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Thursday, November 9, 2023

防衛装備完成品を初輸出 中国に対処 警戒管制レーダーをフィリピン軍に ... - nhk.or.jp

日本の大手電機メーカーが製造した防衛装備品、“警戒管制レーダー”がフィリピン軍に引き渡された。防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」に基づき輸出された完成品はこれが初めてで、実現には政府の働きかけもあった。そのレーダーが運用されている現場に今回、NHKのカメラが初めて入り、軍当局者への取材も行った。そこから見えてきたものとは。
(酒井紀之・小尾洋貴・唐木駿太)

日比首脳会談 主役は安保

今月3日にフィリピンを訪れた岸田総理大臣。マルコス大統領との首脳会談は、安全保障分野が主要なテーマとなった。

同志国の軍に防衛装備品などを提供する新たな枠組みを適用し、沿岸監視レーダーを供与することで合意。
自衛隊とフィリピン軍が共同訓練を行う際などの対応をあらかじめ取り決めておく「円滑化協定」の締結に向けて交渉に入ることでも一致した。
その一環で、岸田総理は以下の発言をした。

「警戒管制レーダーの移転を含む防衛装備移転、技術協力をいっそう進めていく」

このレーダーこそ、政府と企業が輸出の実現に取り組み、先月、引き渡しが完了したものだ。

フィリピンでは何が?

フィリピンの首都マニラから車で5時間の所にある、南シナ海をのぞむフィリピン空軍の基地。高さ25メートルあまりのレーダーは、海に面して設置されていた。

司令官は、このレーダーの導入によって、これまで把握できなかった空域や海域での動きを監視できるようになったと胸を張った。

(フィリピン空軍 ロニー・ペティングレイ 航空団司令官)
「稼働は順調だ。最高のレーダーを提供してくれた日本側に感謝している」

フィリピンがレーダーを必要とするのは、南シナ海で海洋進出を強めている中国に対処するためだ。

フィリピン沿岸警備隊の巡視船に接近する中国海警局の船

この基地の沖合およそ300キロの地点には、スカボロー礁と呼ばれる岩礁がある。
もともとフィリピンの排他的経済水域の内側にある豊かな漁場として知られていたが、2012年から中国が実効支配している。
中国はことし9月、フィリピン漁船を入らせないよう障害物を海上に設置。
フィリピン側が、それを除去するなど、両国間の対立は深まっている。

また、その先の南沙諸島、英語名スプラトリー諸島の海域には、中国が2014年以降、7か所に人工島を建設し次々と軍事拠点化を進めてきた。

南シナ海で中国による人工島の衛星写真

このうち3か所では軍用機が離着陸できる3000メートル級の滑走路も完成し、フィリピンは危機感を強めている。

フィリピンは再来年(2025年)までにさらに3基の警戒管制レーダーを、日本から導入する予定だ。

目の前にある危機を着実に把握したい。フィリピン軍の危機感が伝わった。

日本政府の狙い

一方、日本政府が、この輸出を進めたのは、中国という共通の課題を前にフィリピンとの間で安全保障分野での連携を深めたいという狙いがある。

防衛省幹部の1人は、防衛装備品の輸出は、他国との関係を強化する極めて有効なツールだと言う。

「日本と同じ装備品を他国が持つということは、深いつながりができるということ。装備品の維持や整備もあるため、長期にわたって協力関係を構築できる」(防衛省幹部)

ただ今回の輸出。今の輸出ルールである「防衛装備移転三原則」が9年前に策定されてから完成品としては初めて実現したものだ。


その理由について別の幹部は次のように語る。

「日本の民間企業が、防衛部門というのをしっかり設置して育ててきたところが少なく、慣れていない。また企業イメージが悪化するのではないかという懸念から、前向きになれない会社も多い。さらに相手が自衛隊に限られ供給量が少ないので、値段が高いこともある」(防衛省幹部)

日本はこれまでもオーストラリアの潜水艦建造など、参入を試みては失敗してきた。
そうした中、5年前にフィリピンがレーダーをほしがっているという情報が防衛装備庁に。政府は、この機会を逃したくないと考えた。

企業側の思いは?

それは企業側も同じだった。

レーダーを製造した三菱電機は、5年前、タイ空軍が実施したレーダーの入札に参加。
このときはスペインの企業が落札し、受注に失敗。
現地を訪れる頻度が少なかったことと、納入・稼働後の対応についてのアピール不足が要因だった。

その教訓を生かそうと、満を持して臨んだのが今回のフィリピンへの輸出だった。
企業イメージについては「検討を重ねた結果、殺傷能力がない装備品についてはネガティブに考える必要がない」という結論に至った。

海外の複数の企業が名乗りを上げたが、同じ島国で災害が多いなど日本とフィリピンとの共通点をふまえて製品を開発したことや、納入後のアフターサービスの充実などをアピールした。


警戒管制レーダーの紹介映像

本社の営業担当者は足しげくフィリピンの国防省や空軍基地に通い、現地に足を運んだ回数は20回以上に上ったという。
防衛装備庁の担当者も、フィリピン国防省や空軍から情報収集を行い、一緒に調整や交渉にもあたった。
そして3年前、契約が成立した。

「企業と政府が一丸となって『パートナーシップ』を組んでいくことが重要だと考えている。これまでのおよそ10年間で1件しか成功していないという批判的な声もあるが、われわれとしては、その教訓や学ぶべき課題としっかり向き合い、次の10年は結果を出す発展の10年にしたい」(防衛省幹部)

ルール見直しの議論も

こうした防衛装備品の輸出を促進しようと、今、自民・公明両党は輸出のルールである「防衛装備移転三原則」を見直す議論を行っている。

自民・公明両党の実務者協議 11月8日

内閣改造で中断していたが、今月8日、2か月ぶりに再開し議論を加速させていくことを確認した。
焦点は、今は実質、認められていない殺傷能力のある装備品の輸出をどこまで認めるかだ。
これについては「輸出できる装備品を広げてさらに促進すれば紛争を助長しかねない」などと慎重な意見がある。

装備品の輸出は他国の安全保障にどこまで関与していくかという問題でもある。
どこの国に何を輸出するのかも含めて精緻な議論が求められる。

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