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Sunday, July 2, 2023

レビューガウディとサグラダファミリア展東京国立近代 ... - 読売新聞社

東京国立近代美術館で「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が開催中です。
本展はスペインの建築家アントニ・ガウディ(1852~1926年)の建築思想や造形原理を、100点を超える模型、図面、写真等資料でひも解く展覧会。日本ではこれまでにも数々のガウディ展が開催されてきましたが、本展は彼の建築の集大成とも言えるサグラダ・ファミリア聖堂を軸に据えた初めての試みとなっています。

ガウディ建築はいかにして創られたのか その源泉を探る

長らく「未完の聖堂」と呼ばれてきたサグラダ・ファミリアですが、ガウディ没後100年となる2026年にイエスの塔の完成が予定されているなど、いよいよ竣工の時が視野に収まってきました。
ガウディの代表的な建築であるこの聖堂は、彼の哲学や理論がぎっしり詰まった、いわば集大成。本展はガウディ建築を網羅的に紹介する手段は取らず、それぞれの建築に込められたエッセンスを抜粋しながら、サグラダ・ファミリアへと向かっていく構成です。

ニューヨーク大ホテル計画案模型(ジュアン・マタマラのドローイングに基づく)1985年 制作:群馬県左官組合 伊豆の長八美術館蔵

中でも「ガウディの創造の源泉」と題された章では、ガウディの代表的な建築に見られる革新的な造形に触れつつ、その思考や構造をひも解いていきます。
バルセロナの街にそびえるサグラダ・ファミリアは、複雑な外見も相まって一見奇妙に見えますが、当然ながらガウディは思い付きや奇抜さ重視でそういった構造を採用しているわけではありません。しばしば「有機的」と評されることの多いこれらの形状は、彼の哲学や数々の実験から成り立っています。

例えばガウディ建築のトレードマークとも言える洞窟のような形状の「パラボラ(放物線)・アーチ」は、紐や薄い布などを逆さ吊りにし、そのたわみを反転させたものを塔に見立てて骨格を作っていく「逆さ吊り実験」を用いています。
「創造の法則は神の法則。すなわち自然の法則である。自然の法則に合致しないものは成功しない」と言い切るガウディは、力学に則ったこの実験に10年の歳月をかけ、高い安定性を誇る「釣り合いの法則」を自身の建築に取り入れました。

左からコローニア・グエル教会堂、逆さ吊り実験 スケール:1:50 / コローニア・グエル教会堂、逆さ吊り実験(部分) いずれも1984-1985年 西武文理大学蔵
画像右は逆さ吊りの状態が鏡によって反転したもの

そのほか過去の建築のオマージュを試みたり、「建築家は幾何学者」だとして幾何学をベースに設計を行ったりしています。こうした造形原理が随所に見られるサグラダ・ファミリアは、真の意味でガウディ建築の集大成であることがうかがえます。

未完の聖堂、完成迫る! サグラダ・ファミリア聖堂を大解剖

19世紀半ば、バルセロナでは産業革命による人口増加の影響で大量の貧困層が生まれており、そういった人々のための聖堂としてサグラダ・ファミリアは創案されました。
当初はそれほど大きな聖堂を建てる予定ではありませんでしたが、プロジェクトは次第に全ての人を迎え入れる前代未聞の聖堂へと変化。今日までに建設は着工から140年を超え、主任建築家も9代目へと受け継がれてきました。ちなみにサグラダ・ファミリアと言えばガウディの建築というイメージですが、ガウディは2代目の建築家にあたります。

左:アントニ・ガウディ サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:頂華のための幾何学模型 スケール:1:25 制作年不詳(複製) 早稲田大学建築学教室本庄アーカイブズ蔵
右:サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:鐘塔頂華の模型 スケール:1:25 2005-10年 制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室 サグラダ・ファミリア聖堂蔵

140年以上も建設が長引いたのは、財政的な問題や内戦、近年では新型コロナウイルスの影響をはじめとする諸問題が原因です。しかしガウディはなかなか完成しないことを悲観するどころか、幾世代にもわたって作られることが重要であるとも考えていました。「サグラダ・ファミリアの軌跡」の章ではこのような建設の歴史はもちろん、細部を含めた驚きの構造を大解剖し、建設のプロセスを明らかにしていきます。

会場風景 アントニ・ガウディによる石膏像の展示も

また、本展ではガウディの彫刻術にも着目しています。貧しい人のための聖堂として創られたサグラダ・ファミリアは、文字が読めない人でも聖書の内容を視覚的に理解できるよう写実的な表現を持つ彫刻が多数配されています。しかし彫刻を用いた理由は、それだけではありません。
1978年以来、サグラダ・ファミリアの建設に携わる彫刻家の外尾悦郎さん曰く「(建物の構造的に)脆弱な部分にシンボルを置くことで、構造を支えている」のだそう。饒舌ともいえるあの装飾は、在るべくして在るものなのだということがわかります。

外尾悦郎 サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:歌う天使たち サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面に1990-2000年に設置 作家蔵

会場には外尾悦郎さんによる「降誕の正面」の彫刻群も展示されています。これらは石膏模型として1990年に作られ、2000年に石像が完成するまでの10年間、実際に「降誕の正面」を飾っていたもの。天使たちの様子を間近で見られる、大変貴重な機会となっています。

1926年6月。ガウディはミサに行く途中、路面電車にはねられこの世を去りました。本人の遺言通り葬儀は質素なものでしたが、遺体を運ぶ馬車の周りには大勢の市民が駆け付け、街路は人で埋め尽くされたといいます。

アントニ・ガウディ ガウディ・ノート 1873-79年 レウス市博物館蔵  建築に対する考えを書籍や論文として著すことのなかったガウディが、若き日の建築論を書き留めたノートも来日している

ガウディが生涯をかけて心血を注いだサグラダ・ファミリア。一度訪れたことがある人も、いつか訪れたいと思っている人も、この聖堂に込められたガウディの建築思想や創造力、そして受け継がれる意思に触れてみてください。
「人間は創造しない。人間は発見し、その発見から出発する」という彼の言葉のとおり、ガウディの軌跡が新たなアイデアをもたらしてくれるかもしれません。(ライター・虹)

ガウディとサグラダ・ファミリア展
会場:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)
会期:2023年6月13日(火)〜9月10日()
休館日:月曜日(ただし7月17日は開館)、7月18日(火)
開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般2,200円、大学生1,200円、高校生700円、中学生以下無料
詳しくは、展覧会公式サイト
巡回情報
・2023年9月30日(土)~12月3日(日) 佐川美術館(滋賀県)
・2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日) 名古屋市美術館(愛知県)

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