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Friday, October 23, 2020

家族とは何か、新しい感覚を見つけられる映画に―河瀬直美監督 養子縁組描く「朝が来る」映像化に辻村深月、「よくぞ育ててくれた」 - 時事通信ニュース

2020年10月24日12時00分

「小説で自分が感動した着地点を絶対に外したくなかった」と言う河瀬直美監督(右)と「小説よりもすごく深めてくださった」と言う辻村深月=東京都内

「小説で自分が感動した着地点を絶対に外したくなかった」と言う河瀬直美監督(右)と「小説よりもすごく深めてくださった」と言う辻村深月=東京都内

 カンヌをはじめとする世界の国際映画祭で多数の受賞実績を誇る河瀬直美監督が、直木賞作家の辻村深月の小説「朝が来る」の映像化に挑んだ。特別養子縁組を題材に、育ての親と生みの親の両サイドに焦点を当てて「家族とは何か」を見る者に問いかける。作品は今年5月のカンヌ国際映画祭の公式作品にも選定され、今月23日から日本で公開される。

 原作ものを映画化する場合、「私がそのストーリーに感動して、自分自身の中から湧き出るものがないと最後まで責任が取れない」という河瀬が小説にほれ込み企画がスタート。辻村は河瀬の「この映画には(子供の)朝斗のまなざしが不可欠」との言葉を聞き、「作品の核の部分を分かってくださっている。お任せしたいと全身で思った」と振り返る。

 養子の朝斗(佐藤令旺)と幸せな家庭を築いていた栗原佐都子(永作博美)と清和(井浦新)夫婦の元を一人の女性(蒔田彩珠)が訪ねてくる。朝斗の生みの親「片倉ひかり」を名乗る女性は「子供を返してほしい」と二人に迫る。

 彼女は本当に朝斗の母親なのか? 映画は、不妊治療の失敗の末、特別養子縁組制度にたどり着き、養子として迎えた子との間で実の子同様の親子関係を結んだ栗原夫婦の軌跡と、ひかりを名乗る女性の人生をつづる。

 辻村は8年前に直木賞を受賞した直後に、担当編集者から「不妊治療を受けた夫婦が養子をもらう話を書いてほしい」と依頼され、取材を開始。その過程で血のつながりや養子制度に対して先入観を持っていたことを思い知らされたという。特に養親が生みの親に対して「感謝の気持ち」を強く抱いている現実には驚かされたといい、執筆の強いモチベーションになったと明かす。

 河瀬は知人の勧めで小説を手に取り、「映画化して小説と同じような感動を味わってもらえたら」との思いを抱いた。実は河瀬自身、養女として育ち、「自分の体験や生い立ちに非常に近しいものを感じた」。家族をめぐる諸問題を内包した内容に加え、血のつながらない者同士が一つ屋根の下で暮らすシチュエーションにも心引かれるものがあったようだ。

◇養子の視点の描写「まるで詩のようなシナリオ」

 河瀬自身が脚本も手掛けた映画は2部構成的な構造を持つ原作を踏襲。両者をフラッシュバックさせて描く手法は避け、それぞれの人生をじっくりと追いかける。「二つの映画を一つの映画にするような感覚があった。両者の時間軸をどう構成するかが一番の難関でした」

 原作を一度解読して映画のシナリオとして新たに再構築するのは、あたかも「数式を解く」ことにも似た作業で、「何を捨てて何を入れれば、原作を読んだときの感情に持って行けるのか」を重視して脚本を書き進めた。

 そんな苦労を経て完成した脚本は、原作者の辻村も大いに満足できるものに。特に朝斗の視点を通した描写は「まるで詩のようで、読んでいて幸せだった」。これまで自身の小説を映像化する際には、気になった部分を伝えることも多かったが、今回は「ここまで分かってくださっているのなら、たとえ原作とは少し違っていても河瀬さんの思う通りにしてほしい」との気持ちになれたという。

 映画は一組の夫婦と一人の女性の人生を描きながら、不妊治療の過酷さや、望まれない子供を身ごもってしまった女性が直面する困難にも目を向ける。随所に現代の日本社会が抱えるひずみがはめ込まれ、原作ではただの無責任な若者にも見えかねない朝斗の実の父親や、朝斗の母親を窮地に追い込む悪役的な人々の描写にも膨らみを持たせて、「そこに息づく」人間を印象付ける。

 「例えば子供をあやめたりして『すごく悪い人』とニュースなどで報道されるのを見ても、私は『その人がそうせざるを得ない分岐点があったはず』と考えてしまう」と河瀬。脇役を演じる俳優とも、その人物がどう生きてきたのか、さらにはどんな未来が待っているのかをディスカッションして共に人間像を固めていった。

◇ドキュメンタリー手法も駆使し「物語をリアルに」

 養子縁組を仲立ちするNPO法人「ベビーバトン」のシーンには、俳優に加え実際にこの制度を利用して子供を迎えた一般人も出演。一部の場面では監督の河瀬が自らカメラを持ってインタビュアーとなり彼らの生の表情と声を捉える。これは「私自身が作品の世界に関わることで、この物語を現実にしたい」との思いから出た手法だった。

 インタビューの相手には俳優も含まれるが、河瀬は「あそこは完全にドキュメンタリーとして撮った」と言い、虚実が入り交じった映像を違和感なく融合させる。ドキュメンタリストとして映像作家の道をスタートさせた河瀬監督ならではのユニークな発想と、約2カ月をかけたという緻密な編集が生み出したシーンが作品にリアリティーをもたらしている。

 過去の河瀬作品でも顕著だった「光の演出」も健在だ。中でも、朝斗を宿したひかりが海に映える太陽を見つめる場面は屈指の名シーンとして強い印象を残す。原作者の辻村も「小説のあの場面は明らかに何かが自分に降りてきて書けた描写で、この先はもう書けないかもしれない。そこを河瀬さんが凌駕(りょうが)する勢いで撮ってくださった」と感謝する。

 ラストで朝斗の瞳に日が差す場面も、今作を締めくくるにふさわしく、河瀬も「絵力としてすごくよいショットを収められた」と満足げだ。ほかにも、原作で印象的だったシーンの多くがビジュアル化され、辻村は「原作のストーリーの内容だけでなく、映像として作品を分かってくださっている。映画は絵を読むものだと改めて全身で感じました」とたたえる。

 映画化が決まった時には、『生みの親』として作品を『育ての親』の河瀬に託す気分だったという辻村だが、完成した映画を見て「よくぞ無事に育ててくれた」との思いを強くした。「佐都子やひかりについては、今や実母の私よりも河瀬さんや演じた俳優さんの方が詳しいと思う。それほど大事にしてもらっている。それは原作者としてすごく幸せなことです」

 一方、辻村が小説に込めた思いを映像で結実させるため、自らも特別養子縁組について調べ、「本当に正解がない」との思いを強くしたと振り返る河瀬。今作にはそんな彼女が抱いた「日本人が『家族の形は一つじゃなくてもいいのでは』と思えるような、寛容な社会になってほしい」との願いも込められている。

 「過去にこの題材を扱った作品は『そういう子(養子)は不幸な存在』のように描かれるものも多かった。でも、この映画は『いや、そうじゃないよ』と。そんな新しい感覚を見つけてもらえる映画になった気がします」(時事通信社編集委員・小菅昭彦、撮影・入江明廣)

河瀬直美(かわせ・なおみ)=奈良県出身。8ミリのドキュメンタリー作品「につつまれて」などで注目を浴び、初の商業作品として製作した「萌(もえ)の朱雀」で第50回カンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞。その後も同映画祭に数々の作品を出品し、「殯(もがり)の森」がグランプリ、「光」がエキュメニカル審査員賞に輝いた。来年の開催が予定されている東京五輪の公式映画の監督も務める。

 辻村深月(つじむら・みづき)=1980年2月29日生まれ、山梨県出身。「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞してデビュー。「鍵のない夢を見る」で第147回直木賞を受賞した。このほかの代表作に、吉川英治文学新人賞を受賞し、映画化された「ツナグ」、第15回本屋大賞に輝いた「かがみの孤城」など。「映画ドラえもん のび太の月面探査記」の脚本も手掛けて話題となった。

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