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Friday, April 16, 2021

「為替」とは何か:外国為替相場の決定について - 日豪プレス

今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第66回 「為替」とは何か:外国為替相場の決定について

はじめに

 大学で経済学の講義をする時、また、講演に招かれた時、「為替」について説明するのにひと苦労します。この漢字から「カワセ」とはどうしても読めないからです。このカワセという言葉を使ってさまざまな経済の仕組みを講義するのですが、中にはどうしても「為替」をカワセと読めず、「タメカエ」と読んで受講生を笑わせる学生もいます。

 無理もありませんね。為(ため)と替(かえる)と書いて「カワセ」と読むのですから、初めてこの言葉に接する人は一瞬面くらいます。

 しかし、この「為替」こそが経済事情の中心的存在なのです。そこで今回はこの「為替」を中心に経済問題を考えてみます。

世の中で「為替」の役割

 今、Aさんが東京の自動車会社から1台車を買ったとします。その定価が500万円としましょう。Aさんは郵便局へ行っても現金で500万円という大金を現金書留で送れません。そこでAさんは銀行へ行くのです。銀行の窓口で行員に送金をしたいと言うと1枚の用紙をくれます。そこにAさんは500万円と記入し、送金先を明記すると、その行員はお金を、手数料を取って東京の会社に送ってくれます。

 そうです、銀行はAさんの「為」に、Aさんに「替」わってお金を送ってくれる。それが「為替」なのです。そしてこの為替の仕事は銀行(金融機関)の大切な仕事なのです。Aさんは500万円を国内で送るのですから、これを「内国為替」と言います。さあ、為替(かわせ)の意味が理解できたのではと思います。

外国為替について

 一方、Aさんがアメリカから車を買ったとします。この時が問題で、経済学の講義でしっかりと学ばなければなりません。やはり、Aさんは500万円を持って銀行へ行きます。その時Aさんが「500万円をアメリカへ送りたいのですが」と言いますと、銀行員は、やはり送金の手続きをしてくれます。しかし、その時に発生するのが「外国為替相場」という問題です。

 日本の通貨は円。アメリカの通貨はドルです。そこで日本の円でアメリカのドルを買って送ることになるのです。この日本からアメリカへお金を送ることを「外国為替」というのです。その時、1ドルが何円というドルの値段が大切になってきます。そこで「外国為替相場」という、とても複雑な問題が発生するのです。

 この外国為替をやり取りする時、1ドルは何円という「外国為替相場」が建ちます。つまり、ドルを買うのですから、ドルの値段=ドル相場が建つのです。実はこれが経済事情を複雑にしている元凶なのです。

外国為替相場とは

 世界には約200に近い国があります。どこの国も自分の国の通貨を持っています。日本では「円」、アメリカは「ドル」、豪州は「豪ドル」などです。それは当然ですね。自国通貨を持つことが独立国の「証」なのですから。

 しかし、どこの国といえども外国と取り引きをしなければ生きていけません。その時に必ず発生するのが「受け取り=支払い」という関係です。その時に関係してくるのが外国為替の取り引きで、外国為替相場という複雑な関係が発生してくるのです。

 先の例でも見られるように、Aさんがアメリカから財を購入すると支払いが発生します。その時、その支払いを外国為替で実行するとすれば、そこには「価格」が発生します、つまりそれが外国為替相場というものなのです。

外国為替相場の決定問題

 経済学を学んでいる時、外国為替相場決定問題はとても大切であり、複雑であり、更に難しい問題なのです。人びとは日々、テレビや新聞で、今日1ドルは何円で取り引きされている、という「ニュース」に触れます。それが外国為替の値段であり、外国為替相場というのです。その値段によって日本と外国との貿易量が増えたり減ったりするのです。

 つまり、ニュースで目にする「円高=ドル安、円安=ドル高」という問題が、まさに外国為替相場のことなのです。

 この外国為替相場制度には「固定相場制」と「変動相場制」の2つのシステムがあります。固定相場制とは、例えば1ドル=360円という相場がしっかりと固定しているシステムです。一方、変動相場制とは、為替相場が、為替に対する需要と供給の2つの要因によって「日々」変動するシステムのことを意味します。

 第2次世界大戦後に設立された国際通貨基金(IMF)が、世界の貿易量の拡大を図ることによって戦後の世界経済の復興を成し遂げようとして、国際通貨制度を固定相場制にしたのです。

 日本の戦争が終わって4、5年目にして、国際貿易を開始する時に、日本はどうしてもこの国際組織に組み込まれないと生きていけませんでした。そこで1ドル=360円という相場を確定したのです。

 なぜ360円になったかについては、さまざまなエピソードがあります。戦後、日本経済の復興に大きな貢献をした、アメリカ政府から派遣されたドッジというお方が、「日本が丸く収まるように」という意味で、1ドル=360円というレートを固定したとも言い伝えられています。

 いずれにしても1ドル=360円という、日本にとって大変「有利なレート」で設定され、それが主因となって、日本からどんどん、とりわけアメリカへ物が輸出されていきました。

 私は1960年代の中頃、アメリカのジョージア大学で学んでいましたが、大学のある町のお店屋さんに行くと、所狭しと品物が日本製で溢れていました。私の友人が私に「お前の足の裏を見せろ」と言うのです。私は不思議に思って言われるままにすると、その友人は「おーや、やっぱりメイド・イン・ジャパンだ!」と言ってからかうのです。それほど日本からの商品は町に溢れていました。

 それによって、戦後の日本経済は一気に息を吹き返したのです。知識人は言いました。そんな日本を「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だと。この日本経済の復興を叶えてくれたのが、「固定相場制」だったのです。一方、その相場制のおかげでアメリカ経済は瀕死の状態に陥り、にっちもさっちも行かなくなり、71年8月15日に当時のニクソン大統領は、「金=ドル交換停止」を発表。いわゆる「ニクソン・ショック」という一大事件を世界に作り出したのです。

 これによって日本経済の最大の後ろ盾であった「固定相場」はあえなく崩壊してしまいました。73年の春には国際貿易体制は「変動相場制」によって営まれるようになり、それ以来、日々テレビや新聞の報道によって「今日は1ドル=何円」と言われる変動相場制によって世界経済体制は揺れ動かされるようになったのです。

解説者

岡地勝二

岡地勝二

関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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