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Friday, April 17, 2020

パンを作る私、運動する私…外出禁止でも「何かやっている自分」をアピールしたい人たち|月が綺麗ですね 綾の倫敦日記|鈴木綾 - gentosha.jp

ロンドンのあちこちに貼ってあるポスター。
​​​​​​「この日々には必ず終わりがあることを信じてください」と書いてある。
誰が貼ったか分からないけど、心強い

新型コロナウイルスが世界中に蔓延している中、どの国でもスーパーの棚から消えている商品はだいたい一致している。トイレットペーパー、マスク、パスタ。でも、少なくともイギリスではもう一つ、どこへ行っても手に入らない商品がある。

 

それはパンを作るための酵母。ソーシャルメディアを見れば、酵母不足の原因はすぐわかる。コロナの前に飲み会と海外旅行自慢の写真でいっぱいだったFacebookとInstagramのタイムラインには、今や自家製パンの写真が氾濫している。BBCのレシピサイト、「BBCグッドフード」でのパン作り動画のアクセス数は3月末から4月の頭まで700%も上がって、小麦粉の生産者が記録的な繁忙になっている。バナナブレッドとサワードウが一番流行っているらしい。

(イギリスの有名アナウンサー、ホリーウィロビーがインスタで自家製パンの自慢をする。酵母や小麦粉が買えないファンの羨ましがるコメントがいっぱいついている)

今年はイースターとユダヤ教の祝日「パスオーバー」(過越の祭り)が重なっていて、イスラエル人のルームメイトはユダヤ人の伝統的なパンを作りたかった。彼女はスーパーを何軒まわっても、結局酵母が手に入らなかったので激おこぷんぷん丸していた。

こんな大変な時に、ミレニアル(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代)の皆様はなんでパン作りに夢中になっているのか? もちろんパン屋さんが閉まってるっていうこともあるけど、みんなが自慢げにソーシャルメディアに投稿しているのには深い意味があると思う。

私の世代、ミレニアルたちは常に自分のスイッチをオンにしている。私たちはスマホやネットがない人生を知らない。友達、仕事、ニュース、ありとあらゆる人・情報と常につながっていて、そうでない時を覚えていない。仕事とプライベートの時間の区別が付かなくなっていて、本当の休みを知らない(いつも「オン」になっていて、仕事からの休みもそうだし、友達や情報からの休みもそうだ)。

それと、同世代でロンドンに住んでいる人たちはみんな「効率」「生産性」が大好き。「仕事の効率を上げる3つのコツ!」的なポッドキャスト、「ビル・ゲイツは寝る前にいつもやっていること!」的な記事、「趣味を副業にしてお小遣いを稼ごう!」的なテッドトークが好き。会社の同期は仕事とプライベートの目標を特別なアプリで管理している。計画性を持つのはいいけど、そんなのロボットっぽくて私には理解できない。

だから、世界保健機関(WHO)が去年、「燃え尽き症候群」を正式な病気に認定したのは偶然ではない。常に「何かをやらなければいけない」と思っている私の世代はすぐ「バーンアウト」(燃え尽き症候群)しちゃう。

ロンドンに住んでいる多くのミレニアルたちは、外出禁止になっても自分は「何かをやっている」をまだ周りにアピールしたい。美味しそうなパンを作ってソーシャルメディアに投稿するのはこの症状の一つ。だけど、パンだけじゃない、パズル作ったぞー、家ですごい運動したぞー、とみんなが自分自慢をしている。

ロックダウンは退屈だから、暇つぶしに楽しいことをやるのはとってもいいことだけど、それを人に見せて自己肯定感を得るのはちょっと危ないと思う。イギリスのNPO、メンタル・ヘルス・ファウンデーションの調査によると、他人と自分を比較することにストレスを感じる割合は上の世代より若い世代の方が高い。ストレスをたくさん感じる18~24歳の人の半分は、「自分を他の人と比較するのがストレスになっている」と答えた。そもそも他人と自分を比較するのってストレス。でも、やらないといられないからもっとストレス。この状況が続くと、どんどん自分を追い込んで「ロックダウン・バーンアウト」しちゃう人も出るんじゃない?

こういう時こそ、会社の責任は実は大きいと思う。在宅ワークはオンとオフの切り替えが難しい。「在宅ストレス症候群」「在宅燃え尽き症候群」を生まないためにも、今こそロンドンの会社は社員にきちんと休みを取るよう促さないといけない。子供を持っている人、在宅勤務の人たちは仕事を少し減らしていい、と積極的かつオープンに認めるべきだ。「異常の中で正常に働こう」と旗を掲げている私の会社は、少しこのあたりの理解が足りていないけど、世の中には素晴らしい会社もある。友達の会社は4月に社員に有給を2日追加した。「メンタル・ヘルスや家族のために使ってください」と彼女は上司に言われたそうだ。

趣味で絵を描いている友達がいる。彼女はインスタグラムによく作品を上げてたけど、最近見てなかったから、先週Zoomで話した時に理由を聞いた。

「今あまり絵を描く気になれない。むしろ彼氏と一緒に親しい友達の心を支えてゆっくり休むことの方が今は大事じゃないかと思ってる。人を支えるのはすごいエネルギーを使うので、絵なんか描けない」

彼女の考え方を見習いたい。

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April 16, 2020 at 02:01PM
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