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Tuesday, May 19, 2020

「クラウド」とはそもそも何か? 今あらためて学ぶ歴史と基礎知識 - ITmedia

 米サンノゼで開催されていたイベントにおいて、米Googleの元CEOであるエリック・シュミット氏が「クラウドコンピューティング」という言葉を使い、それが世間に認知されるきっかけをつくってから今年で14年。クラウドの概念や、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure(Azure)、Google Cloud Platform(GCP)といった各種クラウドサービスはすっかりビジネスの現場に定着した。

 昨今は企業がITシステムを導入する際、クラウド活用を第一に検討する「クラウドファースト」という概念も登場。公共機関にも広がり、2018年には日本政府が「クラウド・バイ・デフォルト原則」(各省庁で情報システムを構築する際、クラウドサービスの利用を第一に考えるという方針)を掲げるまでに至っている。

 ただその一方で、いったんパブリッククラウドを導入したものの、コストやセキュリティの観点から、オンプレミスやオンプレミス型プライベートクラウドに切り替える「オンプレ回帰」なる現象も一部で生まれている。とはいえ、クラウドが官民問わず、ITインフラの重要な選択肢として定着したことに変わりはない。

 そこで本連載「基礎から学ぶクラウドの進化」では、クラウドの基礎知識を解説しながら発展の歴史を振り返り、その現在と将来について考えたい。初回となる本記事ではその前座として、本題に入る前の基本的な知識を整理しておこう。

photo 本記事では、クラウドコンピューティングの基礎知識について整理する

クラウドの登場

 前述のシュミット氏の発言とは、06年8月9日のイベント「サーチエンジン・ストラテジーズ」での一幕を指している。

 この中で、当時GoogleのCEOを務めていた同氏は「そのモデルは、データサービスとアーキテクチャがサーバ上にあるべきだという前提から始まっています。私たちはそれを『クラウドコンピューティング』と呼んでいます。それは『クラウド』上のどこかに置かれています。そして適切なブラウザやアクセス権さえ持っていれば、手にしているのがPCなのかMacなのか、はたまた携帯電話なのかBlackBerryなのか、あるいはこれから開発される新しいデバイスなのかに関わらず、クラウドにアクセスできるのです」と述べた。

 彼の発言からも分かるように、「クラウドコンピューティング」という言葉が使われたのは、この場が初めてではない。現在「クラウド」として知られるコンピューティングリソースの提供・利用形態は、06年よりも早い時期から、当時の技術者たちからそのように呼ばれ始めていたのだ。

 振り返れば、1990年代後半のパーソナルコンピューティングの世界では、情報処理の際に端末側にあるデータやリソースだけを使うのではなく、インターネットを介してアクセスできるそれらを利用する形が生まれ始めていた。シュミット氏自身、1990年代から、「雲の中のコンピュータ」(computer in the cloud)という表現を使っていたと伝えられている。その意味では、潮流の変化は1990年代後半から始まっており、それが2000年代前半のさまざまな技術的進化を経て行われたのが、前述のシュミット氏の発言だといえる。

クラウド普及の転機

 また、Googleの代表的なSaaSであるGmailは、04年にβ版がリリースされ(当時は招待制だった)、06年から誰でも登録して利用できる形に切り替えられている。当時のGoogle Apps担当者へのインタビューによれば、07年7月の時点で、Gmailのアカウント数が1億に達している(現在は15億を超えている)。従って06年の時点で既に、クラウドは身近なサービスとして定着が始まっていたのだ。

 この発言があった06年から08年にかけての時期を、クラウドの転機と捉える声は多い。06年にはAWSがAmazon Simple Storage Service(S3)とAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)を、08年には米MicrosoftがAzure(当時はWindows Azure)、GoogleがGoogle App Engine(GCPの一部)を発表するなど、企業向けのサービスが相次いで登場したためだ。

 このタイミングは、米国を中心とした景気後退の時期(07年のサブプライムローン危機、08年のリーマンショック)と重なったため、企業がITインフラにかかる導入・運用コストを削減する手段としてクラウドに注目が集まったのだ。この時期以降、パーソナルコンピューティングの世界で先行していたクラウドが、企業が真剣に考えるオプションとして定着し始めたといえる。

 有力なサービスの登場によって、クラウドは10年代に入ると、欧米はもちろんのこと、国内でも急速に普及する。総務省が国内企業を対象に行った「通信利用動向調査」によれば、クラウドについて「利用している」もしくは「利用していないが、今後利用する予定がある」と答えた企業の割合は、10年では36%だったが、14年には54.6%と過半数を占めるまでに至っている。ちょうど10年代の前半は、大量データを経営に生かそうという「ビッグデータ」への注目が高まった時期であり、その処理や蓄積を担う方法の一つとしてもクラウドのニーズが拡大した。

クラウドのサービスモデル

 こうして普及と進化を続けた結果、現在のクラウドは多様な形態をとっている。国内外問わずさまざまなベンダーが膨大なサービスを打ち出しており、個々の仕組みを全て把握するのは至難の業だ。そこで本記事の後半では、現代のクラウドサービスの分類について基礎から解説していきたい。

 まずは、NIST(米国立標準技術研究所)が提示したサービスモデルによる分類の基本である、SaaS・PaaS・IaaSについて整理しておこう(図1参照)。

photo SaaS、PaaS、IaaSの機能の違い

SaaS(Software as a Searvice:サービスとしてのソフトウェア)

 SaaSは文字通り、ベンダーがソフトウェアをサービスとして提供する形態だ。利用者である一般ユーザーは、従来のようにソフトを端末にインストールする必要はない。ネットを介してサービスを好きなだけ使って、ベンダーが定める料金を支払えばいい。また、ユーザーが意識するのは自分が操作するアプリケーションのみで、その裏側にあるOSやハードウェアの運用面まで考える必要はない。

 代表例はGmailの他、オンラインストレージのDropboxやビデオ会議ツールのZoomなどがあり、その使い勝手の良さからアプリケーションの種類は拡大し続けている。場所や端末を問わずに利用できるという利便性が評価されたこと、技術の進化によりセキュアで安定して使えることから、企業利用も増えている。

PaaS(Platform as a Service:サービスとしてのプラットフォーム)

 PaaSとは、アプリケーションが実行される環境や、それを開発する環境(プラットフォーム)をネットを介して提供するサービスを指す。利用者となるのは一般ユーザーではなく開発者で、彼らはインフラの準備や維持管理の手間に煩わされることなく、すぐにソフトウェアの開発・提供を行うことができる。またモバイル系など、実現するアプリケーションの種類に合わせた環境を整えているサービスも多い。

 消費者やユーザーの抱えるニーズが急速に変化する現代では、アプリケーション開発のスピードも上げることが求められるようになっており、PaaSの重要性がさらに拡大している。

IaaS(Infrastructure as a Service:サービスとしてのインフラ)

 IaaSが提供するのはITのインフラ部分、すなわちサーバやストレージなどのハードウェア、さらにはネットワークなどだ。従ってその利用者も、企業内でITインフラ周りの運営や管理を行っている担当者ということになる。彼らはIaaSを利用することで、物理的な機器類を管理する手間が省ける他、自社内の需要の増減に応じて、利用するコンピューティングリソースの量を柔軟に変更できる。

 利用料は他のモデル同様、従量課金制や定額制が採用されており、前述のように利用企業にとってはITコストの削減につながることが多いが、「ストレージへのデータのアップロードは無料だが、ダウンロードは有料」のように複雑な料金体系が敷かれ、使い方によってはコスト増になるケースも生まれている。

 これらの主要な「アズ・ア・サービス」以外にも、さまざまなコンピューティングリソースをサービスとして提供しようという流れが生まれている。例えば仮想デスクトップ(Desktop)環境をサービスとして提供する「DaaS」や、開発環境の中でも特に人工知能(AI)に関連するものを提供する「AIPaaS」といった具合だ。今後もリソースをより細分化したり、深化させたりする形で、新たな「”X” as a Service」(XaaS)が登場する可能性がある。

クラウドの実装モデル

 前述の通り、NISTはクラウドを整理するもう一つの方法として、実装モデル(誰が利用可能な形になっているか)による分類を提示している(図2参照)。こちらも基本となるプライベート・コミュニティー・パブリック・ハイブリッドの4種類を解説しておこう。

photo クラウドの実装モデルから見た分類

プライベートクラウド(Private Cloud)

 プライベートという名前の通り、プライベートクラウドを利用できるのは、特定の組織内に所属する人々だ。サービスを提供するのは、利用する組織自体、あるいはその組織からクラウド運営を委託された外部組織となる。プライベートクラウドはさらに物理サーバの所在によって2種類に分けられ、利用組織が所有する施設内にサーバを置く場合は「オンプレミス型」、外部組織の管理下にある施設に仮想的に専用領域を設置する場合は「ホスティング(ホステッド)型」と呼ばれる。

コミュニティークラウド(Community Cloud)

 コミュニティークラウドは利用者を特定のコミュニティー(企業グループや業界団体など)に限定したクラウドで、プライベートクラウドの一形態と見なされることもある。こちらも対象となるコミュニティー自体がクラウドを運営する場合と、彼らから委託を受けた外部組織が運営する場合がある。

パブリッククラウド(Public Cloud)

 プライベートやコミュニティーのように利用対象を限定せず、登録すれば誰でも使えるオープンなサービスがパブリッククラウドだ。サービスを提供するのはクラウド事業者で、利用者は彼らが用意した環境にインターネットや専用回線経由で接続し、それを共有することになる。

ハイブリッドクラウド(Hybrid Cloud)

 これら3つのモデル、さらにオンプレミスを組み合わせて構築されるのが、文字通りハイブリッドクラウドである。エンドユーザーのレベルでは、いま自分が使っているのがどの環境なのかを意識することはないが、その裏側では、リソースやシステムの要件等に従って、最適な環境が選択されている。

進化は現場主導で進む

 このようにクラウドサービスが多様化している背景には、クラウドに対する要求の高度化や変化がある。コスト削減や利便性向上だけでなく、「自社独自の要望に応えられる環境を準備したい」「セキュリティやコンプライアンスにもっと配慮したい」「より柔軟な運用をしたい」といった声を受け、さまざまな在り方が模索されているのだ。また、それを後押しするような技術の進化も進んでいる。

 冒頭で述べた通り、クラウドコンピューティングは、現場で使われている技術に後から名前が付いたもので、理念が先にあったわけではない。それと同じく、現在でもその進化は現場主導で進められているといえるかもしれない。

 駆け足で説明してきたが、前提知識の整理はここまでにして、次回からは具体的なサービスの姿や、主要なクラウド事業者の動きについて見ていこう。

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May 19, 2020 at 03:00PM
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