
5月30日――。
日本の複数の女子選手たちが、『#あつまれテニスの森』、『#選手がイベントを作れるか大実験』などのハッシュタグをつけたコメントを、一斉にソーシャルメディアにアップした。
「何か面白いことが始まりそう」の言葉と共に、先陣を切って情報を公開したのは、土居美咲。何が起こるのか、どこに行き着くかもまだわからないこのイベントを、発進させた人物だ。
「7月に、選手たちが集まって練習試合や対抗戦をできないかな……?」
そのような思いを彼女が抱くようになったのは、東京でも緊急事態宣言の解除の機運が見えはじめた5月中旬のことだった。
新型コロナ感染拡大に伴い、世界のテニスは7月いっぱいまでの中断が決まっている。ただ予定通り8月にツアーが再開するなら、その前に、誰もが緊張感を持った中で試合をしてみたいはずだ。
そのような思いを抱いていた折に、海外や日本国内でも、エキジビションマッチや賞金大会が開かれるとのニュースを耳にする。
「だったら、女子でも何かできないかな? 選手は関東在住者に限定し、8人くらい選手を集めて…」
この時、彼女の中に具体的なビジョンがあった訳ではない。ただ、何となしに考えを巡らせ選手の顔を次々に思い浮かべると、「十分、できそうじゃない?」と思えてくる。
ジュニア時代から親交のある井上明里から、「小堀桃子と練習してくれないか」との連絡が入ったのは、その思いつきにおぼろげながら輪郭が描かれ始めたころだった。現在31歳の井上は、現役ながら軸足を徐々に指導者にシフトし、現在は小堀のコーチを努めている。
その小堀と練習した時に、土居は井上に「関東の選手を集めて、試合やイベントできないかな?」と話してみた。特に誘うという意図はなく、単なる世間話として口にした一言。ところが井上から返ってきたのは、「えっ、おもしろそうじゃない? できるんじゃない、それ!」という、前向きなものだった。
「正直、意外だったんです。明里ちゃん、そういうノリの人ではないと思っていたので」
土居が抱いた若干の驚きは、そのまま実現へと突き進むブースターとなる。練習が終わった後には2人で、声をかける選手や開催時期などにつき、具体的に話し込んでいた。
5月末のことである。
意外…という意味では、話を持ちかけられた井上の方が、土居からの提案に驚きを覚えたかもしれない。
ジュニア時代に頭角を現し、早くからテニス界で注目された土居だが、周囲が彼女に抱く印象は「寡黙」や「シャイ」だっただろう。井上が土居に対し抱いていたイメージも、そのような一般的見解から大きく外れるものではなかった。
そんな土居が、自ら選手たちに声をかけ、全くのゼロからイベントを作ろうとしている――。
そのビジョンを活き活きと、そして実に楽しそうに語る2歳後輩の姿を見た時、井上は土居の放つエネルギーに感化され、いつしか乗り気になっている自分に気づいていた。
ただそのプランを実現させるには、スピードが必要だとも井上は感じていたという。ツアーが8月に再開するなら、イベントは遅くても7月の2週目にはやりたい。場所の確保や運営費調達の時間を考えれば、今すぐ動かなくては難しい。そうなれば、実働は自分の役目だとも感じていた。
まずすべきは、選手集め。関東に居ることが絶対条件だが、同時に、単に自分たちが仲が良いというのではなく、年齢やキャラクターも含め幅広い層に声を掛けることを心がけた。
「試合をするだけではなく、ファンの方も巻き込んで双方向性のあるものにしたい。その過程で選手の人間性を広く知ってもらい、個々の選手に固定ファンが付くようなイベントにしたい」
そのような理念を思い描いた時、イベント設立までのプロセスを、ファンと共有していこうとのアイディアも生まれる。なればどんなイベントにするかのアイディアも、ファンに提案してもらえば良いのではないか…?
そのような枠組みを2人で共有し、イベント運営経験のある先輩などから助言も得ながら、「オンラインミーティングを通じて、ファンと共に作り上げるイベント」という基本コンセプトが確立する。
参加8選手が確定し、有志のファンを交えての第1回オンラインミーティングが開催されたのは、それからわずか10日後のことだった。
2度のファンミーティングを経た、6月中旬。
イベントの開催日は7月9日(木)に決まり、運営資金を募るクラウンドファンディングもスタートした。ミーティングでは闊達な意見交換がなされ、クラウドファンディングの“リターン”にも、それらファンの声と願いが存分に反映されている。
さらに3度目のファンミーティングでは、イベントの正式名が『ONE IROS――わんいろ――』に決まったことが発表された。
この名は選手たちが打ち合わせを重ねる中で、穂積絵莉が提案したものだという。由来は、ギリシャ神話の夢の神である「Oneiros(オネイロス)」。
それぞれが持つ世界にひとつだけの色を用いて、自分の夢…そして選手やファン、果てはテニス界全体が共有しうる夢を、みんなで描く――そのような願いが、この名には込められている。
夢を描くために各々が重ねる色彩には、当の本人すら気づかぬトーンもあったという。
井上はミーティングを重ねる中で、「私、こんなこと考えていたんだ」と自分の想いを知ることが度々あった。同時に、ミーティングの司会進行を務める土居の姿に、「言葉選びも上手だし、大人数をうまく捌いている。こんな才能があるんだ、この子」と改めて驚きもした。井上が感じた、そのような自身や仲間についての発見は、恐らくは今回のイベントに参加する8選手全てが、多かれ少なかれ経験したことでもあるだろう。
公式ホームページによれば、イベント概要は最終的に、「8人の選手が2チームに分かれ、公式戦さながらの真剣勝負の試合とエンターテイメント要素のあるエキジビションマッチを行なう」という点に着地した。
イベントのリアルタイム中継はないが、後日オンライン動画で鑑賞可能。その視聴券も、クラウドファンディングのリターンの1つだ。
「何か面白いこと」――そんな漠然とした理念から掲げられた真っ白なキャンパスに、選手とファンたちが幾重にも色を重ね、ひとつの夢を描いていく。
文●内田暁
【写真】土居美咲ら海外で活躍する日本人プレーヤーたち
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June 28, 2020 at 02:24AM
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「女子でも何かできないかな…」土居美咲の思い描いたイベントが選手とファンの心を動かし開催へ!【国内テニス】 - ニフティニュース
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