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マインドフルネスは、瞑想(めいそう)に起源を持つ心のトレーニングた。集中力を高めるなどその効果から、現在米国を中心に多くの企業のあいだで注目されており、研修にも導入されている。本記事では、マインドフルネスとは何か、そしてその効果と活用事例を紹介する。
マインドフルネスとは
マインドフルネスは、アジアの「瞑想」に起源を持つ心のトレーニングだ。その根本にある思想は、「『今、この瞬間』を大切にする生き方」。未来や過去のことではなくその瞬間に集中することで集中力を高め、脳を活性化、そしてストレスをたまりにくくする効果もあるという。このことから現在、米国を中心にビジネスシーンでも注目が高まっており、実際Googleが社員研修にマインドフルネスを取り入れるといった事例も見られている。
脳の構造を変える! マインドフルネスって何?
早稲田大学文学部長で、日本マインドフルネス学会の理事長でもある越川房子氏によると、マインドフルネスとは、瞑想の手法をベースにして「集中力」を高めたり、自分の気持ちをコントロールできるようにする、いわば“心の筋トレ” のことだという。
では、どのように実践するのが良いのだろうか。マインドフルネスを実践する方法はいろいろあるが、そのなかでもビジネスパーソンが実践しやすいのが「呼吸瞑想」だ。瞑想といっても大げさなものではなく、時間があるときに1日5~10分行うだけでもよいという。呼吸瞑想は、「自分の呼吸に意識的に注意を集中する」瞑想の方法だ。「上手にやろうと思わずに、好奇心をもってやることが大切」と越川氏はアドバイスする。
具体的な手順は以下の通りだ。
【呼吸瞑想の方法】
- 背筋を伸ばしてイスに座る
足を肩幅に開き、肩の力を抜く。 - 視線を斜め前に落とす、または目を閉じる
- 自然に呼吸し、注意を呼吸に向ける
いわゆる呼吸法をする必要はなく自然に呼吸し、息を吸ったときに、おなかの皮が上がって、皮膚が少し引っ張られる感覚を感じる。吐いたときにそれが緩む感覚を感じる(そこにある感覚を味わう感じ)。 - 注意がそれたことに気づいたら、何に注意がそれたのかをそっと心にメモして、注意をまた呼吸に戻す(※1~4を最初のうちは5~10分ほど繰り返す)
呼吸に意識を集中しているつもりなのに、やがて仕事や家族のことなど、さまざまな雑念が湧いてくるだろう。そのたびに、呼吸に意識を戻すのだ。
越川氏によるとここで大切なのは、「しまった、また雑念が湧いてしまった」などと自分を責めるのではなく、淡々と呼吸を戻すことだという。
生産性を上げ、仕事の成果も上げる「マインドフルネス」
では、マインドフルネスは具体的にどのような場面で、どういった効果を発揮するのか。米国クレアモント大学 ピーター・F・ドラッカー伊藤雅俊経営大学院准教授 ジェレミー・ハンター氏によると、マインドフルネスは生産性を上げ、仕事の成果を上げることにも効果的なのだという。
さんざん接待や残業をして頑張っても成果が出ず、疲ればかりたまっていると感じたら、顧客へのアプローチの仕方や働き方を見直すべきだろう。単に勤務時間を短くすればいいというわけではなく、今、なぜ自分はこういう働き方をしているのか、他に良い方法がないのかを自らに問いかける。これを、マインドフルネスを通じて繰り返すことで、効果的な方向を見定め、行動を変えることができれば、求める結果に近づくことができるという。
ナレッジワークの生産性を上げるために必要なのは、ただがむしゃらに頑張ることではない、自分をマネジメントし、的確な目標を立て、最適な方法で仕事を進めることだ。マインドフルネスは、まさにその土台となる精神の状態を作ることなのだと、ハンター氏は強調する。
「耳障りな意見」を集める 経営心理学による危機対処法
また、マインドフルネスは経営者などのリーダーが自己管理をするためにこそ有効だという見解もある。リーダーには目、耳、感性を研ぎ澄ませた観察力が重要だ。仏INSEAD経営大学院のナラヤン・パント教授は、その観察力を高めるのに、マインドフルネスが効果的なのだという。
というのも、マインドフルネスの瞑想(めいそう)は、気づき、自覚のためのプロセスだ。絶対に、厳格な判断をしてはいけない。注意を払い、ただ観察する。また、瞑想やマインドフルネスは、中国や日本など東洋に昔からあったものだが、ユニークなのは、東洋から西洋に来たやり方を心理学者が研究して科学的に体系化してまとめ、それがまた日本など東洋に逆に戻っていっていることだ。日本のビジネスマンがこれを取り入れれば、完全な仕事をすることが可能になるだろう。
マインドフルネスで心を整える
マインドフルネスを活用できるのは、何もビジネスの場だけではない。実際、米国の大学では、学生のためにマインドフルネスが教えられている。スタンフォード大学で心理学を教えるスティーヴン・マーフィ重松氏は、日米どの大学も「いい教育」、言い換えれば、心をベースにした教育があまりできていないと私は感じていると述べる。知識はたくさん教えるが、一方で心を病む学生が現れ始めるのだという。
その典型例が「スタンフォード・ダック・シンドローム」だ。これは、少なからぬスタンフォード大学の学生が陥る症状を示した造語。100人中、5人ほどしか合格できない狭き門を潜り抜けて入学したスタンフォード大学の学生は、余裕があって優雅に過ごしているように見える。しかし、迷いや葛藤、自分はどうあるべきかについて心の中で不安を抱えている人が多いのだという。
実際、全米の学生を対象にしたある調査でも、約8割の人が心の教育を望んでいるという結果が出ている。こうしたことから、心の教育を大学に根付かせて学生を救いたいと私は考えて、マインドフルネスを教えるようになったようだ。
社員は“アスリート”。最良な環境で最大の力を
では、ここで実際にマインドフルネスを研修に取り入れているジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)の事例を見てみよう。本記事では、当時同社でグローバル人事担当のトップを務めていた、ピーター・M・ファソロ氏に話を聞いた。
同氏はインタビュー冒頭で以下のように述べる。「J&Jの企業理念である『我が信条』には、『従業員のために』という項目があります。その視点から生産性向上を考えた時、重要なのは、『いかに我々が社員のために投資をしているのか』という点です。生産性を上げることは、少ないリソースで社員にもっと仕事をさせるということではありません。一人ひとりが心身ともにヘルシーでベストな状態で働けること、この会社で健全なキャリアを積んでいけると感じられることが重要であり、そうした環境を提供するのが我々の役割です」。
こうした理由から、J&Jでは栄養や運動、精神的なアプローチを用いて、それぞれがエネルギー管理に与える影響や効果的な取り入れ方などを1日で学べるようなプログラムに加え、生産性を追求するためのスキルアップトレーニングとして、食生活や英語、マインドフルネスメディテーションを用意しているという。
最後に
ここまで、マインドフルネスとは何か、そしてその効果と事例を紹介してきた。マインドフルネスは、瞑想の手法をベースにして「集中力」を高めたり、自分の気持ちをコントロールできるようにする、いわば“心の筋トレ” だ。これを実践することで、集中力が高まり、ここぞというときにベストパフォーマンスを発揮できるようになったり、仕事を効率良く進められるようになる。マインドフルネスは現在、米国を中心に広がっており、その波は数年前からここ日本でも注目が高まっており、日本企業でも活用が広まる可能性もある。今後もその動向に注目していきたい。
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