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Thursday, July 29, 2021

ロング・アフタヌーン 第187回 葉真中顕 : ロング・アフタヌーン : 連載小説 - 読売新聞

 ねえ、亜里砂、この前ばったりあなたと再会したとき、私、死のうと思っていたんだよ。巻き添えにしてあなたのことも殺してやろうと思ったんだ――なんて言ったら、さすがの亜里砂も驚くだろうか。

 「つまりさ、私たち、もう半分以上、来ちゃってるんだよ。 可笑(おか) しいよね。教室でお (しゃべ) りしていたとき、自分が五〇歳になるなんて想像した?」

 私はかぶりを振る。

 「ううん、しないよ。するわけない」

 あの頃の私は、あと少しで自分が大人になることさえ 上手(うま) く想像できていなかった。

 「ね。でも、想像なんてしなくても時間が過ぎれば (とし) は取るもんなんだよね。あと何年あるのかわからないけれど、なんて言うかな、せっかく生まれてきたんだからいい感じで人生を完成させたいじゃない」

 「完成……」

 私は亜里砂の言葉を小さく繰り返した。人生はいつか終わるものではなく、いつか完成するもの。たとえば物語のように。

 口角が上がるのを自覚した。

 「亜里砂、あなたユニークなこと言うね」

 そんな 台詞(せりふ) が口をついた。同時にわかった。亜里砂が私をユニークと評するときも、こんな気持ちなのか。こんなふうに、温かな親しみを覚えて言ってくれていたのか。きっと高校生の頃から。

 「やだ、ター坊に言われちゃった」

 亜里砂はけたけたと笑った。まるで鐘を鳴らしたように。

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