM1 Ultra。UltraがM1 Maxを縦に並べたものであるのがよくわかる。
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「2つプロセッサーを並べるだけならカンタンなのでは」
と思いがちだが、実はそうでもない。
同じマザーボードの上に複数のCPUを搭載し、処理を振り分けながら高性能化するアプローチは、性能重視のPCやサーバーで一般的に使われている。
だが、このパターンでは処理の際に2つのCPUの間をデータが行き交うことになるので、効率的な設計が難しい。交通整理のために消費電力が上昇し、処理速度も思ったほどは上がらない。
マザーボード上に単純にプロセッサーを並べただけでは、性能の点でも消費電力の点でも不利な要素が多い。
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かといって、1つのプロセッサーをどんどん巨大にして性能を上げていけるか、というと、これも難しい。
現実問題として、既存のM1 Max自体が巨大なプロセッサーだから、単純に規模を大きくして、より大きな半導体を作るのは、製造技術的にもコスト的にも無理がある。
スルージSVPは、「M1 Maxよりも大きなプロセッサーをつくるのは難しい」と話す。
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そこでアップルは、2つのチップを並べて使いつつも、効率を落とさないテクノロジーを導入した。それが「UltraFusion」という仕組みだ。
M1 Maxに搭載済みだった「高性能化への布石」
M1 Ultra=2つのM1 Maxの中央に見える「継ぎ目」のような部分がUltraFusionだ。
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UltraFusionはプロセッサーを構成する半導体チップ(ダイ)同士をつなぐ「インターコネクト」と呼ばれる伝送技術だ。
前出のように、2つのプロセッサーをつなげて使う場合には、相互のプロセッサー同士でデータがやりとりできる「道」が必要だ。そして、この道はとても混雑しやすい。
UltraFusionは、それをある種の力技で解決している。簡単にいえば、「圧倒的に広くて短い道なら渋滞しにくい」ということ。
配線は短いほど速度面でも消費電力の面でも有利になる。「同じパッケージ」の中に入れてしまう前提で設計することで、最短に近い距離で「広い専用道」をつくってしまう、というのがUltraFusionだ。
UltraFusionでは1万以上の信号線を接続し、2つのダイの間での通信帯域は「2.5TB/秒」。この速度は、M1 Maxとメインメモリーの間をつなぐ経路(400GB/秒)の6倍以上、M1 Ultraのメモリー帯域(800GB/秒)の4倍に達する。
UltraFusionの帯域は「2.5TB/秒」。低遅延であり、つながったプロセッサーを使っても動作が遅くならないようつくられている。
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ただ、それを実現する方法がかなり特殊だ。
あらかじめ組み合わせて使う前提で「発表済みのM1 Maxに、最初からもう1つM1 Maxをつなぐことを前提とした機能を入れておいた」という。
これが、スルージ氏のいう「M1 Maxの秘密」だ。
組み込まれていたのは、2つのM1 Maxをつなぐ仕組みだけではない。
2つのプロセッサーがあると、ソフト的には開発が面倒になる。そこでM1 Ultraは、2つ並んだプロセッサーが「ソフトからみると1つに見える」仕組みを導入している。
M1 Maxに、自分自身が搭載しているCPUやGPUだけでなく、「UltraFusionでつながったもう1つのM1 Maxの中のCPUやGPU」をコントロールする機能を載せていたのだ。
ソフトはそこにアクセスすることで、2つのプロセッサーに搭載されたCPUコア・GPUコアを「1つのプロセッサーに搭載されたもの」として動作するようになっていたわけだ。
M1 Maxは最大10のCPUコアを搭載しているが、M1 Ultraは10+10、20のCPUコアを搭載した「1つのプロセッサー」として働く。
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M1からM1 Pro、M1 MaxからM1 Ultraへの流れは非常に一貫性が強い。M1開発の当初から、「エントリー向け」「プロ向けノート」「ハイパワーデスクトップ」というエリアを分け、そこにうまくはまる設計と構造を組み立てているわけで、まさに「深謀遠慮」だ。
ライバル並みの性能を「ずっと低い消費電力」で
クリエイター向けのデスクトップである「Mac Studio」。
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アップルは発表会の中で、M1 Ultraを搭載した「Mac Studio」の性能を過去のMacと比較しつつ、既存の高性能PCとの間では「同じ電力でどれだけのパフォーマンスが出せるか」で比較している。
この比較からは、アップルがM1シリーズをどのような思想で設計したかがよくわかる。
プロセッサーはピーク性能の良し悪しで語られがちだ。確かにその点が重要なのも疑いはない。
一方、「快適に使う」という観点で考えるとまた別の側面がある。
性能としては「他社のトップクラス」が出るのであればそれ以上を無理に目指すのではなく、トップクラスの性能をより低い電力で出せるように工夫する、という考え方だ。
そうすると消費電力は減り、プロセッサーの発熱も抑えられ、放熱機構もシンプルで動作量の少ないものになり、マシンの発熱と騒音が減る。
16コアの他社製CPUと比較した場合、同じ電力では90%性能が高く、同じ性能で比較すると「100W少ない電力で動く」という。
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M1の時からアップルは「処理性能対消費電力」という比較を好んで使っているが、M1 Ultraではそれをさらに強調した。
「M1 UltraのCPUは、他社と同じ電力で90%高いパフォーマンスを発揮するが、その時は100Wも少ない電力でいい、ということになる」
「GPU性能は、他社の一般的な外付けGPU製品に対し、3分の1で同じ性能を発揮する。他社のハイエンドGPUと比較した場合には、200Wも少ない電力で同じ能力を発揮する」(ともにスルージ氏)
GPUの動作効率はCPU以上によく、最高性能のGPU(NVIDIA GeForce RTX 3090)搭載機に対し、同じピーク性能でも「200W消費電力が下がる」としている。
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実験内容の詳細や基準がわからないので、その数字を鵜呑みにするわけにもいかないが、M1 Maxでの実績を考えると「ピーク性能は他社並みだが、ずっと低い消費電力で同じ性能を出せる」ことは間違いなさそうである。
「後日」とされるMac Proはどんなマシンになるか
発表会でMac Proについて「また別の日」とアナウンスしたアップル ハードウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのジョン・テルヌス(John Ternus)氏。
出典:アップル
少し気になるのは、発表会で「Mac Proはまた日を改めて」というコメントがあったことだ。
では、Mac Proはどうなるのか? もっと性能が高いMacも出るなら、Mac Studioの意味は? という感じになりそうだが、冷静に分析すると、おそらく差別化点は「性能以外」にある。
Mac Proがどんなハードウェアかをみると、抜けている要素は明確だ。
他のMacにはない「PCIインターフェースで拡張する」という要素だと筆者は考える。
より多いメモリーを必要としたり、専用のハードウェア接続が必要になったりする「さらに一部のプロ向け」用途をこの先の製品で埋めることで、Macの「自社半導体移行」は完成することになる。それが、「次の機会」に出てくるMacということになるのではないか。
(文・西田宗千佳)
からの記事と詳細 ( 「Mac Studio」でデビューしたアップルの謎の半導体「M1 Ultra」を深掘りする - Business Insider Japan )
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科学&テクノロジー
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