日常はとりあえず戻って来たが、何かが変だ。初夏のさわやかな風と眩い光りに包まれたパリはまるで絵葉書のような美しさを誇っているというのに、去年の今頃とは明らかな違いがある。
まず、活気が無い。車も人も戻りつつあるのに、観光客がいないせいで、バトー・ムーシュ(セーヌ川の遊覧船)も、オープントップのダブルデッカーバスも、タイから導入した三輪タクシーのトゥクトゥクも動いていない。タクシーは走っていても、客が乗ってない空の車ばかり。歩いているパリジェンヌたちも近づく夏を意識して肌が露出気味だが、ほぼ全員がマスクをしている。
カフェは2日から再開されたが、テラス席のみの限定再開で、しかも、あのスマートなギャルソンまでもがマスク姿。ぎゅうぎゅう詰めが名物だったテラス席も隣席との間に1メートルの社会的間隔が義務付けられ、利用する側としては安全だけれど、これがスタンダードになった時のパリは絵にならないだろうな、と苦笑した。絵葉書に描かれるパリの光景の中にマスク姿のギャルソンが加わることになるのだから。
辻仁成のパリノート
パリ在住の作家・ミュージシャン辻仁成さんが、新型コロナウイルスで都市封鎖が解除された直後のパリでの子育てや、暮らしの様子を伝えます。
辻 仁成(Tsuji Hitonari)1959年、東京生まれ、パリ在住。作家。89年「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞。97年「海峡の光」で芥川賞、99年「白仏」のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。長男が小学5年生の頃から、シングルファーザーとしてパリで子育てを行う。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Webマガジン「Design Stories」主宰。
いずれにしても、企業もテレワークが中心だし、再開した学校も限定的で、今月予定されていたバカロレア試験(高校卒業検定)もなくなり、子供たちは9月からはじまる新年度へすでに意識が向かっている。7月からバカンス時期に突入するけれど、海外旅行は難しそうで、フランス人は国内旅行を楽しむことになりそうだ。
バカンス命のフランス人にとって、この夏がどのようなものになるのか、観光再生のきっかけになるのか、それとも、このまま静寂を維持し続けるのか、観光業に従事する人たちは落ち着かない日々を過ごしていることだろう。INSEE(国立統計研究所)によると4~6月期のフランス国内総生産が前期比で約20%落ち込むというニュースが流れ、フランス人の財布の紐は硬く結ばれた状態で、ぼくの友人たちも今年はみんなパリで過ごすと呟いている。
新型コロナによってはじまった世界の混乱は、ウイルスが消えないのだからまだしばらく続くことになる。年内は躍動的な展開を期待出来ない一年になりそうだ。けれども、在仏20年になるぼくにとってこれほど静かな、外国人のいないパリを経験したことがなく、この状況を逆手に取るならば、フランスらしいフランスを知る機会となる。
今年は旅行に出ず、広々としたテラス席で、誰もいないパリの長閑な空気に浸りながら、印象派の絵描きさながらセーヌでもじっと眺めて過ごしたい。
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June 02, 2020 at 06:52PM
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「何かが変なパリにて」~ロックダウン後のパリノート(3) - 読売新聞
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