防衛省・自衛隊は、海洋進出を強める中国が自らの勢力圏確保の目標として設定する「第1列島線」(九州・沖縄から台湾、フィリピンなどをつなぐ線)上にある南西諸島に、対空・対艦ミサイル網の構築を急いでいる。ロシアのウクライナ侵攻で「北の備え」に注目が集まるが、台頭する中国への対応として、自衛隊の部隊を南西諸島に重点配備する「南西シフト」は当面変えない構えだ。
「戦略的な重点が南西にあるというところは、変わりはない」。陸上自衛隊トップの吉田圭秀(よしひで)陸上幕僚長は、3月25日の記者会見で従来の方針を堅持する考えを示した。ロシアのウクライナ侵攻が続くなか、ロシアと国境を接する日本北方への備えについては「北の脅威に警戒を取れる態勢はしっかりと持ちつつ、南西の事態に対する役割は今まで以上に重要になってくる」と話し、中国への対応を優先する姿勢に変わりはないことを改めて示した。
冷戦時代、日本は旧ソ連への構えを重視し、北海道に重点的に部隊を配備してきた。だが、軍事的に台頭する中国が東シナ海や南シナ海への海洋進出を強めると、2010年の防衛計画の大綱で方向性を示した「南西シフト」に大きくかじを切った。
第1列島線上では、陸自がすでに奄美大島(鹿児島)、宮古島にミサイル部隊を配備済みだ。さらに、22年度末の石垣島、23年度の沖縄本島(うるま市)への新設が完了すれば、沖縄本島の南北の海峡をカバーするミサイル網が完成する。
防衛省・自衛隊の構想では、敵の航空機や巡航ミサイルを迎え撃つ「03式中距離地対空誘導弾」(中SAM)で敵からの攻撃を防ぎつつ、敵艦艇を攻撃するミサイル「12式地対艦誘導弾」(SSM)で反撃する。
中SAMの射程は約50キロ。360度の全方向に射撃でき、島の上空全体をカバーできる。小回りのきく中SAMで防御態勢を敷いたうえで、射程約200キロのSSMで、洋上の敵を攻撃する。中SAMとSSMを同時運用し、そこに海上自衛隊の艦艇、航空自衛隊のF2戦闘機も加わることで、有事に対応することを想定する。
南西諸島の4島(奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島)には、中SAMとSSMを組み合わせて配備し、米軍とも連携して、中国の海洋進出の動きに備える考えだ。
陸自はさらに中国の動きをにらみ、電波情報を集めたり、敵の電波を無力化したりする電子戦部隊の部隊増強にも力を入れる。九州、沖縄を中心とした7カ所に計約180人の部隊を順次新設している。
28日には朝霞駐屯地(東京都練馬区など)に、部隊を束ねる上部組織「電子作戦隊」を発足させた。23年度末には沖縄県の与那国駐屯地にも部隊を置く予定で、妨害電波で敵の侵攻を食い止める態勢を整える。陸海空の従来の領域に加え、サイバーを含めた新たな領域を組み合わせた「領域横断作戦」の能力強化に力を入れる狙いだ。
ウクライナ侵攻を続けるロシアの動きに各国が警戒を強めるなかでも、日本周辺での中国軍の動きは引き続き活発だ。2月27、28両日には中国軍の艦艇や哨戒機が、沖縄本島と宮古島の間を相次いで通過。今月16日には東シナ海で中国の偵察型無人機の飛行も確認された。沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺では中国の公船が連日のように領海侵入を繰り返しており、すでに平時と有事の間の「グレーゾーン事態」に入っているとみる同省関係者もいる。
ある自衛隊幹部は「ウクライナで起きていることが南西で起きる可能性はゼロではなく、そこに対する備えは必要だ」と指摘する。その上で「(対中、南西重視の)基軸は何ら変わらない。地元と調整し、南西シフトは淡々と進めていきたい」と話す。
岸信夫防衛相は29日の記者会見で、政府が年内の改定をめざす外交・安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略(NSS)」について触れ、「今回のウクライナ侵略も含めてしっかりと検討していくが、南西方面の防衛態勢の強化は引き続き極めて重要な課題と考えている」と述べた。(成沢解語)
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