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Friday, May 14, 2021

流域治水関連法 住民の合意形成が大事だ | 熊本日日新聞社 - 熊本日日新聞

 ダムや堤防だけに頼るのではなく、河川の流域全体で多様な対策を講じて水害を防ぐ「流域治水」関連法が成立した。これにより国や県などの河川管理者と市町村や住民、企業などが協力しての防災策が進めやすくなる。ただし、前提となる流域住民の合意形成をおろそかにしてはならない。

 国が流域治水を進める背景には、風水害の多発と被害の甚大化がある。昨年7月の熊本県南部を中心とした豪雨では球磨川などが氾濫、県内で65人が死亡、2人が行方不明となった。2018年の西日本豪雨では岡山、広島などで200人以上が犠牲になった。

 国土交通省は、気候変動によって21世紀末の洪水の発生頻度が20世紀末の2倍になると試算。ダム建設や堤防整備などハード面に重点を置く従来の治水策では、将来の大雨に対応できない恐れがあり、考え方の転換を迫られた。

 関連法は河川法、水防法、都市計画法、建築基準法など9本の法律を一括改正したもので、自治体の権限と役割を拡大した。これにより、浸水の危険が著しく高いエリアは都道府県知事が安全性を確認して許可しない限り、住宅などの建築ができなくなる。高齢者施設の避難体制が不十分な場合、自治体が管理者に勧告する仕組みを設けるほか、高台などへの集団移転促進も拡充する。

 また、雨水を一時的にためるため川沿いの水田を活用する仕組みもつくり、指定エリアの開発行為は届け出制にする。大きな河川だけではなく、中小河川でも避難所やルートを示したハザードマップ(避難地図)を作成し、住民にリスクを事前に周知する。

 ただ、こうした取り組みは住民の私権を制限することになる。事業推進には、住民の理解と協力が不可欠だ。行政は治水策について丁寧に説明し、住民の意見を取り入れながら、合意を形成していく必要がある。

 流域治水を巡っては既に今春までに全国109の1級水系で治水計画策定が進められた。熊本では球磨川、菊池川、白川、緑川でそれぞれ国、県、市町村長が協議し流域治水プロジェクトを決めた。

 昨年7月豪雨で被災した球磨川水系では、河道の掘削や引堤[ひきてい]、輪中堤・宅地かさ上げ、遊水地整備といったメニューがそろった。2008年に蒲島郁夫知事が上流の川辺川ダム計画の白紙撤回を表明して以来、国交省と県・市町村が「ダムによらない」治水策を決められないまま大きな被害を招いたことを考えれば、遅すぎる対応と言っても過言ではない。

 そのプロジェクトは川辺川に新たな流水型ダムを造り、流量を減らすことを柱にしている。ダム建設に対しては今も住民の賛否が分かれている。着工時期も示されず、いつ完成するか不透明だ。

 しかし、災害はいつ起こるか分からない。住民の生命と財産を守るため、関係機関や自治体、住民が知恵を出し合い、今できる治水策を一つ一つ早急に積み上げていかなければならない。

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