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Thursday, April 16, 2020

オランダ・サステナブル通信第2回:Unbreaking ニュースとは何か? - Esquire

 取材レポートの前に、私(筆者)の住むオランダにおける新型コロナウイルスを巡る現状を報告します。 2020年2月27日(木)に国内で最初の感染者が確認されてから約6週間が経過した現時点(同年4月14日)、感染者数は2万7419人で死亡例は2945人となっています。

 日本で最初の感染例が報告されたのが同年1月16日(木)であったように、日本から1ヵ月あまり遅れての発症者の発見となったわけですが、あっという間にオランダのほうが感染者の数は圧倒的に多くなっているのが現状です。オランダは小国であり、その人口も日本の7分の1ほどなのに…。

 そして同年3月13日(金)夕方のオランダ中央政府の発表をもって、同月15日(日)から接客業や施設は全て休業。可能な限りのテレワーク(在宅勤務)が推奨され、教育機関は保育園から大学まですべて臨時休校が決定。現在ほぼ全ての学校がオンライン授業を行っている状況となっています(現時点で少なくとも、4月28日までの現状維持が決定)。

 スーパーなどの小売店は営業はしています。ですが、6フィート(およそ1.5m)の社会的距離を保つための工夫があちこちに施行されています。イベント・集会に関しては同年6月1日まで禁止であり、個人的な訪問は一度に3人までと具体的な指針も示されています。

 オランダ中央政府は、早期から的を絞った「ロックダウン」で感染のスピードを遅らせることで、医療崩壊を防いで集団免疫獲得を狙う「インテリジェント・ロックダウン」と呼ばれる戦略を実施しています。

 これがが吉と出るか凶と出るかは、私としては吉と出ると読んでいます。なぜなら…、いつも上からの支持に従わない個人主義…程よい言葉で言うなら楽観的なオランダ人には珍しく、政府の主張を自分なりに反すうし、彼ら彼女らにしては動向を見守っているように感じられるからです…。


 今や世界中で、新型コロナウィルスに関する情報は玉石混交(ぎょくせきこんこう)。この人類が初めて遭遇した未知なるウィルスに関しての情報を判断する基準自体、残念ながらわれわれは持ち得ていないでしょう。

 こうした未曾有の事態に際して、本当に信頼できるメディアとは一体どんなものを指すのでしょう。その答えが、ここにあるような気がします。

 それが、オランダ発の有料会員制モデルを実現している「The Correspondent」です。通常は、自社に所属する敏腕ジャーナリストたちの署名記事100%ですが、ここにあるように彼らは新型コロナウィルスに関して、本当に信頼できて読むべき価値のある情報のみをキュレーションするという初めての試みを行っています。

 大袈裟ではなく、今回のように人類が初めて遭遇する事態に、適切に対応するためには適切な情報が鍵を握るのです。新型コロナウィルスに関しては、今まで絶対的であったポリシーを曲げてキュレーションという手法で、価値ある情報を発信しつづけている「The Correspondent」。

 今回は、その「The Correspondent」のオフィスにて、創業者CEOで腕利きのジャーナリストのロブ・ワインバーグに話を訊きに行きました。

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 2013年クラウドファンディングで1.7億円をも集めてスタートした、オランダの有料オンラインメディア「The Correspondent」。当時のクラウドファンディングの世界記録を達成し、鳴り物入りでスタートした完全会員制の有料メディアである。オランダの大手出版社を辞め、未だかつて世界中で誰も成功していなかった、この難しい課題に挑戦しようとしていたロブ・ワインバーグ氏。この「The Correspondent」のローンチに際して、「既存の大手メディアからは『どうせ失敗する』『うまくいくわけがない』と散々言われた」と言います。

 広告を一切入れないこと。記者と読者がともに知見を出し合って、一つの記事を深く掘り下げていくこと。そして、「目の前で起こっている現象」ではなく、「なぜ、それが起こっているのか?」ということを洞察していくスロージャーナリズムとでも言うべきスタイル…。オランダで「The Correspondent」は瞬く間に話題となり、人口1700万人の小国で今では6万人の会員を抱えるメディアコミュニティーへと成長を果しています。

 そこで、下のクラウドファンディングに際してのPR動画をご覧ください。

 

 そんな彼らが英語版「The Correspondent」をローンチするべく、アメリカを拠点に再びクラウドファンディングを始めたのが2018年。「Unbrekingニュース」という言葉を旗印にした、言わば現在のジャーナリズムに対しての挑戦になります。

 これが蓋(ふた)を開けてみれば、またしても世界130か国から4万6000人以上の賛同を得て成立。これは彼らがかつて打ち立てたオランダ版「De Corresponden」のクラウドファンディングの記録を更新し、250万ドル(日本円で2億7000万円ほど)を集めることに成功したことになります。

 その後、準備期間を経て、2019年9月30日にローンチした「The Correrspondent」。今回は創業者でCEOでもあるロブ・ワインバーグに、アムステルダムのオフィスでインタビューさせていただきました。

 上の動画のように、「The Correspondent」のアンバサダーでもあり、ニューヨーク大学のジャーナリズム学科の教授としても名高いJay Rosen(ジェイ・ローゼン)氏もTVショーなどに出演し、積極的にクラウドファンディング成立に向けてのアピールをしていました。そうして現在も、世界各国から1日30人以上が新規メンバーとなり続けているコミュニティーへと成長しています。

 もともと「Correspondent(コレスポンデント)」という言葉は、「特派員」を意味します。「The Correspondent」では読者をただの読者とは見ていない…というわけです。むしろ記事を一緒につくっていってくれる、文字どおりの「特派員」あるいは「貢献者」と捉えています。

 彼らが言うようにいくらリサーチをしても、経験があっても、実は一人のジャーナリストが持っている知見や知識より、大勢の読者のほうにこそ知見や経験が溜まっている。読者である特派員の「知の総和」は明らかに、一人のジャーナリストを凌駕していると認識しているわけです。

 なので読者は、時にその記事の分野の専門家であったり、コミュニティーに深く関与している場合がある。そこで「The Correspondent」では、そうした読者に積極的にコミュニティーに対して知見をシェアしてもらったり、他の気づきを与えてもらったりする「貢献」を積極的に求めています。

 そもそも非常にクオリティーの高い記事ではあるのですが、それを前提としつつも、いわゆる高名なジャーナリストが筆を尽くして記事を仕上げる…というスタイルではありません。

 その結果、「The Correspoindent」はより内容が濃く、深い情報を伝えることができるようになっています。何より、その記事に関しての読者の意見が体系化されていくことが可視化されて共有されるので、さらに議論が深まったり、ある記事をきっかけに当初はジャーナリスト自身が考えてもいなかった側面が見出されたりすることもあるわけです。

 これがいわゆるレガシーメディアとコレスポンデントの大きな違いで、このコレスポンデントという、言わばコミュニティーに属する醍醐味でもあるのです。

 こうしたコンセプトを大事にしているため、コレスポンデントのジャーナリストには実際に記事を書くだけではなく、コミュニティーを積極的につくったり、運営したりすることが求められています。

 もちろん、ここでは「署名のない記事」はあり得ません。すべての記事は、特徴的なイラストのポートレートとともに、どのジャーナリストが書いたのか一目瞭然でわかるようになっています。

 さて、この英語版「The Correspondent」について、まずはロブに「うまく行っているのか?」と単刀直入に聞いてみました。すると…。「すこぶる調子が良い。うまく行っている」と言う答えが…。確かに、2020年の1月現在で会員は世界中で早くも6万人を超えており、今でも毎日平均30人ほどが新規メンバーになっているという。

 そこで英語版の運営体制を聞いたところ、フルタイムのジャーナリストが5人。US、イタリア、ナイジェリア、インドなど世界中に散らばっており、基本的にはリモートワーク。これ以外に編集、コミュニティーマネージャーや、バックオフィス系のスタッフが8人。このメンバーはアムステルダムにおり、合計13人がフルタイムのメンバーとして運営に携わっているということです。

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Kazumitsu Yoshida

 もちろん、これ以外にはパートタイムで記事を書いてくれるようなジャーナリストや記事の内容を深めたり、コミュニティーに参加してくれる「コレスポンデント」が世界中にいるということ。

 一方、オランダ版の「De Correspondent」にはおよそ60人ほどのメンバーが運営に関わっているということなので、それと比べるとかなりの少数精鋭での運営体制と言えます。もっとも、この小チーム体制は「予算の都合によるもの」ということだったのと、同じオフィス内にいるオランダチームからもヘルプを受けていると言います。

最大の課題は
世界中の人が関心を持ってくれる
トピック選定

実は、私(筆者)はCEOのロブには、このインタビュー前に何度か会ったことがあります。また、「コレスポンデント」の全デザインを担っている、デザインスタジオのモンカイとも別件で仕事をしていることもあり、ついでに言うと「The Correspondent」のコレスポンデント、つまり読者ということもあり、さらに調子にのって不躾(ぶしつけな)な質問をしてみました。

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Kazumitsu Yoshida

 「実は正直に言うと、あまり興味を持てる記事がないんだけど…?」。

 そう、ここはアムステルダム。今度は、常にダイレクトを良しとするオランダ人のやり方で質問をしてみたのです。というのは実際、2019年の9月末から始まった「The Correspondent」で、筆者が今までに個人的に興味を持った記事、テーマは「気候変動」関係の記事のみ。強いていうなら、他にはBrexit関係の記事、レイシズム関連。あとは実際には、なかなか読みたいと思うトピックは少ない…。

 おおよそ1日に1本ペースで記事が公開されているので、すでに100本以上の記事が公開されているのですが、なかなか興味を持てる記事が少ないのが読者としても実際、ちょっと残念に感じていたところでした。

 「それが一番、難しいと感じている問題です。つまり、世界バラバラのエリアに住んでいる130カ国の読者が、皆一様に興味を持ってくれるテーマを選び、記事を書くというのは非常に難しいと感じています。オランダ版では、こんなに小さい国ですから、こうした苦労はあまりなかったのです。そもそも我々は、新しいカタチのジャーナリズムやニュースのスタイルを模索しています。そして完全に国境のないインターナショナルなメディアです。しかし、大半の人たちは自分の住んでいるエリアのニュースにしか興味を示しません。もちろん住んでいるエリアが違えば、言語や文化的な違いもありますから。ですから我々も、日々ここから多くのことを学んでいます」とロブ。さらに…

 「そこで我々が今、新たなカタチをつくりつつあるのは、あるローカルの話題であってもそのニュースを読んだ読者が、それぞれの国や地域の事情、経験などをシェアしてくれたり、その知見を加えてくれることによって、地域のニュースを国際的なニュース、話題にしていくというやり方です。自分の知っている限り、我々ほど世界的な、多国籍なメディアはありません。ですから、これは新しいジャーナリズムのカタチをつくる挑戦です。今までにこうしたメディアはありませんから、これは大きなチャレンジなのです」とロブは語ります。

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Kazumitsu Yoshida

 つまり、「コレスポンデント」においては、読者が非常に重要な役割を果たすということなのです。読者の記事への貢献がなにより、その記事のクオリティーを上げていくというわけです。

ジャーナリストは教師のようでもある

 さて、では実際には「どんな基準で記事のテーマを決めているか?」と聞いてみました。

 「まずはその記者が、書きたいという気持ちの熱量で決めている」とのこと。「いわゆる普通のメディアでは、デスクがいて『あなたはこのテーマで書いてください』という割り振りがあって、記事が書かれることが多い。しかし、コレスポンデントは、それとは全くの逆」だというのです。

 つまり、記者が書きたい、私なら書けるという記事を書くということになります。

 またテーマとして基本的なもの、ベーシックなものを選ぶことが多いということのようです。ロブが良く言うのは、「我々が扱うのは日々の天気の話ではなく、気候の話である」ということ。

 つまり天気のように、その日、そのときの目の前の事象だけを扱うのではなく、その背景にあるもっとベーシックな構造や仕組み、あるいは理由などをテーマにするということなのです。要は「What」何がおこったのか?ということではなく、「Why」なぜ起こったのか?ということを掘り下げる、というスタイルなのです。これがUnbreaking ニュースという所以になります。

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 さらに、読者にとって時に新しい知識は、あるジャーナリストが書いた記事がきっかけになることもあります。つまり、ジャーナリストはある意味、教師のような役割もあり、読者が新しい知識や、考え方に触れるための触媒的な役割を果たすことになると言うのです。

 こうしたこと自体、今までのメディアが扱うようないわゆるニュースからは、なかなか発想できないのではないでしょうか? 確かに「コレスポンデント」の記事は、ちょっとした書籍を読んでいるような錯覚に陥ることがあります(実際に、書籍も出版しているのだが)こうしたことからも典型的なニュース記事との違いが少しは伝わるでしょうか。

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Kazumitsu Yoshida

講読料は自分で決める

 最後にこれまたユニークな手法であり、コミュニティーを運営していくためにも、良い手法だと感じたのは、講読料の決め方です。

 実は私も、2018年にクラウドファンディングを行った初期メンバーだけが、講読料を自分で決められるものだと勘違いしていたのですが、実は今でも講読料を自分で決めることができるというのです。

 もともとは、世界中で読まれるメディアでもあるので、その世界の貧富の差を考えているとのこと。全ての人がこの「コレスポンデント」へアクセスできるようにしたかったとのことで、結果的に自分で講読料を決める仕組みになっているとのことなのです。

 最も、多くの人が年間50ドルという講読料を払っているとのこと。つまり、自分たちの記事は年間50ドルの価値がつけられいるのだと認識しているとのことでした。

 読者の中には、「自分は今、所得がないので1ドルしか払えない。でも、働いてお金が払えるようになったら、もっと払う」という連絡をしてきたインドの学生もいたようです。

 Unbreaking ニュースの潮流や、世界では今、何が注目されているのか? そして、その背景には何があるのか? どういう理由があるのか? などとと言ったような、知の探究を世界中の読者と一緒にできるチャンスにあふれているメディアなのです。

 皆さんもぜひ一度、お試し講読をしてみてはいかがでしょうか。

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提供:吉田和充

吉田和充

東京都出身、オランダ在住のクリエイティブ・ディレクター/ブランディング・デザイナー/保育士。経営戦略、広報広告戦略の立案・実施、プロデュース、商品開発、新規事業立ち上げ、海外進出プロデュースなどに携わる。

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