江戸時代の俳人・松尾芭蕉(1644~94年)の最初の紀行文である「野ざらし紀行」の自筆図巻が半世紀ぶりに再発見されたと、京都市の福田美術館が5月24日、記者会見で発表しました。「野ざらし紀行」は芭蕉最初の紀行文であるとともに、蕉風と呼ばれる芭蕉の俳風が完成する契機になったと考えられています。福田美術館と発表会場となった嵯峨嵐山文華館による10月に開会予定の共同企画展で公開されます。

「野ざらし紀行」は芭蕉が41歳の時に江戸から伊勢、大和、近江、尾張、京都などを巡り、約9か月かけて江戸に帰る行程を記した紀行文です。
自筆本としては天理大学附属天理図書館のものと、今回再発見されたものの2冊が知られていましたが、今回の自筆本は長く所在不明になっていました。1942(昭和17)年の大阪市内での展覧会や、1970年代の俳画展で見たという記録はあるのですが、確かなことは分かっていません。
今回の会見で説明をしてくれた関西大学名誉教授の藤田真一さんは「今生きていられる方で、現物を見たことのある人はいないのではないか」と言います。昨年12月に大阪の美術商から連絡があり、筆跡の鑑定などから真筆と判断、福田美術館が購入したということです。


図巻の大きさは縦23センチ、長さは約14.5メートルあります。巻頭に芭蕉の友人であった山口素堂の序文があり、その長さは2メートルを超えます。表題に「甲子吟行」とありますが、芭蕉はこの紀行の表題を付けていません。そのため呼ばれ方がいくつかあり、その中に「野ざらし紀行」という名がありました。「甲子」もその一つで、甲子=きのえねの年に書かれたので付けられたということです。



福田美術館の岡田秀之学芸課長によると、保存状態は非常に良好で色も鮮やか。川を描いた退色しやすい青もきれいに残っています。絵は俳句や文に合わせて21場面が描かれています。芭蕉はこの時はまだ絵を習っていません。そのため「建物がゆがんでいたり、川岸の色にむらがあったりするのですが、色使いや配置など文と絵の組み合わせにリズムがある」ということです。

「野ざらし紀行」の自筆本は2冊ありますが、旅から帰ってすぐに天理図書館のものが書かれ、その後に今回のものが書かれています。天理図書館のものには絵はありません。一般的に、教科書や古典全集のテキストには今回再発見されたものが使われています。それだけに実物が見られるということは、今後の研究にも大きな役割を果たしそうです。
藤田さんは「『山路来て何やらゆかしすみれ草』のように、芭蕉の句はこの紀行の中で分かりやすく変わっていく。芭蕉にとっての大きな転機になった紀行だ」と言います。この再発見された「野ざらし紀行図巻」の実物。一般のファンにとっても新たな発見があるのではないでしょうか。
この《野ざらし紀行図巻》再発見を記念して福田美術館と嵯峨嵐山文華館は共同で、与謝野蕪村をキーパーソンとした共同展覧会を10月に開きます。蕪村が憧れた松尾芭蕉と、蕪村と同年生れの伊藤若冲の足跡をたどります。
(ライター・秋山公哉)
企画展:「芭蕉と蕪村/蕪村と若冲」 |
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会 場:嵯峨嵐山文華館・福田美術館 (京都市嵐山) |
会期:2022年10月22日(土)~2023年1月9日(月・祝) 前期 2022年10月22日(土)~11月28日(月) 後期 11月30日(水)~2023年1月9日(月・祝) |
休館日:火曜日(11月中は休まず開館)、年末年始(2022年12月30日~2023年1月1日) |
詳しくは嵯峨嵐山文華館、福田美術館のホームページへ |
からの記事と詳細 ( 松尾芭蕉自筆の「野ざらし紀行図巻」半世紀ぶり再発見 10月に京都で公開 - 読売新聞社 )
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