2020年春、思いもよらない感染症の拡大で、これまでの日常が一変した。私の周りのアーティストたちもライブが中止になったり、作品の発売が見送られたりと大きな影響を受けたけれど、彼らの生活は大きく揺らがない。その理由に興味を持った。 もしかすると、彼らの生活そのものにそのヒントがあるかもしれない……。これまでもアーティストを見ていて、その人の生き方と生活が強く結びついていると感じることが少なくなかった。歌詞を書き始めてからものを書く人たちにも関心が向いている今、このコーナーではさまざまなジャンルのアーティストの中でも、書くことを生業にしている人たちに焦点を当ててみたい。彼らがどのような生活を送って、言葉を生み出しているか、探っていこうと思う。今回は、ひときわミステリアスな詩人、最果タヒさんにお話をうかがった。 ――最果さんは、顔出しはNGで、プライベートをあまり明かされていないように感じます。その理由を教えてください。 最果タヒさん(以下、最果): 同じ詩でも、違う解釈でそれぞれが読んでいるんだ、と実感することがこれまでとても多くありました。私は作品をメッセージや自己表現として作っていないのもあって、余計に読む人のその時の感覚が、作品の色を変えていくように思います。ですので、できるだけ、作者がどんな人かということに影響を受けないで読まれていたいと思っています。本を読むのは不思議で、その言葉が誰から生まれたのかわからなくなる瞬間というか、自分から溢れでたような錯覚がある時があって、私はそれが好きなのです。こういう人が書いている、というイメージがつけばつくほど、作家の「メッセージ」として読者に受け止められがちですが、それは避けたいなと思っています。それに、作品と生活との間に、あまり関連性はないかなと思っていて。めんどくさがり屋なので、生活にあれこれとこだわる方ではありません。何かをやりたい!と思い立つことがあれば、すぐにやってしまうので、予定も立てないし、ルーティーンもないです。逆にやらなければならないことをやるのはなかなかできません。前もって何かが決まっているというのはすごく苦手です。 ――というと、しっかりご自身の声を聞くことができているということですよね。 最果: やりたくないことがとてつもなく多くて、だからやりたいことに気づけるというだけじゃないかと思います。やりたいと思えるだけで、それは自分にとって大きなことなので、そこでやらない理由が特にないと思っています。昔はいろいろ考えたりためらったりしましたが、そうやって考えてバランスを取っても、やりたいことはなかなか諦められません。絶対に食べたいものは食べに行くし、行きたいところには行く。そうしないと、いつまでもその考えが頭に居座るのです。そこは性質なので、客観的に諦めているのかもしれません。 ――生活の中で、どのように詩を書くのですか? 最果: スマートフォンを使って、どこにいても書きます。お店の待ち時間に書いたり、部屋で寝転んで書いたり。書き始めるとずっとそれしかやりませんが、書きながら、「書ける時」を待つという感じです。私の場合、一気にばっと書くほうがよく書ける気がしていて、そのばっと書ける時間は、書いてないとやってこない気がしています。読者が読むスピードで書けることが一番の理想で、そうすると言葉がとても近く感じられるんです。何を書きたいか、何を伝えたいかを考え始めると、言葉より内容に近づいてしまうので、どうしても遠回りな感じがして、それだと私はうまく完成させられません。もしかしたら「詩を書く」ということを意識するとそれだけで、書けなくなるのかもしれないです。ですので、さりげなく、詩ではない何かを書くつもりで、書き始めることが多いです。自分の気持ちとかは関係ないところに行けると、よく書ける気がします。 ――最果さんのスタンスとして、作品に対しては個人的な感情や気持ちを込めないようにしている、と。 最果: はい。何を伝えたいか、といったことは考えないように、言葉が自分を無視して勝手に書いたような、そんな錯覚がある瞬間を求めています。その方が、驚きに満ちていて、書いていて楽しいです。でも、そうやってできた作品は、私にも全体がちゃんとわかるわけではないので、作品として大丈夫なのかなというのは不安もあります。手応えしかわからないので、それだけを信じていいのかなって。そういうときに編集者さんが感想として自分の手応えと似たことを言ってくれたり、SNSの反応が自分の感覚と近かったりすると安心します。他者がどう読むかということは私にはコントロールしきれないし、そこをわかったつもりにはならない方がいいと思っていますが、かといって自分が伝えたいことを書いているわけではないので、とても淡い手応えだけを道標にしているんだなとよく思います。でも、それを手放すわけにもいかないのかな、と。自分が頼りにしている感覚が、間違ってなさそうだ、とわかると安心するんです。
からの記事と詳細 ( 詩人・最果タヒ、書くときは「何を伝えたいか、といったことは考えない」(telling,) - Yahoo!ニュース )
https://ift.tt/3oKxfI1
No comments:
Post a Comment