[ヨハネスブルク 29日 ロイター] - グランドオープンまであと2日。南アフリカ共和国の最大都市ヨハネスブルクの複合商業施設「クウェナ・スクエア」では、作業員らが最終的な仕上げを急ぐ。総工費1300万ドル(約17億6700万円)の同施設は、世界的な「小売店の終焉(しゅうえん)」がこの国には訪れていないことを象徴している。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でさえ、愛するショッピングモールから南アの人々を引き離すことはできなかった。
「娘や孫とショッピングモールに行くのが大好きだ」。コウィ・エラスムスさん(54)はオープンを心待ちにしていた。「モールは社交場なのだ」
南ア市場は、世界中の多くの地域とは異なる発展を遂げてきた。この国では犯罪発生率が高く、安全な公共スペースが乏しいことから、長年にわたり、小売店も買い物客も複合商業施設に集中するようになった。武装警備員に守られ、来店者以外は立入り禁止の駐車場を備えた商業施設なら、安心して買物を楽しむことができる。
こういった人々のショッピングモールへの愛着は、多くの業界関係者や専門家の予想を裏切る結果となった。南ア当局がコロナ禍で実施したロックダウンは最初のうち世界でも有数の厳しさであり、これを機に電子商取引がついに開花し、伝統的な小売市場にかなりの程度食い込んでいくだろうと期待されていたのだ。
だが実際のところは、一部の大手小売企業には実店舗の拡張計画をさらに強化する動きが見られる。南アは1兆ランド(620億ドル)規模の小売市場を抱え、その経済はアフリカ大陸で最も発達している。
「実店舗への投資は依然として、オンライン店舗への投資を大幅に上回る」と語るのは、食品・衣料品グループのピックンペイで最高変革責任者を務めるデビッド・ノース氏だ。同社を含む複数の小売企業は、今年度、オンライン店舗よりも実店舗の運営への投資に力を入れると述べている。
商業不動産のデベロッパーも、こうした投資に引きつけられている。
不動産コンサルタントのロード&アソシエーツのデータによれば、今年、南ア全土では賃貸可能な小売スペースが30万平方メートル以上、新たに完成する予定だ。参考までに、過去2年間の合計では約36万7000平方メートルだった。
新たな小売スペースとしては、沿岸部ダーバンの商業施設「オーシャンズ・モール」などが年内に続々とオープンする予定だ。
不動産投資信託(REIT)のエミラ・プロパティ・ファンドのウラナ・ファン・ビリヨン氏は「南アの人々が大切にし、最も価値を置いているのは、実店舗に入り、その空間を楽しむという『体感できる経済』だ」と語る。
<世界的には実店舗が減少>
パンデミックは、全世界的に電子商取引にとって強烈な追い風となった。
国連貿易開発会議(UNCTAD)によれば、合計で世界の経済生産のほぼ半分を占める7つの経済大国では、2019年には2兆ドルだったオンラインでの小売売上高が、2021年には約2兆9000億ドルに膨らんだ。
これらの市場における従来からの小売業者は、パンデミックが始まった年に英国内だけで1万7500店以上のチェーン店が閉鎖されるなど打撃を受けている。
ユーロモニター・インターナショナルによれば、小売売上高全体に占める電子商取引のシェアは南アでも、2019―21年にかけて3倍超増加し約5%となったが、それでも多くの国に比べれば非常に低い。たとえば南アの総人口はメキシコの約半分だが、南アの電子商取引市場の規模は29億ドルで、メキシコの190億ドルに比べるとあまりにも小さい。
UNCTADの推計によると、電子商取引の比率は英国で28%、中国で25%、米国で14%となっている。
南アでは携帯電話の普及が進むにつれてインターネットへのアクセスも増大しているが、データ通信料の高さが壁となり、低所得層の多くにとってオンラインショッピングは依然として利用しにくい。
さらに、黒人居住区などには適切な住所表記がなく、特定しやすい所在地住所を持たない人もいるため、自宅への配送も厄介だ。
<「単なる買い物の場所にあらず」>
もっとも、南アでショッピングモールが生き残っている理由は、電子商取引の普及の難しさだけではない。歴史的に高い同国の犯罪率がほとんど低下傾向を見せない中で、ショッピングモールが提供する安心感は、やはり大きな魅力なのだ。
南ア警察は、2022年1―3月期に暴行や殺人、強盗、性犯罪などいわゆる「接触犯罪」の件数が15%増加したと報告している。同四半期としては過去5年間で最悪のレベルだ。自動車窃盗も19.7%増加した。
広告代理店で顧客担当マネジャーとして働くゴモツェガング・モツワツウェさん(35)は、家族と一緒にショッピングモールで過ごす時間が多い。「ショッピングモールが安全・安心な場所を提供しているという点が大きい」と語り、自分の車を安全な場所に駐車していることが分かっていると落ち着くと付け加えた。
「単にショッピングのための場所ではない」とモツワツウェさん。「やはり人間なのだから外に出かけて誰かに会いたい」
モツワツウェさんのような南ア国民は、コロナによる制限が緩和されたことを受け、大挙してショッピングモールに戻りつつある。MSCIリサーチがまとめたデータによれば、客足はまだ回復しておらず、第1・四半期末の時点ではコロナ禍前の水準より18%少ない。ただ、来店1回当たりの支出額は増加しているという。
このデータによれば、店舗面積あたりの売上高を示す指標である店舗面積効率で見ると、南アのショッピングモールの坪効率は現在、平均してコロナ禍前の水準を上回りつつある。
MSCIがまとめた2022年第1・四半期の坪効率は、年換算で前年比21.1%の成長を記録した。
<車で3時間かけてモールへ>
小売事業者の幹部は、実店舗とオンラインの双方の事業に期待をかけている。
ピックンペイの場合、ディスカウントショップ「ボクサー」を200店舗オープンし、「ピックンペイ」店舗の刷新を進める一方で、オンライン売上高を8倍に増やすことを目標としている。今年度の設備投資は35億ランドだが、その大半は、新規開店と店舗改装に充てられている。
低価格ファッション・雑貨を販売するミスタープライスでは、今年度の設備投資の66.5%は店舗向けであり、180-200店舗を開店する予定だという。
米ウォルマートが過半数の株式を保有するマスマートでは、今年の設備投資の57%を新規開店・改装費用に充てる予定で、オンライン事業の拡張には15%を振り向けるという。同社は、今後5年間で総売上高に占めるオンライン事業の比率を現在の2.2%から15%まで拡大したいとしている。
高級ファッション・雑貨を販売するTFJは、設備投資の75%を新規開店とオンライン事業に投じている。
農村や低所得者地域の住民は、これまで長年にわたり大型ショッピングセンターや複合施設の恩恵を受けてこなかった。こうしたニーズに応じていくことで、実店舗事業にはまだ成長の余地が残されている可能性がある。
MSCIのバイスプレジデントであるニール・ハルムセ氏はロイターに対し、現在では国内の新たな商業不動産開発の多くが大都市以外の場所で進められていると語った。
南ア東部の農村地帯にある小さな街ポンゴラで暮らすフィンディル・ンコシさんのように、海に面したショッピングモールで1日を過ごすために子どもを連れて3時間も車を走らせるような人の存在は、まだ満たされていない需要があることを示している。
「ポンゴラにもショッピングモールがあればいいのに。小さな街だけど、発展しているのだから」
(翻訳:エァクレーレン)
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