来春に予定される北陸新幹線の敦賀(福井県敦賀市)延伸まで1年を切った。沿線では整備が進み、先月下旬には東京と敦賀が一本のレールでつながった。新幹線が開通すれば、東京と福井の移動時間は3時間を切り、首都圏との往来増が期待される。一方、これまで結びつきの強かった関西方面との直通特急はなくなることから、「関西離れ」を懸念する声も上がる。(長沢勇貴、仁木翔大)
先月27日、延伸区間の中間地点に近い芦原温泉駅(福井県あわら市)で金沢―敦賀間(約125キロ)の「レール締結式」が行われた。沿線自治体の首長ら約400人が参加。関係者が最後のボルトを締めると、会場は祝賀ムードに包まれ、杉本達治・県知事は「100年に1度のチャンス。県内初の新幹線を県民挙げて歓迎したい」と語った。
北陸新幹線は、東京と大阪を日本海側経由で結ぶ総延長約700キロの路線。2015年に金沢までが開通し、来春に敦賀まで延伸される。延伸後、福井―東京間は2時間53分となり、米原駅(滋賀県米原市)で東海道新幹線に乗り継ぐ現在と比べて約30分短縮される。
新幹線の開通は地域経済にも大きな影響がある。日本政策投資銀行北陸支店の推計では、金沢延伸後1年目の石川県内への経済波及効果は678億円。新幹線利用者は926万人と、当初予想の690万人を大きく上回り、金沢市を中心にホテル建設や都市部からのオフィス進出が相次いだ。
このため敦賀延伸への期待も大きい。首都圏から福井県への来訪者は、現在の倍の約71万人と推計されており、県は6月から、首都圏の主要駅に観光地のポスターを掲示するなど観光誘致のPRに力を入れ始めた。
一方、利便性が低下する面もある。北陸と大阪や名古屋を結ぶ「サンダーバード」などの特急は敦賀止まりとなり、関西圏と福井との往来には敦賀駅で新幹線などに乗り換えが必要となるからだ。福井―新大阪間の所要時間は、最短で1時間39分と現在より3分短縮されるが、料金は860円上がる予定という。
現在、福井県内を訪れる観光客は7割が関西・中京圏から。「関西の奥座敷」として知られる「あわら温泉」の旅館の は、首都圏からの観光客増を期待する一方で、「特急1本で行ける城崎温泉(兵庫県豊岡市)などに客が流れないか」と不安を漏らす。
特急がなくなる上、新幹線駅もできない地域の懸念は、さらに大きい。新幹線福井駅と越前たけふ駅の間に位置し、眼鏡フレームの国内生産シェアの9割を占める福井県鯖江市。「めがねのまち」としてブランド化を進めるが、眼鏡店を営む男性(49)は「新幹線がつながらず、首都圏に『鯖江』の名が届くことも期待できない。関西とも心理的な距離が遠くなりそう」と話す。
関西の観光客をつなぎとめようと、福井、石川、富山の3県は、JR大阪駅前に来春完成する複合ビル「JPタワー大阪」内にアンテナショップを出店する。食や観光の情報を発信し、関西圏へのPRも強化する考えだ。
ただ、46年と想定される大阪までの全線開業は、着工認可の前提となる環境影響評価(アセスメント)が京都府内で遅れており、現時点で着工時期も見通せない。全国を高速鉄道でつなぐ整備新幹線計画に詳しい青森大の櫛引素夫教授(地理学)は「移動時間の短縮は、生活圏や文化圏の変化につながり、北陸地方の首都圏シフトが進むだろう」と指摘している。
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