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Thursday, April 15, 2021

総理大臣記者会見とは何か? - GQ Japan

新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う「緊急事態宣言」再発令の決定後、菅義偉首相に質問するために挙手する記者たち。安倍前総理時代には「回答が事前に準備され、当てる順番まで決まっている」と言われることもあった(2021年1月7日)。

日本の総理大臣はガチンコの記者会見が苦手である。だから事前に記者から質問内容を聞いておき、準備した回答を読み上げることが少なくない。つまり、総理大臣記者会見にはおおまかな台本がある。こんなことが可能なのは、会見に出席できる記者が限られているからだ。

多くの人は知らないと思う。そもそも総理大臣官邸で開かれる記者会見には、誰もが参加できるわけではない。参加できる記者の数が極めて限られている。

かつて、官邸の記者会見室には記者席が120席ほど用意されていた。それが新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年4月7日の記者会見以降、「3つの『密』を避けるため」という理由で29席にまで減らされた。

そのうち19席は、新聞・テレビ・通信社など、いわゆる大手マスコミの記者が所属する記者クラブ「内閣記者会」常勤幹事社の指定席(1社1名)。それ以外の10席は、専門新聞、雑誌、外国プレス、インターネットメディア、フリーランスの記者が抽選で争っている。抽選方法は「あみだくじ」だ。

私のようなフリーランス記者は、抽選に参加するだけでもハードルが高い。まずは官邸報道室に事前登録をしなければならないからだ。

その要件がとにかくひどい。官邸がウェブサイトで公表している条件は、次のようになっている。

1.(社)日本専門新聞協会会員社に所属する記者(国会記者記章の保持者)
2.(社)日本雑誌協会会員社に所属する記者(国会記者記章の保持者)
3. 外務省が発行する外国記者登録証の保持者
4. 日本インターネット報道協会法人会員社に所属する記者で、十分な活動実績・実態を有する者
5. 上記1、2、4の企業又は(社)日本新聞協会加盟社が発行する媒体に署名記事等を提供し、十分な活動実績・実態を有する者

フリーランスである私は「5」に分類される。ここで問題になるのは「十分な活動実績・実態を有する者」としての証明だ。

官邸のウェブサイトには詳細が出ていないが、実際に提出しなければならない書類は山ほどある。まずは前述した各協会の加盟社が発行する定期的刊行物等に「直近3カ月以内に各月1つ以上」掲載された署名記事のコピーを提出する。その記事の内容についても「総理や官邸の動向を報道するものに限る」と、まるで「検閲」のような注文がある。

それだけではない。公的身分証明書のコピーはもちろん、寄稿先から「推薦状」をもらって提出するという理不尽な条件もある。

フリーランス記者と出版社はお互いに「取引先」の関係だ。一般常識で考えれば、取引先に自分の推薦状を書いてもらい、官邸報道室に提出するなんてことはありえない。

それでも高いハードルを越えて事前登録している記者は、私を含めて11人(ペン記者10人、スチールカメラ記者1人)いる。いずれも2012年12月以前に事前登録が認められた記者たちだ。ちなみに新規登録者は8年以上、1人もいない。このままでは総理会見に出席するフリーランス記者はいずれいなくなる。絶滅危惧種と言ってもいい。

そこまで苦労して抽選に参加しても、外れたら参加できない。当選すれば、次回の抽選には参加できない。つまり、1回休み。総理や官邸の動向を追う機会が奪われる。次回の抽選で必ず当たる保証もない。

記者として、もっと悲しいことがある。会見に出席できても、フリーランスの記者にはなかなか質問機会が回ってこないのだ。

ここで驚きの事実を伝えたい。2012年12月26日から7年2カ月以上、フリーランスの記者が質問できたケースは1度もなかった。フリーランスの記者たちが手を挙げ続ける中、手を挙げていないNHKの記者が指名される珍事もあった。これは官僚である内閣広報官が質問者を指名しているから起きたことだ。

官邸報道室は、内閣記者会の記者たちに事前に「質問取り」をしている。冒頭の幹事社質問だけでなく、それ以外の記者からも「何に興味があるか」という形で「質問取り」をしている。そして官僚が作成した想定問答集が、総理の立つ演台上に置かれている。

一方、私のようなフリーランスの記者は事前の質問取りに応じていない。つまり、何を聞くかわからない。だから当てない。また、官邸側が「1人1問」という謎ルールを押し付けるため、総理の回答が不十分でも再質問はできない。つまり、日本では「台本ありきの記者会見ごっこ」がずっと続いている。

この状態になって、すでに10カ月以上が経過した。それでも官邸はリモート技術を活用した記者会見を導入せず、29人の人数制限を続けている。これが民間企業に「テレワーク7割」を要請している政府の実態だ。
日本では、ガチンコの記者会見をできない総理大臣が、今日も官僚の書いた作文を読み上げる。日本は本当に情けない国になった。

PROFILE

畠山理仁

1973年、愛知県生まれ。早稲田大学第一文学部在学中の1993年より雑誌を中心に取材・執筆活動を開始。無名の選挙候補者たちの奮闘に光を当てた2017年の著書『黙殺 報じられない〝無頼系独立候補〟たちの戦い』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞した。

Words 畠山理仁 Michiyoshi Hatakeyama

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