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Friday, April 17, 2020

ウイルスとは何か? 環境ウイルス学者×宇宙生物学者に聞く - 楽待

世界で感染を広げ続ける新型コロナウイルスによる感染爆発の脅威が、日本でも現実のものとなってきた。

「楽待」を運営している株式会社ファーストロジックは、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)・特任准教授の藤島皓介(ふじしまこうすけ)氏と同・特任助教の望月智弘(もちづきともひろ)氏にオンラインインタビューを行った。

ウイルスに対する誤解が多い中、ウイルスや生物学の最先端の基礎研究を行う研究者の立場から、新型コロナウイルスについてはもちろんのこと、「そもそもウイルスとはなにか?」という生物学的な立場からも知識を深めてもらえる内容となっている。全世界を震撼させているコロナ禍を、正しく怖がりながら乗り越えてほしい。(インタビュー日・2020年3月30日)

※インタビュー中の私見はあくまでも2人の研究者の個人的な見解であり、大学及び研究所の公式見解ではありません

●目次
1. ウイルスについての基礎知識

2. ウイルスの歴史と宇宙と生命

3. 学術的にみた新型コロナウイルス

4. 病理学的にみた新型コロナウイルス

【協力】

藤島皓介氏 1982年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科卒業、学術博士(システム生物学専攻)。ELSI EONポスドク、NASAエイムズ研究センター研究員などを経て、現在は東京工業大学地球生命研究所(ELSI)。ファーストロジック・アストロバイオロジー寄附プログラムおよび慶應義塾大学政策・メディア研究科特任准教授を兼任。地球生命の起源、地球外生命探査、火星を含めた宇宙での生命圏を網羅した宇宙生物学の研究を通じて「生命はどこから来てどこへ向かうのか?」という大きな命題に挑戦している。過去に『コズミックフロント』(NHK BSプレミアム)や『又吉直樹のヘウレーカ!』(NHK Eテレ)などに出演。共著に『人は明日どう生きるのか ――未来像の更新』(NTT出版)。

望月智弘氏 東京工業大学・地球生命研究所ELSI 特任助教。専門は100℃近くで培養する熱水中のウイルスを中心とした、環境ウイルス学。世界中の温泉を周る古細菌ウイルスハンター。研究内容は、現代のウイルスの多様性(virosphere)の理解と、生命の起源・初期進化におけるウイルスの役割、また三十数億年前と言われるLUCA(生命の共通祖先)時代のウイルス叢の解明。過去に『又吉直樹のヘウレーカ!』(NHK Eテレ)、『Bilingual News』(podcast)などに出演

1. ウイルスについての基礎知識

―本日はご協力いただきありがとうございます。生物学者の立場から、ウイルスそのもの、中でもコロナウイルスに関してお伺いできればと思います。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

藤島
藤島皓介です。慶應義塾大学で「バイオインフォマティック」という、生命と情報を組み合わせたような学問をやっていました。博士号もそこで取得しています。その時は「古細菌」という、生物の分子の進化の研究をしていました。その後、生命がどこから誕生したのかということに非常に興味を持ち、アメリカに渡ってNASAのAMES研究所に6年ほど在籍しました。日本に戻ってきてからは、東京工業大学の地球生命研究所で、引き続き生命の起源、宇宙における生命に関する研究をしています。

望月
東京工業大学の地球生命研究所の特任助教、望月智弘です。京都大学で修士まで取得した後、フランスのソルボンヌ大学(パリ第6大学)のパスツール研究所で博士課程を行いました。専門は環境ウイルス学で、主に100℃くらいの熱湯に住んでいるような「好熱古細菌」と呼ばれる、生き物に感染するウイルスの研究をしています。

研究の興味対象は、現在の地球上のウイルスの多様性、そこから更にさかのぼって、生命の起源や原始生命の初期進化の時代のウイルスがどのようなものだったのか、原始生命の初期進化にウイルスがどう関わっていたのかに興味を持って研究を行っています。

―さっそく質問に移りたいと思います。現在、私たちは「新型コロナウイルス」と日常的に呼んでいますが、そもそも「ウイルス」と「細菌」は違うものなのでしょうか?

望月
違うものです。細菌とウイルスを混同されている方は多いようですが、それは間違いです。

「真核生物(しんかくせいぶつ)」という言葉をご存じでしょうか。真核生物は必ず細胞と核を持っているという特徴があり、人間や動植物はこの真核生物に分類されます。細菌には核はないのですが細胞からできていて、細胞の中には後で説明する「ゲノム」のほかにさまざまな酵素を持っています。細菌もすごく複雑な生き物なんですよ。

一方、ウイルスはゲノムは持っているものの、粒子の中にそれ以外の酵素はほとんど持っていません。構造的にも両者はまったく異なっていて、細胞は基本的に質膜でできた構造ですが、ウイルスはタンパク質の殻でできています。

―ウイルスというのは、目に見えないものですよね。

望月
そうです。ウイルスは、小さいものだと0.02マイクロメートル(20ナノメートル)くらい、です。例えば、今回の新型コロナウイルスは0.1マイクロメートル。細菌はだいたい1マイクロメートル以上です。1マイクロメートルは1ミリの1000分の1です。つまり、ウイルスは細菌などよりも10分の1、100分の1くらい小さいものになります。

歴史的にも、細菌は顕微鏡が発明された頃にはすでに見つかっているんですが、ウイルスは「そういう存在があるらしい」ということがわかってきたのが19世紀末ぐらい。その頃はまだ光学顕微鏡しかなくて、誰もウイルスを見ることができませんでした。ウイルスは物質なのか液体なのか粒子なのか、ずっと議論されていたんですが、粒子であるとわかるようになったのは、20世紀前半に電子顕微鏡が発明されてからだと思います。

そもそもウイルスは、細菌とは違って「生命」の定義に入るかどうかも議論になるものなんです。厳密に言うと、どちらかというと生命でない、物質として考える人が多いかなと。そういう存在です。宿主となる細胞に感染しなければ増えることができないという、完全なる寄生体ですね。

―いま、生命の定義とというお話がありましたが、そもそも「生命」はどう定義されているのでしょうか?

望月
人によって定義が違ったりもするんですが、基本的には、

1. 自己増殖できる(ゲノムをもっている)こと
2. 自分でエネルギーを作り出せること

が生命の定義だと言われます。ウイルスは「ゲノム」を持っていますが、自分自身だけでは絶対に増えることができない。かならず宿主に寄生、感染することが必要になります。つまり、2点目の「自分でエネルギーを作り出す」ことが一切できないんです。なので、2点目の観点からウイルスは生命ではないと考えられています。

―自分でエネルギーを作ることができないため、生物とは違う存在であり、どちらかというと物質に近いというふうに生物学上では捉えられているんですね

望月
厳密な定義に従うとそうですね。ただ、研究の現場では、ウイルスを培養して、それが生えなかったときに「死んじゃった」みたいに言ったりもするので、直感的には限りなく「生き物」的だったりもします。

―さきほどから「ゲノム」という用語が出ていますが、「ゲノム」とは何でしょうか?

望月
「遺伝情報がすべて備わったもの」をまとめてゲノムと呼んでいます。細胞のゲノムはデオキシリボ核酸、つまりDNA (DeoxyriboNucleic Acid)でできています。ウイルスはDNAのほかにもRNAという物質、リボ核酸(RiboNucleic Acid)という物質をゲノムとして使うこともできます。今回の新しい新型コロナウイルスはRNAゲノムウイルスですね。

―DNAとRNAは違うものなのでしょうか?

望月
違います。物質的にも違うし、使われ方も違います。例えば、私達の体の中では遺伝情報を保存するのはDNAです。その情報をタンパク質として発現させるんですけど、直接タンパク質を作るのではなく一旦DNAに入っている情報をRNAに写し取って、RNAに写された情報をもとにタンパク質を作る、という感じで、RNAは中間体として使われています。

藤島
科学的な特性だったり化学構造の観点から見ると非常に似ている物質なんですが、細胞内での使われ方はかなり違いますね。

望月
一方のウイルスは、RNAを遺伝保存物質ゲノムとして使っている、今の地球上では唯一の存在です。

―そもそもウイルスはどんな場所に存在しているのでしょう?

望月
地球上のほとんどの場所にウイルスは存在しています。私たちの体の周りにも風邪を起こすウイルスがいますし、土壌、川の中、海の中などにも存在します。そのほとんどは人に感染するウイルスではありません。ものすごくpHが低いところや、永久凍土の中、また100度の沸騰している温泉の中にも、ウイルスは存在しています。そうした環境に住んでいるものは、そういう特定の環境に住んでいる菌に感染するようなウイルスになっています。

藤島
先程言った通り、ウイルスが増えるための条件は宿主の中ということになります。宿主がいなければ、自分で増えることはできない。なので、ウイルスを増やしている製造装置そのものは、なんらかの微生物なり真核生物なり、生き物ということになります。明らかにウイルスが存在しないところを挙げるとすれば、火の中とかマグマの中とかでしょうかね。

―生き物のいない場所、ということですね。ウイルスによる身近な病気にはどのようなものがありますか?

望月
一番身近な例で言うと、風邪ですね。風邪には細菌性のものとウイルス性のものなどいろいろあるんですが、大半はウイルス性だと言われています。その他にもインフルエンザ、ノロ、エイズ、水疱瘡、ヘルペス、エボラ、肝炎、それから一部の癌もウイルスによるものです。

―人体に入り込んでも症状が何も出ないウイルスもあるのでしょうか?

望月
あります。人に感染しないウイルスであれば、スプーン一杯食べても全然大丈夫です。病気を起こす細菌を殺すために別のウイルスを使う「ファージ療法」と呼ばれる治療法もあったりします。

―では、全てのウイルスが人間にとって悪ではないと言うことですか?

望月
そうですね。地球上に存在しているウイルスの中で人に病気を起こさせるウイルスの割合は、0.000001%とか、それ以下だと思います。

―ウイルス=悪、というイメージが一般的には定着していると思うのですが、望月先生はどう思われますか?

望月
ちょっと(ウイルスが)かわいそうかな、という気はします。人に感染するウイルスに限った場合は、確かに病気を起こす存在であることは間違いないですが、人になんてまったく興味も何もないようなウイルスの方が実は地球上には多く存在しています。先程話した普通の風邪のウイルスも、日常的に我々の体の中に入ってはいるんです。ただ、体の免疫系が戦ってくれるので、必ず症状が出るわけではないですよね。

ーなるほど。ウイルスと一口に言ってもたくさん種類がある、ということですね。ウイルスはどのように分類できるものなのですか?

藤島
ウイルスも、DNAをゲノムに持つものや、RNAをゲノムに持つものなど、少しずつ違うんです。イラストを見ながら、新型コロナウイルスを例としてみてみましょうか。

出典: ViralZone:https://ift.tt/2KbhOpp Swiss Institute of Bioinformatics https://viralzone.expasy.org/254(クリックで拡大)

望月
分類の方法として「ボルティモア分類」というのがあります。この分類方法は、DNAのウイルスかRNAのウイルスか、一本鎖と二本鎖のどちらの構造か、まずそこで大きく分けられています。

その中で、さらにゲノムの配列が似ている物や構造が似ているものをまとめて、「科」として大きくまとめている。例えば今回の場合は、それがCoronaviridae family、コロナウイルス科と呼ばれるものだったので、新型コロナウイルスという呼ばれ方をしています。

さらに、同じ科の中でも「属」としてもっと細かく分かれていて、アルファコロナとかベータコロナ、ガンマコロナなどがあります。今回の新型コロナウイルスは「ベータコロナウイルス属」に入りますね。そのベータコロナウイルス属のなかに、もともと知られていた、20年くらい前に流行ったSARSとか、中東で流行っていたMERSが入っています。一般的な風邪を起こすコロナウイルスが元々4種類知られていますが、そのうち2種類はベータコロナウイルス属で、もう2種類がアルファコロナ属です。

―なるほど、つまり今回の新型コロナウイルスの分類は……。

望月
RNAウイルスの中で、ポジティブ一本鎖RNAウイルスの分類。さらにその中の区分けでいうと、コロナウイルス科ベータコロナウイルス属ですね。

―複雑ですね。ウイルスにはどれくらいの種類があるのでしょうか?

望月
ウイルスにはさまざまなレベルの分類群があるんですが、今、事実上最上位の分類群が「科」です。真核生物とか原核生物とかを全部合わせると、正式登録されているもので130科くらいあります。そのうち十数個が細菌、バクテリアに感染するもので、重複もあるんですが、20くらいが古細菌、極限環境の生き物、原核生物に感染するものです。なので、残りの100弱くらいが真核生物に感染するものです。

その次が「属」、そして「種」と続きます。種レベルまでいくと登録されているものだけでも何千あって、さらに、我々地球人がまだ知らないウイルスの方が地球上にはたくさんあるので、実際の天然環境中で何種あるかと言われたら、かなり膨大な数になると思います。

さらにいえば、今回のコロナウイルスは種でいうと20年前のSARSと同じ種なんですね。だけども、同じ種でも今回は「株」が違う。株とは何かを人間で説明すると……例えば私も藤島さんも同じホモサピエンスで、種としては一緒です。でも個体として違いますよね。そんな感じで、個体として違う、株レベルで違うという分類群なんです。

病気の出方も異なってくるので、ウイルスに関しては株が重要かなと思います。株まで含めるともう本当に膨大な数になってしまいます。ただし先程も言った通り、人に感染して悪さをするものは地球上のウイルスの中ではかなり少数です。地球上のウイルスのほとんどは微生物に感染するだけのウイルスなんですよ。

―さきほど話していた、一本鎖と二本差は何が違うんでしょうか?

出典: ViralZone:https://ift.tt/2KbhOpp Swiss Institute of Bioinformatics https://ift.tt/3exNQtU

藤島
構造が違います。言ってみれば、1本の状態で折りたたまれてウイルス粒子に入るか、2本の状態で入っているかということなんです。

望月
DNAウイルスの場合は、ゲノムの大きさが違います。DNAウイルスだと、二本鎖だとゲノムがすごく大きくなります。一本鎖DNAだと、見つかっている中で一番大きいのは25キロベース(後述)くらい。二本鎖だと、今見つかっているもので最大のものは2.5メガベースくらいなので、すごく大きいですよね。一方、細胞のゲノムは一部例外はありますが、少なくとも基本的には1メガベース以上あります。

RNAウイルスに関しては一本鎖も二本鎖もだいたい30キロベースくらいが上限になっているので、そんなに大きさに違いがないんです。RNAの一本鎖と二本鎖は、なにが根本的に違うかと聞かれると、分類が違ったり、もしかしたら変異が入る率とかは違うかもしれないです。でも、DNAほど劇的な大きな差は私自身は知らないですね。

出典: ViralZone:https://ift.tt/2KbhOpp Swiss Institute of Bioinformatics https://viralzone.expasy.org/245(クリックで拡大)

藤島
RNAウイルスは総じて配列が短いんですよね。今回のコロナウイルスは、RNAウイルスの中では一番長い部類に入ります。

望月
一番ゲノムサイズの大きいRNAウイルスのグループが、このコロナウイルス科。RNAウイルスではゲノムサイズが小さいものだと2.3キロベースなんですが、コロナウイルスは画像内では一番下、サイズが最も大きい27.5キロベースですね。

―「ベース」とはなんでしょうか?

望月
塩基の数です。塩基対というんですけど、DNAとかRNAって、よくATGCとか文字で表されますよね。その文字数を表しています。

藤島
コロナウイルスの最大は31K、Kはキロなので1000を表している。ここでいうと3万1000塩基、文字数ということになります。

出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_045512.2?report=fasta(クリックで拡大)

―つまり、ベースが大きければそれだけ複雑ということでしょうか?

望月
そうですね。

藤島
遺伝子には、ウイルスの膜の一部を形成するものだったり、ウイルスの表面に出ているスパイクと呼ばれる突起を形成するものだったり、それ以外にも感染、侵入するときに必要な遺伝子だったり、さまざまなものがのっている。どんな遺伝子がどこに乗っているというのが、それぞれ遺伝子の2万9000塩基の配列の上に個々の遺伝子が乗ってくることになります。

―人間や細菌の細胞は、全て二本鎖DNAなんですよね。人間と同じように二本鎖DNAを持っているウイルスもいるのでしょうか?

望月
います。その代表的な例が1980年くらいにワクチンで一応地球上からは根絶されたと言われている天然痘です。天然痘は二本鎖DNAウイルスですね。他の環境中、例えば大腸菌とか、周りにいるいろいろな微生物に感染するウイルスの大半は二本鎖DNAウイルスになっています。

傾向として、細胞の中で核を持っていない生き物、これを「原核生物」というんですけど、原核生物は細菌(バクテリア)と極限環境に生きている古細菌(アーキア)というのに分かれて、両者に感染するものは、二本鎖DNAが多いと言われています。人とか植物も含めて、真核生物の中でもさらに、高等生物と呼ばれるものに感染するウイルスは、率としてはRNAウイルスの方が多いと言われています。どうしてそうなのかということは、はっきりしたことは分かっていません。

―DNAウイルスは変異が遅く、RNAウイルスは変異の速度が早いと言われていますよね。

望月
そうです。例えば、インフルエンザウイルスもRNAウイルスですが、同じインフルエンザウイルスでも毎年微妙に型が変わっているんですね。それ故にワクチンも毎年必ず新しいものを作らなければいけなくて、場合によっては効くこともあれば、効かないこともある。それはRNAウイルスであるが故にたくさん変異が起こるためです。

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