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Wednesday, April 24, 2024

登場人物と喧嘩しながら書き上げた最新作「受け取り手がいて、初めて完成する小説です」|あやふやで、不確かな ... - 幻冬舎plus

「自分以外の人間と完全にわかりあうことなんて不可能であるのに、わかり合えたらと願ってしまう」――。そんな思いから生まれてきた4組の恋人たちを描いた連作小説のテーマは「コミュニケーションの難しさ」。アイドルを卒業後も様々な本にまつわる活動に携わっている宮田愛萌さんが、2作目の小説集『あやふやで、不確かな』を上梓しました。

「自分のなかには、まだ名前のついてない感情のボックスがいっぱいあって、時々それらに自分だけの名前をつけている」という繊細な作業を、日常のなかで繰り返してきたと語る宮田さんが、この一冊に込めたいくつもの思いとは――。

*   *   *

――この一冊には4つの物語が収められていますが、そのすべてに「冴」という女の子が登場します。けれど一話、一話、彼女の見え方は異なりますね。

宮田 ある人にとってはすごくいい子だけど、ある人にとってはちょっと嫌な人かも、という、人の多面性を著したくて、光の当て方を変えようと思ったんです。

冴は私のなかで、この本の主人公なのですが、ゆえにはじめの3話では、冴の視点では書かないことにしました。ひとりの人を捉えようとしたとき、視点人物となる人の価値観がフィルターとなる。相手が変われば、冴だって対応が変わってくるのは自然なことなので、一話、一話、冴の見え方は変わっていきました。

――20代の会社員・冴はどこか掴みどころのない、ミステリアスな存在としても捉えることができます。彼女は宮田さんにとってどんな存在だったのでしょうか?

宮田 読んだ方が自分にとっての「普通」を当てはめられるように、冴の描写は、少しだけ余白を残した描き方をしました。

冴を通し、私はどこにでもいる普通の女の子を描きたかった。恋愛で悩むし、この先の人生、どうすればいいのかなぁと、誰もが抱えるような思いを持つ冴は、明るくて、人に対してもやさしい子。でも周りから捉えられている「自分」は、自分の考える「自分」とはちょっと違っているのかも? という思いを抱えています。

――そんな冴が感じているのは「コミュニケーションの難しさ」。それは4話を貫くテーマでもあります。

宮田 私は人の心や気持ちがわからないんです。相手が、本当は何を考えているかということって、絶対にわからないじゃないですか。「こう思ってるんだよ」と言われても、私が受け取ったその感情と、その人にとっての感情は違うものかもしれない。たとえば「うれしい」という言葉を誰かと発したときも、ふと考え込んでしまんです。周りからは、「それ、同じ“うれしい”でしょ?」とあっさり言われてしまうのですが、それを「同じ」だと受け止めることが自分には難しい。

私は、本のなかで表現されていた感情を自分に当てはめて「あぁ、あの時、私はうれしかったんだな」と、あとから自分の抱いた感情に名前をつけていくタイプなんです。私のなかには、まだ名前のついてない感情のボックスがいっぱいあって、時々それらに自分だけの名前をつけて、仕分けをしていくんですけど、「そんな作業をいちいちしているなんてよくわからない」と人からは言われてしまう。けれど私と同じ思考の人は絶対にいると信じているところがあって。そんな人と、説明しがたいこの感覚を共有できたらいいなと思いながら書いてしました。

一番わかり合えない登場人物と、一番自分に近い登場人物

――冴からの愛が信じられなくなり、自分から別れを告げてしまった伸の話に耳を傾ける場面から始まる第1話「成輝」では、伸と冴が別れたことをきっかけに、自分が恋人のことを愛しているのかわからなくなった会社員・成輝の心理が描かれていきます。この話は執筆中、大変な苦労をされたとか。

宮田 なんでそんなこと言うの? なんでそんな行動しちゃうの? って、成輝と大喧嘩していました。怒鳴り合って、胸ぐらを掴んでみたいな(笑)。

――そのとき、宮田さんのなかで成輝はどこにいたのですか?

宮田 舞台があり、成輝を演じている役者さんがいて、その人に成輝の設定を投げ、彼が成輝を作ってきて……という世界が、私の頭のなかに広がっていました。「こういうシーンがあるから動いてみて」と私が言い、彼に成輝を演じてもらっていたのですが、「なぜこうしたの? どういう気持ちで動いたの?」「こう動いてほしいんだけど?」と言うと、「それは無理!」と彼が返し……というそんなバチバチの状態がずっと続いてしました。

――成輝は自分の気持ちを言葉にしない人。就活で忙しい恋人・桃果のことを気遣い、自分の本当の気持ちも言葉にしません。それは一見、桃果への心遣い、やさしさにも見えるけれど……。

宮田 成輝には、「桃果のこと、どう思ってるの?」とめちゃめちゃ怒っていました。「でも桃果だって自分の気持ち、言ってくれないじゃない?」と彼が言い出して。どうしようもないところに来るまで、成輝も桃果も自分の気持ちを言葉にしなかった。この二人、相性が悪いんだなと思いました。もう一歩だけ歩み寄れば、きっと結末は違っただろうなと思っています。

――第2話「智世」で視点人物となる、冴の大学からの友人・智世は、冴から伸と別れたことを聞き、「二人が別れたのは愛情表現の方向性の違い」と、心のなかで冷静に分析する人です。

宮田 この話は、少女漫画っぽい小説を書きたいと思いました。少女漫画の主人公っぽく、智世は頭で考える、セルフモノローグが入るタイプの子。私もセルフでモノローグを入れてしまうので、そういう点で智世は登場人物のなかで自分に一番近い人なんです。

彼女は人のことをよく見ています。人と人との関係性など、いろんなことに気付いているけど、そこで自分からツッコんだりはしない。でも気付いてはいるので、何かあった時に対応はできる、すごく書きやすい人物でした。

――智世には同棲をしている彼・滉大がいますが、冒頭では、彼との関係を「惰性」だと言っています。でも冴の話を聞き、智世のなかに少しずつ変化が起きてくる。そこで補助線のような存在になってくるのが会社の先輩。チョコレートアレルギーを発症し、自分は食べられなくなってしまったけど、チョコレートは買いたくて、毎朝、買ってきたリンドールを智世にくれる不思議で素敵な先輩です。

宮田 私もリンドール買うのが大好きなんです(笑)。職場の先輩って一緒に仕事をしているので、ある程度は親しいけれど、友だちではないので、境界線みたいなものが引かれている。だから何気なく投げた自分の思いや問い、それに対して返ってきた答えを、「あ、そうか」と素直に受け止めやすいし、逆に「それはわからないな」とか「私は違うな」とそのまま放置もできてしまう。先輩は、智世にとってのそんな存在として描きました。

――「少女漫画っぽい小説を書きたい」と書かれたこの物語は、4話のなかで一番の「恋愛小説」。ラストで智世が放つプロポーズの言葉は、いい意味で衝撃的でした。

宮田 あの言葉は、自分のなかでずっと温めてきたものなんです。「これは全世界の人が胸キュンするプロポーズの言葉だぞ」って(笑)。

人を好きになることへの戸惑い

――第3話「真澄」では、サークルの後輩・真澄の目を通し、学生時代の冴が描かれています。真澄は冴のことを嫌いだけど、好きで……という複雑な思いを抱えていますね。

宮田 好きなのか、好きじゃないのか……。ちょっとめんどくさい男の子にしたかったんです(笑)。

――そんな真澄の前に、彼のことを「好き」という優羽という女の子が現れます。

宮田 優羽は、自分の夢に飛び込んでいく人を描きたくて、現れてきた人物です。彼女はやりたいことがあったのに一度は諦め、普通の大学に行き、卒業をして仕事に就く。けれど「やっぱり自分のやりたいことをしよう!」と前を向くことのできる、勇気と行動力のある女の子です。

――そんな優羽と、そしてなぜかいつも人の視線集めてしまう先輩・冴のことを考えるたびに、真澄は複雑な思いを増幅させていきます。物語のラストには、自分の抱えるもやもやした感情の芯にあるものに彼は名前を付けることができますね。

宮田 はじめ真澄は、優羽と冴を似ていると思っているんです。でもこの二人は全く違う。二人を混同するということは、同じ感情を持ってるからなのでは……? という話になっていきました。

――第3話まで、視点人物にならない主人公・冴は、宮田さんのなかで、どこにいましたか?

宮田 冴は隣にいて、一緒に物語を作っていく感じでした。「私はこう思った」「どうして?」「ここはこうよね?」みたいな対話を彼女とはずっとしていたんです。この連作の芯にいるのは冴なので、そこはブレないよう、互いの意思をすり合わせていきました。

――第4話「冴」では、ついに冴に視点が移り、彼女の本当の思いが語られていきます。冴が話し出すのは、別れを告げてきた伸とのこと。それから半年を経て、やっぱり元に戻りたいと伸が言ってきて……。

宮田 冴と伸は学生時代から三年半付き合っていましたが、冴の伸への「好き」は、自分のことをずっと好きだと言ってくれるし、大切にしてくれるし……と、まるで好きのポイントを積み重ねていった上に成り立っていた「好き」なんですよね。けれど、それを伸が崩したことにより、積み木みたいに重ねてきた「好き」があっけなく崩れてしまった。そして「好き」が崩れた瞬間、急に相手が違う人に見えてくる、言葉一つで、これほどまでに人と人との関係は崩れるんだなということも描いてみたいと思いました。

――冴は、人を好きになるという感情の前で、どこか戸惑っているような気もします。前作の『きらきらし』でも、誰かを好きになるということがよくわからない主人公が登場してきましたが、その実感は宮田さんのなかにもありますか?

宮田 あります。私は人のことを好きになるということがよくわからないし、「好き」を人に向けることもよくわかっていなくて。でも同じように「“好き”ってなんだかよくわからない」という人っていると思うんです。冴の気持ちが理解できるという方は、きっと私と“仲間”だなと思います。

――2作目となる小説作品を上梓された、今の心境についてお聞かせください。

宮田 執筆中は「やっぱり恋愛、わからない!」の連続で、書き終わった瞬間も「もう一生、恋愛小説は書きません」と言っていたのですが、読んでくださった方から、いろんな感想やコメントをいただくなか、気付いたことがあったんです。この小説は、受け取ってくださる方がいて初めて完成する小説なんだろうなって。だから、たくさんの方に読んでいただきたいです。

そして読後に抱いた感情を互いに伝え合っていただけたら。この小説から、そんなサイクルが生まれていったらすごくうれしいなと思っています。

取材・文/河村道子 撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)

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