新型コロナウイルス感染症のパンデミックのせいで、私たちは建物の衛生状態や換気に、これまで以上に気をつけざるをえなくなった。とにかく消毒したい気になるが、じつはそれが解決どころか根本的な問題の原因になっているかもしれない。「建築環境の微生物学」の最先端ではいま何が起きているのか──。 いまから4年前のこと、建築学の博士課程の学生がルーク・リャンに助言を求めた──何かいい論文のテーマはないだろうか。 世界一高いビル、ドバイの「ブルジュ・ハリファ」の事業も手がけたエンジニアのリャンはこんなお題を提案した。 「天国とは何か?」 世界最大級の建築事務所「スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル」(通称「SOM」)のサステイナブル工学スタジオ主任のリャンはこう回想する。 「その学生は徹底的に調査し、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教といった信仰の違いにかかわらず、天国とは必ず、庭園と流れる水があるところだということを発見したんです。 そこでわれわれは問いはじめました──『もしそれが天国だとすれば、私たちが生きている場所はいったい何なんだ?』」
なぜ建物が病気を媒介するのか?
西洋諸国だと、人はその生涯の9割の時間を屋内で過ごす。平均的なアメリカ人はさらに多く、93%の時間を、建物や車のなかで過ごす。 科学者たちは長年、屋外との断絶が多くの慢性的な健康被害につながっていると警鐘を鳴らしてきた。アレルギー、ぜんそく、うつ病、過敏性腸症候群、肥満などの健康被害だ。 最近では、なぜ建物が、しかもできるだけ無菌になるよう設計されたものでさえ、病気の媒介となっているのかを各分野の専門家が研究しはじめている。新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行して以降はなおさらだ。 リャンは言う。 「中国では7300件を超える研究がなされましたが、そのうちの何人が屋外で新型コロナにかかったと思いますか? たった2人です」 米国ミネソタ州で起こった「ブラック・ライブズ・マター」ムーブメント後の初期検査でも、屋外での新型コロナ感染はまれなことが示された。 何千人も集まって会話し、大声を上げ、スローガンを唱えたときでさえ、大半の人がマスクをつけていた場合は、少なくともそうだった。検査を受けた1万3000人を超える抗議参加者のうち、陽性者はわずか1.81%だった。他州でも同様の結果が出た。
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