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Wednesday, September 7, 2022

不況時に成長する「逆張り経営」とは? - ダイヤモンド・オンライン

上昇する物価と、上がらない給料、そして将来への先行き不安。そんな状況から「投資」を始めた人も多いのではないだろうか。しかし多くの日本人は「投資」と「投機」を混同している。「投資」は、短期間に株の売買を繰り返すことではない。選び抜いた企業のオーナーとなり、その成長を長い期間で楽しむのが「投資」だ。企業を選び抜くには、さまざまな分析と考察が必要である。その思考法が書かれたのが『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(奥野一成)である。「投資家の思考法」を身につければ、投資はもちろん、あなたのビジネスも成功に導かれるはずだ。

不況時に成長する「逆張り経営」とは?Photo: Adobe Stock

コモディティ産業は経済の規模で勝負が決まるが…

 不況時に果断に投資を行うことで事業の経済性を高め続けている企業があります。それは信越化学工業です。信越化学は複数の素晴らしい経済性を持つ事業を営んでいますが、その中でも長年の主力である塩化ビニール樹脂(塩ビ)事業と、この事業の中核である米国子会社のシンテック社についてお話しします。シンテックは北米の塩ビ市場でナンバーワン、約4割のシェアを持っています。

 塩ビは、水道のパイプや家の壁紙、包装材などさまざまなものに使われる汎用樹脂です。完全なコモディティで差別化要素がありません。シンテックが作る塩ビも、競合他社が作る塩ビも物質としては完全に同じものなので、売値は市況次第。その時々の顧客の需要の強さによって決まります。

 この手の事業の場合、その経済性は「規模の経済」で決まります。売り値が同じであれば、安く作れたほうがより儲かりますよね。大量に作って売ることで、単位当たりのコストを下げることができるので、基本的に市場シェアを多く取った企業がより多く儲かる構造なのです。

不況時こそ投資のチャンス

 しかし、シンテックは、米国の塩ビプレーヤーとしては現存する企業の中で最後発、1973年の設立当初は、市場シェアは13位に過ぎませんでした。その後設備投資を重ね、シェアを上げてきた訳ですが、いずれも不況時に大規模な設備投資が実行されたのが特徴です。

 不況時であれば資材価格や建築コストも下がっているので、同じ規模の投資でも安く実施できます。そして、市況が良くなる頃には設備投資が完了し、一気にシェアを伸ばすことができました。逆に好況期は、他のメーカーが塩ビ需要・価格のさらなる上昇を見越してこぞって設備投資をしました。しかし工場が完成する頃には市況の冷え込みと供給過多が起こり、多くの企業が投資を回収できずに市場から退出していったのです。シンテックはそれを尻目に、好況のうちに顧客との取引を長期契約に切り替えて収益を安定させたり、来るべき需要減に備えて中南米に新しい販路を開拓したりしてきました。

 こうして好不況のサイクルを何度も乗り越え、そのたびに強さを増してシェアを伸ばしてきたのです。そもそも米国にシンテックを作ったのも、日本で塩ビの需要が伸びず「オールドエコノミー」とされた頃でした。長期的な需要の伸びが見込まれ、原料である塩とエチレンが豊富に眠る米国に果断に踏み出したのです。

 当初、シンテックは地元企業との折半出資で設立されたものの、やはり不況期に信越化学が持ち分を買い取り100%子会社にしています。

 塩ビというコモディティを扱いながら20%を超える高利益率をあげる背景には、このような「逆張り経営」の積み重ねがあるのです。

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