宮城県南三陸町志津川の「道の駅さんさん南三陸」が10月1日にグランドオープンする。町が東日本大震災からの復興事業の集大成と位置付ける道の駅の概要や、新たに完成する震災伝承施設「南三陸311メモリアル」の中身を取材した。(気仙沼総局南三陸分室・高橋一樹)
【全体像】商店街と一体、交流創出
「道の駅さんさん南三陸」は、2017年に開業した南三陸さんさん商店街と、新たに完成した建造物や駐車場を含む約2万4000平方メートル全体を指す。
新建造物は三角屋根が特徴的で、建築家の隈研吾氏が「海と山、過去と未来をつなぐ船」をイメージして設計した。総事業費は約14億円。(1)震災伝承施設「南三陸311メモリアル」(2)南三陸町観光協会の事務所(3)JR志津川駅-などで構成される。
中核を占める伝承施設では、津波で831人が犠牲となった町の被害や町民の証言を紹介するほか、防災について来場者に考えてもらうラーニングプログラムを展開する。
道の駅はBRT(バス高速輸送システム)や乗り合いバスを含めた公共交通のターミナルともなる。観光案内所や会議室が併設され、町はイベントや研修への利用も想定。交流人口をさらに拡大する拠点としたい考えだ。
佐藤仁町長は「観光客がより長く滞在し、町民と交流できるような場所にしたい」と力を込める。
【伝承】「自分なら」考えさせる
防災のラーニングプログラムは伝承施設内の専用シアターで行われる。町民の被災体験から「自分ならどう行動するか」を考え、日々の備えを見直すきっかけを持ち帰ってもらう。
プログラムは「生死を分けた避難」「そのとき命が守れるか」など4種類を用意。いずれも町民から集めた証言を基に編集した映像をスクリーンで上映し、場所ごとの避難行動や避難所の運営に関する来場者の気付きにつなげる。
教育旅行向けの映像では、避難所となった小中学校にいた当時の教師や生徒が、仮設トイレを作ったりライトを調達したりした記憶を回顧。町観光協会の職員がファシリテーターとなり、周囲の参加者と議論してもらいながら進める。
町民の被災体験を自分事として捉えてもらい、未来の防災に継承することが主眼。気仙沼、石巻市と比べて震災遺構や被災物が少なく、差別化も意識したという。開館準備室の高橋一清さん(61)は「多くの学校や企業に選ばれ、何度も訪れてもらえる施設にしたい」と話す。
【アート】主体的な学び引き出す
南三陸311メモリアルの館内にはフランスの現代美術家クリスチャン・ボルタンスキー氏(故人)のアートが展示される。ラーニングプログラムの前に心を落ち着かせ、主体的な学びを促す役割を担う。
アートは、四角い鉄の缶を積み上げるインスタレーション。町の犠牲者数と同じ831個の缶が、自然と共に生きることの壊れやすさなどを伝える。
ボルタンスキー氏と町を結び付けたのは仙台市の文化事業ディレクター吉川由美さん。震災前から継続して町民とアートを通じた地域づくりを手がける。吉川さんは「作品空間に身を置くことで日常から視座がずれ、普段見えていない『死』の存在に意識を向けられる」と表現する。
鉄の缶はボルタンスキー氏の構想を基に、南三陸町歌津の三浦板金工業で作られている。社長の三浦豊さん(59)は「求められる色合いを出せるよう、さびの具合を何パターンも試している」と話す。
町は29日、東京都内で開く記者会見でアートの詳細を明らかにする予定だ。
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