冷静に考えてみると、「同じ開発部署の中で、ふたつの超大作RPGの制作が並行している」とは、どういうことなのか。いや、「そんな状況あってたまるか」と思うかもしれないが……それは、スクウェア・エニックスの第三開発事業本部で実際に起きていた。
ついに発売が間近に迫る『FINAL FANTASY XVl』(以下、『FF16』)。そして、今もなお全世界で光の戦士を増やし続けているMMORPG『FINAL FANTASY XlV』(以下、『FF14』)。そんな「ふたつのFF」の開発が、スクエニの第三開発事業本部ではここ何年も並行していたらしい。
しかも、開発メンバーも一部同じである。プロデューサーの吉田直樹氏、サウンド担当の祖堅正慶氏など……今作はある意味、『FF14』ユーザーにとっては「お馴染み」とも言えるメンバーが集結している。
だが、冷静に考えてみるとおかしい。そもそも、「ひとつのナンバリングFFを作る」ということだけでも相当な労力を使うはずなのだ。そんな超巨大プロジェクトが、ふたつに増える。冷静に考えてみよう。そんなのおかしくなってしまうではないか。ドミナントよろしく人間をやめるしかない。
しかしそんな状況下でも、『FF16』はついにマスターアップ(完成)を迎えた。個人的かもしれないが……まず真っ先に「開発お疲れさまです」という労いの言葉をここに書かせてほしい。
今回はそんな『FF16』の開発チームより、メインディレクターの髙井浩氏、原作・脚本・クリエイティブディレクターの前廣和豊氏、コンポーザーの祖堅正慶の3名へのインタビューを実施。つまり、今作の「ゲーム」「シナリオ」「サウンド」の3点に、より深く、より濃く迫ったインタビューとなっている。
髙井氏が語る、今作の「やめ時がない」圧倒的なゲーム体験を実現できた背景。前廣氏に直接聞く、今作が復讐劇である理由・ドミナントが生まれた理由・クライヴの人生を追うストーリーになった理由。祖堅氏が語る、「プレイヤーの操作を予兆して楽曲を展開する」前代未聞のシステムとは……?
そしてついに明かされた米津玄師氏の主題歌「月を見ていた」が、ゲーム内でどう扱われるのかについてもお聞きしている。既に『FF16』を買う気マンマンの方も、まだ『FF16』を買おうか迷っている方も、ぜひ最後まで読んでいってほしい。
余談だが、以前に電ファミニコゲーマー内で実施された『FF16』インタビューを前提とした質問もいくつか含まれているため、お時間がある方はこちらも合わせて読むと、より理解が深まるかもしれない。
正直、『ファイナルファンタジー』というのは、100%自由には作れないものでもある ─ 『FF16』企画の始まりからアクションになった理由までを吉田Pら開発陣に訊いた
『FF14』と『FF16』、ふたつのFFが並行していた舞台裏が、今語られる━━。
聞き手/ジスマロック・クリモトコウダイ・豊田恵吾
文/ジスマロック
編集/クリモトコウダイ
カメラマン/和田貴光
引くほど働くのは、ある種の才能。FF14とFF16が並行する楽しさと辛さ
──以前のインタビューで髙井さんが今作のディレクターとなった経緯はお聞きしたので、前廣さんと祖堅さんが『FF16』の開発チームに加わった経緯をお聞かせください。
前廣氏:
確か『FF14』の「蒼天のイシュガルド」の開発が終わって、パッチ3.1【※1】の調整にかかるくらいのタイミングでの参加だったと思います。
※1「FF14のパッチ3.1」
2015年11月実装のパッチ3.1「光と闇の境界」のこと。アライアンスレイドダンジョン「魔航船ヴォイドアーク」や「雲海探索 ディアデム諸島」の実装、「バヌバヌ族」の蛮族クエストが追加など、盛りだくさんのパッチだった。
祖堅氏:
あ、開発に加わったタイミング覚えてるんだ。
前廣氏:
そう、タイミングだけは覚えてる。でも、加わる時に何を言われたかはさっぱり覚えてないんです。確か焼き肉に連れていかれて、吉田に「会社からFF16の開発を打診されたんだけど……前廣もFF16の開発、頼むわ」と言われたような感じだったと思います。
『FF14』自体は「蒼天のイシュガルド」の開発がある程度終わり、パッチ3.1を開発しているタイミングだったので、元々自分が担当していたイベント・シナリオチームの統括業務をその後の数パッチ分かけて引き継ぎ、次の仕事として『FF16』の開発に加わったような形ですね。
──祖堅さんはいかがでしょう?
祖堅氏:
いや……僕、記憶がないんですよね。
焼き肉に連れていってもらった記憶もない!(笑)
前廣氏:
すみませんね、なんか自分だけご馳走になっちゃって……(笑)。
祖堅氏:
ホントだよ! ズルいよ!!
一同:
(笑)。
祖堅氏:
自分はだいぶなし崩し的に加わった感じでしたね。
「FF16はこういう感じだから、とりあえずこの辺から作って」みたいな……。
──何か具体的な決め手などはあったのでしょうか?吉田さんから声がかかったり。
祖堅氏:
いや、あったかもしれないけど記憶がないんですよね。いつの間にか「アイツ(祖堅)にやらせるわ」みたいな空気になっていた気がします。
髙井氏:
祖堅ちゃんはもう「サウンドは祖堅だよ」という感じで開発チームに入ったと思います。
祖堅氏:
自分としても、気がついたら『FF16』も『FF14』もやっていた感じです。
だからもう、加わったタイミングの記憶がないんですよね(笑)。
──なるほど、記憶が……(笑)。では、『FF16』のマスターアップが完了したとのことですが、改めて開発が終わってみた所感などはいかがでしょう?
祖堅氏:
所感ですか?
そんなこと言ったらもう……大変だったに決まってんじゃないですか!!
やっぱり第三開発のメンバーは「新生エオルゼア」の立ち上げの時から一緒に作ってきた面子です。そして第三開発には、「さぁ、ひっくり返してやろうぜ!」という思いが強いメンバーが集まっています。それくらいの思いで『FF16』の開発にも臨んでいます。
一方、『FF14』では吉田直樹に騙され続けていて……「新生」の時は、吉田に「新生終わるまでが勝負だから!」と言われ続けていたんです。だから僕も、「わかった!死ぬ気でやるわ!」とサウンドを作っていました。そして「蒼天」を作り始めたら、また吉田が「次のパッチがとにかく大事なんだ!いいか、MMORPGはここが大事なんだ!!」みたいなことを言い出しました。
いや……まぁ、確かにそうだよ。わかる。わかるんだけど!
一同:
(笑)。
祖堅氏:
他も同じような感じでずっと騙され続けてきて……でも、こっちも運営が続く中で段々盛り上がってきて、「それはそれとしてゲームサウンド制作は楽しいね!」と思っています。まぁ、正直地獄だし、満身創痍どころかボロ雑巾なんだけど、それでも「やるか!」と気合を入れてゲームサウンドを作り続けてきました。
そして、現在も吉田に騙され続けています(笑)。
『FF14』は短期スパンで開発して、リリースして、開発して……を繰り返す運営型タイトルです。でも、『FF16』は最先端のハードを使って、大規模なゲームをひとつのパッケージとして作る必要があったタイトルです。だから、サウンドの作り方も全然違うんですよ。
そんな「FF14のサウンドとFF16の楽曲制作を同時にやらなきゃいけなかった」状況を今振り返るとすれば……もう「辛い」しかなかったですよね(笑)。
でも、自分はずっと運営型タイトルを作り続けていたので、「ひとつのパッケージのゲームを作る」という感覚は本当に久々でした。そういう意味では、すごく楽しい時間だったとも思います。
前廣氏:
『FF14』とはやっぱり開発のスパンが違うんですよね。
そこから久しぶりに「1本の完結するタイトル」を作り上げたのは……もう30年近くゲーム作ってて一番しんどかったです。
スクウェア・エニックス本社の第三開発事業本部が入っているフロアがあるんですけど、あそこの半分のフロアが『FF14』を作ってて、もう半分が『FF16』を作ってるような状態でした。
祖堅氏:
サウンド部屋で仕事をしていて第三開発チームに呼び出されてフロアへ行くと、まず『FF14』チームからサウンドに関することをやいのやいの言われます。その仕事をしている時に、「おーい!FF16のこれどうなってる?」と聞かれたりします。
あれもやらなきゃいけない。これもやらなきゃいけない……。
もう、第三開発のフロアに行くのが億劫になってくる(笑)。
一同:
(笑)。
髙井氏:
一番ヤバい時の祖堅ちゃん、もう仕事の量が多すぎて「何の仕事をしているのか覚えられない」状態だったよね。サウンドチームと「この曲はどうする、あの曲はどうする」みたいな話をしていると、一応「大丈夫。この後ちゃんと作業する予定入れてるから」とは言ってくれます。
ただ、その時が来て「あの曲どうなった?」と聞くと……「なんだっけ?」と(笑)。
「だから来週中って言ったじゃん!!」みたいな。
祖堅氏:
そんな話したっけ?(笑)
もう自分が今何やってるのかわからなくなるくらい、忙しい状態でした。
──祖堅さんの中で、『FF14』と『FF16』の切り替えは行っていたのでしょうか?
祖堅氏:
やっぱり全然違うゲームなので、切り替えはしっかりやっていました。
割合的にはどっちかってのは特にないですが、『FF16』は腰を据えていました。『FF14』のサウンドチームには若い戦力も入ってきてくれましたが、まぁ、でも……総合的には半々くらいですかね。
──以前のインタビューで「FF16は少数メンバーから開発を始めた」とお聞きしたのですが、髙井さんから見て、開発チームに祖堅さんと前廣さんが加わったことで、どのような変化が起きたか……などがあれば教えていただきたいです。
髙井氏:
「FF16のサウンド周りは祖堅にやってもらうよ」ということは吉田から聞かされていたので、正直サウンドに関しては「祖堅ちゃんがやってくれるなら、最終的にはどうにでもなるべ」と思っていました。
祖堅氏:
少数精鋭で開発していた段階では、『FF16』にも仮で『FF14』の戦闘曲を入れたりしていました。同じ部署であれば、楽曲は自由に使えます。
もう何千曲とありますからね。「自由にやってよ」みたいな(笑)。
髙井氏:
開発初期の『FF16』のガルーダ戦には、『FF14』のガルーダ戦の曲を流していましたね……。ちゃんと「Now fall……」【※2】って流れてるんですけど、こっちとしては「Now fall……じゃねえよ!!」と(笑)。
※2「Now fall……」
『FF14』のガルーダ戦の楽曲「堕天せし者」の一節。特徴的なメロディーとコーラスから始まり、ちょうどサビ入りの前で「Now fall……」とシャウトされる。結構耳に残りやすい。
髙井氏:
前廣は初期メンバーとして参加していたので、具体的に変化したところとかはないですね。
ただ、「蒼天のイシュガルド」で前廣が書いたシナリオを見た時に、「あ、こんなちゃんとした話を書けるんだ……」と思ったんです(笑)。
一同:
(笑)。
髙井氏:
『FF14』で「おぉ、前廣のシナリオには違和感がないぞ」【※3】と思っていたところを経ての『FF16』の開発だったので、「前廣であれば、お話はキッチリまとめてくれるだろう」と考えていました。上がりも早いし、ゲームに落とすところまでしっかり考えた上でシナリオを作ってくれるので、そこは何も問題ないと思っていましたね。
なんか……おじさんがおじさんを褒め合うと気持ち悪くなっちゃうんですけど……前廣と祖堅に共通するのは「とにかく働く」ということです。会社に強要されているというより、「やるしかないから、やる」と能動的に働いています。多分このふたりは、一般社会の人から見たら引くほど働いてるんですよ。
そして、この「引くほど働く」ということは、命令されてできることでもないんです。上司から「君は頑張って寝ずに働きなさい」と言われたところで、普通の人間ができることではありません。それを能動的にできるのは、もう一種の才能なんですよね。言わなきゃ永遠に働いています。
この「アウトプットを出し続ける」という才能に関して、ふたりはずば抜けていると思います。こんなに働く人たちはいません。ただまぁ……ふたりとも、そろそろ歳だから働き方考えようね?(笑)
※3「蒼天のイシュガルドのシナリオの面白さ」
前廣氏がシナリオを担当した『FF14』の「蒼天のイシュガルド」は、特にシナリオの評価が高い。5つのパッチがリリースされた今もなお、「蒼天」のストーリーやキャラの人気は変わらず高いほどである。
祖堅氏:
このふたりに共通してるのは、多分「ゲーマー」ですよね。
ゲームが好きだから働けていると思います。
前廣氏:
ワーカホリックというのもあると思うけど(笑)。
髙井氏:
もちろんゲームが好きだから働けている、というのは当然あるとは思うんだけど……ただ、「ゲームが好きならあれだけ働けるのか?」って言ったら俺は怪しいと思うよ! このふたりホントに働いてるんですよ!
だから、ある種の「病気」なのはあるかもしれないですね。
もう、逆に「ゲームを作ってないと安心しない」みたいな。
祖堅氏:
でも、どれだけ忙しくても『オーバーウォッチ2』やったりはしてるよね。
……あんま関係ねえか、それ(笑)。
前廣氏:
いや、関係はあると思うよ。俺も寝ずにゲームしてるし。
髙井氏:
でも、遊びたいゲームを遊ぶために「頑張らなきゃ」って感じになっちゃってるでしょ? その「今日の寝る時間を減らせば、あのゲーム遊べるな」という考え自体がおかしいんだって!
この「頑張って遊ぶ」ということのおかしさに、去年『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を遊びながら気付いたんですよ。「なんで俺、頑張ってゲーム遊んでんの!?」って(笑)。
一同:
(笑)。
ゲーム開発で「ここで良い」なんて絶対思わない
祖堅氏:
髙井さんはこうやって言うけど、髙井さん自身もちょっと異常なぐらい働いてますよね。
──やっぱり祖堅さんと前廣さんから見ても、髙井さんも「引くほど働いてる」んでしょうか。
祖堅氏:
「ディレクターやってるな」という感じですね。
古き良きスクウェア時代を知ってる僕らからすると、髙井は「行くぞ!」と突撃するタイプのクリエイターなんです。お互いの間に入って「まぁまぁまぁ」と仲裁に入るよりかは、あちこちに殴りに行って、ぺんぺん草をかきわけて進軍するような人で……。
でも、今回の『FF16』の開発では、いろんなところの間に挟まって「まぁまぁ」と仲裁してるのが「すげえ……」と思いました。
髙井氏:
その昔の癖を治したんですよ、僕は!
まぁ……もう良い大人なんでね……。
一同:
(笑)。
前廣氏:
髙井って、僕と祖堅から見たら大先輩。でも、僕が入社してもない頃からの付き合いでもあるんです。もう潰れちゃった新宿のプレイマックスに一緒に『鉄拳3』をやりに行ったり、時田さん【※4】の家に転がり込んでプロレスを見たり、なぜかオールナイトで『ゲッターロボ』の映画を渋谷に見に行ったり……仕事よりも遊びの付き合いですが(笑)。
そして実際の開発では、特に『ラストレムナント』【※5】の時は髙井と一緒に作っていました。髙井はディレクターを担当してたんですけど、あの時のディレクターっぷりに比べたら今はすごい立派になりましたよ。もう『ラスレム』の時ははっ倒してやろうかと思ってたんだけど……今回は頼りになるディレクターをやってくれています(笑)。
※4「時田貴司氏」
スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター。『FF4』のゲームデザインや、『ライブ・ア・ライブ』のディレクターとしてお馴染み。
※5「ラストレムナント」
スクウェア・エニックスより発売されたXbox 360向けのRPG。独特ながらも中毒性の高いバトルシステムが特徴で、『サガ』シリーズの開発スタッフが多く携わっており、ディレクターを髙井氏が務めた。当初はPS3版の発売も予定されており、ゲーム雑誌「週刊ファミ通」の“期待の新作ランキング”では長らく上位にランクインするほどの人気だった。その後、Windows版がリリースされたが、結局PS3版はリリースされなかった。現在はリマスター版がPS4、Switch、iOS(販売中止中)、Androidで配信されている。
──何か、髙井さんの中で心境の変化などがあったのでしょうか?
髙井氏:
だから、もう良い大人なんです。
「いい加減にしないとキレるぞ?!」じゃもうダメなんですよ……(笑)。
一同:
(笑)。
髙井氏:
僕がペーペーの社員だったころは「全員はっ倒すぞ」という感じだったんですが……良い大人はそれじゃダメなんです!
前廣氏:
逆に、髙井が良い大人に徹してちゃんとしたディレクターをやってくれていたから、僕と祖堅が思い切りやれたかな……。
祖堅氏:
髙井さんの代わりにね(笑)。
──第3開発チームにそのタイプの方が多いとなると、運営型タイトルと違い『FF16』のようにひとつのパッケージのゲームを作る場合は、目指す理想の限界ギリギリまで作り続けるスタイルなのだと感じます。ただ、やはりゲーム開発ではどこかで妥協点を見つける必要があるとも思うのですが、お三方はどういったところで何かを足したり、削ったりの判断基準を見つけるのでしょうか?
前廣氏:
そもそも誤解されているかもしれないのですが、ゲーム開発をしていて、「ここまでで良いや」なんて絶対思わないです。だって、プレイヤーのみなさんから見れば、ゲームはプレイしたその「1回」しかないんです。
もちろん、我々から見れば細かなバグ、失敗した点、次回作に活かしたいところなどはあります。ただ、プレイヤーのみなさんから見ればそれも「1回」でしかない。その「1回」はもう限界まで妥協したくない、というのが我々の想いです。『FF14』でもそれは同じです。
髙井氏:
そこも含めて、僕は「良い大人」になったのだと思います。このふたりは、やろうと思えば永遠にやり続けます。でも、ゲームの発売日は決まっていて、さまざまなスケジュールもあって、コストやリソースも有限です。その中で「泣くしかない」時が来たのであれば、もうそこは「ここまでが限界」と判断します。
逆に、その判断がなければ、永遠に作り続けられます。もちろん「お客様に提供するもの」として考えるのであれば、全く妥協せずに作り上げた方が、お客様にとっては良いことです。とはいえ、ゲーム開発には折り合いをつけなければならないところが絶対にあります。
なので……そこは僕が「大人になった」んです。どちらの軸も大切なので、バランスというか、役割なんですかね(笑)。
なぜ復讐劇なのか・なぜドミナントなのか・なぜクライヴの人生を追うのか。脚本の前廣さんに聞く
──ここからは脚本・原作・クリエイティブディレクターを担当した前廣さんに、今作のシナリオや世界観についてお聞きしたいと思います。まず、前廣さんは「原作」を担当しているとのことですが、具体的にどこからどこまでの範囲の「原作」なのでしょう? 世界観やストーリーを0から作り上げた……ということでしょうか。
前廣氏:
世界観やストーリーに関しては、0から全部ですね。
髙井や吉田と話す中で、「FF16は召喚獣にスポットを当てる」「マザークリスタルが登場する」といった主な要素を最初の段階である程度決めて、そこからはもう0ベースでシナリオの大筋や、世界観を作り上げていきました。
それ以外にもベースとなるゲームデザイン全般を作ったりしました。かなり広い範囲の「原作」ですね。
──もうひとつ気になっているのが、「クリエイティブディレクター」という肩書についてです。この「クリエイティブディレクター」とは具体的に何を指しているのでしょう?
前廣氏:
簡単に言うと、「髙井の下で現場の全般を回す役割」と認識してもらえば問題ないです。
ゲームデザイン、シナリオ、レベルデザインからマップ作り……そういったゲーム全般を設計しつつ、クオリティを底上げするような仕事をしています。それこそ、街にあるコップひとつが今作の世界観に合っているか……という細かい部分までチェックすることもあります。
「現場監督」みたいなものだと思ってもらえれば。シナリオとはまた別に、ゲーム全般を統括していました。
──「シナリオを書いている人がゲーム全般を統括する」という作り方はちょこちょこお聞きするのですが、実際この開発形態は珍しいものなのでしょうか?
髙井氏:
そんなに珍しくないんじゃないですかね?
それこそ松野さん【※6】や河津さん【※7】は毎回そういう作り方をしていたと思います。
※6「松野泰己氏」
『タクティクスオウガ』『FFT』『FF12』などのディレクターを務めた松野泰己氏。現在は独立し、ALGEBRA FACTORYの代表を務めている。
※7「河津秋敏氏」
『サガ』シリーズでお馴染みの河津秋敏氏。多数の「FINAL FANTASY」シリーズの開発に携わっており、エグゼクティブプロデューサーも務めている。
前廣氏:
昔はいっぱいあったと思います。
ゲーム全体の「統一感」は出やすい作り方ですね。
髙井氏:
やっぱりシナリオが独立してしまうと、「ゲームのお話になっていない」という事態が発生したりします。この作り方の場合、その「シナリオとゲーム」をより密接に作りやすいですよね。
たとえば、「このゲームはいつになったら最初のボスが出るの?」といったように……シナリオだけが独立してしまうと、プレイヤーが「いつゲームに移るんだ?」と思ってしまう可能性があります。そのバランスを取りやすいのが、この制作スタイルだと思います。
前廣氏:
「ゲームデザイン的に、ここにボスを配置すればいいか」と考えれば、そういう風に自分でシナリオを書くことができます。逆に、一度シナリオを書いた上で、それがゲームデザインに合わなければ書き直すこともできます。
「シナリオやデザインがゲームにマッチする」ようにひとりでコントロールできるのは、この作り方の強みですね。
──「世界観」についてお聞きしてみたいのが、「各国とドミナントの関係」についてです。個人的に、今作の「それぞれの国に存在しているドミナント(召喚獣)は、ある種その国が保有している最大戦力でもあり、兵器のような存在である」という世界観……要は、この「召喚獣とは、それぞれの国が保有している最大戦力(兵器)」という召喚獣の切り口が面白いと感じています。
この「国とドミナント(召喚獣)の関係」はどのように作り上げていったのでしょう?
前廣氏:
これまでのFFシリーズでは、召喚獣が「超常現象」「別世界の幻獣」のような扱いだった作品もあります。ただ、逆にそこから「召喚獣がその世界に当たり前に存在しているのだとしたら、この世界はどう構築されるのだろう?」と考えたのが始まりです。
これまでの扱いとは違い、「我々のこの世界で、その辺をタイタンが歩いているとしたら……どうなる?」という切り口で召喚獣を立ててみるのも面白いと思いました。そんな世界のそれぞれの国に召喚獣を置けば、当然戦争がはじまります。しかも召喚獣のような圧倒的な力を持っていれば、もう戦わない理由はないんですよね。そういったアイデアから、今作のシナリオを膨らませていきました。
──なるほど。「ドミナント」で言うと、以前のインタビューで「ドミナントの“召喚獣を人間の身体に降ろす”というアイデアは、前廣さんが考えた」とお聞きしました。実際、「ドミナント」という要素はどこから思いついたのでしょう?
前廣氏:
だって……「変身」したいじゃないですか。
召喚獣という別の存在ではなくて、自ら召喚獣になって力を使いたいと。
──やっぱり特撮からの影響なんですね(笑)。
前廣氏:
やっぱりみんな特撮が好きですし、プロレスも好きですし……。
そして、「未知の力」として召喚獣を行使するよりも、「その身に降ろす」というリスクを自分自身で背負ったうえで召喚獣を行使する方が、ドラマも生まれますよね。そのアイデアを「変身」という要素として用いた感じです。
髙井氏:
制作側の「好きなもの」は、やっぱりゲームには出ちゃうものだと思います。
「あの作品のこのシーン」といったような具体的なオマージュはなかったとしても、みんなアニメや特撮、ゲームと大好きですからね。作り上げるものの要所要所への影響はもうスタッフレベルで出てしまっているのだと思いますね。
──個人的に『FF16』は松野さんの作品……「イヴァリース」で括ってしまうのはちょっと的外れかもしれませんが、あの作品群に近い雰囲気を持っているのではないかと感じています。
前廣さんは『FFT』『ベイグラントストーリー』などで松野さんとご一緒されていたと思うのですが、松野さんとのお仕事の中で得た経験が活かされいたり、リスペクトしている点などはありますでしょうか?
前廣氏:
松野さんと一緒にお仕事をさせていただく中で非常に多くのことを学ばせていただきました。ですので、影響は当然受けていると思います。
ただ、シナリオの中で、特に狙ったポイントなどはありません。そもそも『FF16』は「ヴァリスゼア」という別の世界を舞台にしているので、当然別のお話です。その世界観をベースにした上で、僕が過去にしてきた仕事の影響が見え隠れするところはあるかもしれないですね。
髙井氏:
やっぱり過去に影響を受けたものの「雰囲気」も、出ちゃうところは出ちゃうんだと思います。そこに意図的な「全体的にリスペクトしよう」といった考えが一切頭になくても、出てしまうんです。
しかも、ゲームは何年にも渡って作り上げるものだから、より影響を受けやすいです。たとえば、前廣は5年間『FF12』に携わってきたわけですし、やはりその経験が血肉になっています。その血肉となった経験から出る「雰囲気」が無意識のうちに出てしまうのは、もう色んな人がそうだと思います。
多分、「あのゲームのあそこを上手く踏襲してやろう」ということを頭において作り始めるパターンは、ほとんどないんじゃないですかね。
──『FF16』は「クライヴの復讐劇」というストーリーであることが、PRでも推されていると思うのですが……そもそもなぜ「復讐劇」を描こうと思ったのでしょう? 「復讐劇」を描くFFってそんなになかったと思います。
前廣氏:
まず、復讐劇は「プレイヤーに提示する目的」として非常にわかりやすいんです。目的は、「俺はあいつを殺す」。もう一番わかりやすい。
『FF16』は本格的にアクションゲームになるので、これまでとはゲームデザインも大きく変わることが初期の段階で想定されていました。だからこそ、まず最初に「お話の目標をわかりやすくしよう」ということを決めていました。
もうひとつ、『FF16』の開発初期に吉田や髙井と話す中で、「兄弟の話」を描くことは決まっていました。そして、「兄弟の話から始まる物語ならば、復讐劇がわかりやすくハマるだろうな」と感覚的に思いました。
──どこかから着想を受けたとかではなく、「兄弟だから復讐劇」だったのですね。
前廣氏:
最初にお話した「目標をわかりやすく提示する」ということが一番大きいです。
ゲームのお話は基本的に大なり小なりの目的を用意して、「小の目的」をいくつかやりながら、最終的に用意されている「大の目的」を目指していくものだと思います。お話をだらだらやってはいけないと思っています。
その「小の目的」をこなしている中でも、「お前は絶対にあいつを倒すんだ」という復讐の目的が提示されていることで、プレイヤーはモチベーションを保ちやすくなります。ですので、「わかりやすさ」という観点から「復讐劇」を選んだ側面が大きいですね。
髙井氏:
最初は「復讐劇」からお話が始まりますが、この物語は終始一貫して復讐劇なのかというと、そんなことはありません。そこは……「発売を楽しみにお待ちください!」と言っておきたいです。
──今作は「クライヴの少年期、青年期、壮年期を追うストーリーになっていく」と以前お聞きしたのですが、そもそもなぜクライヴの人生を描くようなストーリーラインになったのでしょう?
前廣氏:
書き方の側面から言うと、まず「ひとりのキャラクターの流れを追うことで、プレイヤーが物語に没入しやすい」というメリットがあります。
ただ、「ヴァリスゼア」という世界とそれに付随する歴史を作り、そして「クライヴ・ロズフィールド」というキャラを生み出した時に……「こいつの生き様を全部書きたい」と思ったんです。
世の中はいろいろなことが起きるし、幸せなこともあれば、嫌なこともあります。その中で葛藤を繰り返して人生を歩んで行く。これは当たり前のことだと思います。
その現実の私たちの人生を投影するように、クライヴの生き様にフォーカスした物語を描けば、プレイヤーはよりクライヴのことを好きになってくれるんじゃないか……と考えました。
──これまでの「復讐劇を提示して、プレイヤーに乗ってもらう」「クライヴの人生にプレイヤーも乗ってもらう」といったお話を聞いていると、今作はかなり「クライヴにプレイヤーが乗ってもらう」ことを意識したゲームなのではないかと感じます。
ただ、FFって割合的には「プレイヤーから独立した主人公」も多い気がするんです。今作は「主人公にプレイヤー自身を投影する」ことを割と意識されたのでしょうか?
前廣氏:
そうですね。そこはゲーム全体で意識したところです。
クライヴの感情はプレイヤーの感情であり、プレイヤーの感情がクライヴの感情になるよう書いたつもりです。
髙井氏:
そこはかなり成功していると思います。何度も通しプレイをしていますが、スタッフたちの努力が結集された結果、僕はクライヴに違和感を持たなくて済みました。
主人公がプレイヤーから独立している時に起きる、「コイツ、ここでこんなこと言うんだ……」というあの気持ち、僕は割と苦手なのですが、クライヴにはそれがない。しっかり皆でクライヴを描ききれたと思っています。
FF16楽曲、あるテーマに1点集中どストレート
──祖堅さんは『FF14』でもフィールド曲からバトル曲まで、かなり幅広く楽曲を制作されています。やはり『FF16』でも幅広く楽曲を作られたのでしょうか?
祖堅氏:
語弊があるといけないので、順を追って説明します。
まず『FF16』の楽曲のアプローチは、「1点集中どストレート」にやっています。
『FF14』は多角的にコンテンツが用意されているので、必然的に楽曲に関してもいろいろなアプローチをします。そもそもの音楽的なジャンルも豊富ですし、プレイヤーも「こう来たか!」と思うような曲があるはずです。
それとは逆に、『FF16』は「ド直球」なアプローチで作っています。だけど……蓋を開けてみたら、結局『FF16』も200曲を超えていました。結果論で言うと、「アプローチは違うけど、結果的に幅広くなっていた」という感じです。
──200曲越えですか!
祖堅氏:
もしかしたら、『FF16』に「FF14みたいな曲」をイメージしている方も多いかもしれません。確かに、そういう「祖堅の癖」が出ている面もあるとは思います。
でも、多分「FF14みたいな感じ」ではない……いや、どうなんだろう? もうわかんないな(笑)。
髙井氏:
「祖堅サウンド」ではあるよね。
祖堅氏:
さっきも「なんとなく影響を受けたものの色が出ちゃう」という話が出ていましたけど、やっぱり僕の癖は出ちゃうんですよね。ただ、『FF14』のような多角的なアプローチではなく、1点集中どストレートに作りあげたのは事実です。
──その「1点集中」というのは、「FF16の楽曲全体のテーマがあった」ということなのでしょうか?
祖堅氏:
まず『FF16』の世界観やシナリオは「ダークファンタジー」なんですよね。
(髙井氏と前廣氏のほうを見ながら)まぁ、この辺の人たちの得意分野ですよね(笑)。
そもそも、FFはタイトルによってそれぞれの作品の色が違います。その色がキラキラしているタイトルもあれば、ちょっと可愛らしい色のタイトルもあったりします。
もちろんダークな要素を扱ったFFもたくさんあったと思うんですけど、『FF16』のように、作品全体にダーク要素が占めている「ド直球ダークファンタジー」はそこまでなかったと思うんです。
その空気感を、サウンドにもしっかり取り込んだ感じですね。つまり「ダークファンタジーの曲」をストレートに、ストイックに作りました。
これは僕がゲームサウンドを作るにあたって大事にしているポリシーのひとつで、「サウンドを作る上で、ゲーム体験ファーストでありたい」ということを心掛けています。
そして、今回のゲーム体験は「ダークファンタジー」を突き詰めたものになっているので、この雰囲気に一番合うサウンドを用意しました。その結果、こういう雰囲気の楽曲ができました。
髙井氏:
とはいえ、暗い話ばっかじゃないですからね(笑)。
あったかい話もあれば、恋愛話もあるし、キラキラした部分もちゃんとあります。
祖堅氏:
そうね。「ダークファンタジー」の印象が先行しすぎると、出張中の吉田に怒られる気が……(笑)。
──ちょうど今楽曲の統一感のお話をしていただいたところで申し訳ないのですが……やっぱり私は祖堅さんの楽曲だとあのロック調・バンド調なバトルBGMが好きなんです。「ライズ ~機工城アレキサンダー:天動編~」とか「ロングフォール ~異界遺構 シルクス・ツイニング~」とか……。
ああいった曲調のものは、『FF16』にも入っているのでしょうか?
祖堅氏:
いや、どうでしょうね! 入っていると良いですね!
さっき言ったように、『FF14』は多角的にいろいろなジャンルの曲が入ってるんですけど、『FF16』は「クラシック」ジャンルがベースの柱として存在しています。
ただまぁ……「やっちゃった」曲もいくつかね……。
音楽的に「やりやがったなこの野郎!」という曲はいくつかあったりします。
──その「やっちゃった曲」について、もう少し具体的にお聞きすることは可能でしょうか?ちょっとヒントをいただけたりとかは……。
祖堅氏:
シンプルに言えば、吉田直樹がオーダーしてきたものとは全く異なる曲がゲームに入ってしまいました(笑)。
ネタバレになっちゃうから、具体的にどのシーンかは言えないんですけど……この「やっちゃった曲」を上げた時は、前廣と髙井さんはすごいテンション上がってたよね。
ふたりとも「待ってましたー!」みたいな。
前廣氏:
祖堅正慶が、ついに解放された感じがしました。
しかもその祖堅の「やらかし」が、いい感じにゲームにマッチしていたんです。
髙井氏:
合ってるんですよね……。
前廣氏:
もう遊べばわかりますね。「あぁ、ここだな。アイツやりやがった」って(笑)。
祖堅氏:
でもね、ゲーム側がもうやっちゃってたんですよ!
これは俺が「単にやらかしたくてやった」のではなく、実際のゲーム体験として自分が受けたファーストインプレッションがあまりにもすごかったから、もうこっちも「行くしかねえだろ」と覚悟を決めたからなんです。
──なるほど。ゲーム側がやっちゃってたから、音楽側もやっちゃった感じなんですね。ちょうどこの前の「State of Play」の映像もすごかったです。フェニックスと……あれはバハムートが戦ってるシーンなんですかね?
髙井氏:
あまり語らないようにします。吉田が「そろそろゲーム全体がどういうものか、しっかりわかる映像を出す」ということで色々なところから摘まんでいます。
──少し話が戻りますが、その「ダークファンタジー」「クラシック」といったような楽曲全体のイメージは、やはり髙井さんや前廣さんから要望がくるような形なのでしょうか?
祖堅氏:
まず前廣に「このゲームは、どんな話になるの?」と聞きに行って、そこで「世界観に合わせて、今回はクラシック主体が良いよね」という方向性を最初に決めました。
そこから、「この召喚獣には、この音楽。このキャラクターは、こういう音楽。」といったような、それぞれのキャラや召喚獣が持つテーマに合った楽曲サンプルを吉田にリスト化してもらい、それを元に各コンテンツに落とし込んでいった感じですね。
そのリストに挙げられた曲にはもう……古典的なクラシックがたくさん並んでいました。でも、多分あの人(吉田)普段そんなクラシックとか聞いてないと思うんですよ(笑)。
一同:
(笑)。
祖堅氏:
「このためにいろんなクラシックを探して聞いてきたんだろうな……」と、にやにやしながらリストを眺めていました。それぞれの持ち場で、一生懸命ゲームを作ろうとしてるんですよ。
からの記事と詳細 ( 『FF16』完成後の開発チームにインタビュー! 同じ部署で“2つのFF”が並行開発されていた舞台裏から「プレイヤーの操作を予兆して楽曲を展開する」システムまで - 電ファミニコゲーマー )
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