世界でも稀な写実絵画を専門とする美術館として、2010年に千葉市緑区に開館したホキ美術館。現代の写実絵画を約480点コレクションして一般に公開し、近年の「写実ブーム」を牽引してきた。開館10周年にして初の東京での開催となる所蔵作品展が、Bunkamura ザ・ミュージアムにて行われている。
光の透き通るガラスや瑞々しい果物、髪の毛1本1本までの質感など、まるで写真と見間違うほどの細密な表現に目を見張る。だが、ただ細かく丁寧に描けば写実絵画は完成するわけではない。ありのままを捉えながらも人間や物の本質までに迫ろうとする表現には、画家がキャンバスへ真摯に向き合った時間が蓄積されているのだ。細部に目を凝らせば、意外とラフに描かれている箇所があるなど描き方には強弱があり、一言に「写実」として括れないほど多様な作風があることに気付く。近寄って筆触に見入りながら、少し離れると緻密な情景がピントが合うように浮き上がるのも面白い。リアルでありつつも、絵画全体に画家の美意識が滲み出ているようにも感じられる。
2019年10月、ホキ美術館は豪雨によって収蔵庫が浸水し、コレクションの2割に当たる100点が損傷するなど大きな被害に見舞われた。その後、被災作品の修復作業が行われ、20年8月にリニューアルオープンすることが決まったが、依然として長期にわたっての臨時休館を余儀なくされている。そして本展覧会も新型コロナウイルス感染拡大防止のため4月6日で中止となり、6月11日に特別展として再開催された。
ホキ美術館の創設者である保木将夫は、開館に際し「癒しの美術館にしたい」と語っている。コロナ禍のいま、まさに人々に求められているのが、こうした静かな感動を呼ぶ写実絵画ではないだろうか。会場に並んだ約30名による70点余りの絵画を鑑賞していくと、久しぶりに絵画を鑑賞する喜びに満たされるとともに、モチーフのすべての質感を絵具で写し取ろうとする画家のストイックな挑戦に胸が熱くなる。
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June 19, 2020 at 04:00AM
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超写実絵画の静かな美、ホキ美術館の作品群をBunkamuraで堪能する。 - Pen-Online
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