かつての年功序列制度はすっかり息をひそめ、「大転職時代」といわれるほどに転職が当たり前の時代になった。この風潮は、知名度の低い中小企業にとって大打撃だ。退職者が出ても、応募者が集まらず条件にマッチする人材を選ぶことができないからだ。

業界の常識を覆す楓工務店・田尻忠義社長
そんな打撃をもろともせず快進撃しているベンチャー企業が奈良県にある。注文住宅やリフォーム、不動産などを手がける「楓工務店(奈良市)」だ。
建築業界は他と比較して離職率の高さが際立つが、楓工務店の新卒3年目までの離職率はわずか9%。大手企業で100人を超える新卒社員を採用しても、10年後には1桁の人数しか残っていないことがザラにある業界でこの数字は驚きだ。
さらには、若手不足が深刻な問題となっている建築業界において、新卒が社員全体の7割も占め、社員の平均年齢は29歳という。ベテランが少なくては質の高い施工は難しいのではないか、と思うかもしれない。しかし、楓工務店ではなんと訴訟件数が創業以来0件。顧客満足度98%を超えているというのだ。一般的にクレーム産業といわれる建築業界では、これも異例の数字だ。
新型コロナウイルス禍の逆境でも業績はうなぎ登りで、この10年で売り上げは6倍に成長。現在、県下の注文住宅、リフォームや不動産事業の順調な伸びに加え、保育や介護事業といった地域貢献にも力を入れる。
なぜ楓工務店は、厳しい状況にあっても理想の状況をつくり出せるのか。それは同社の田尻忠義社長独自の人材戦略にある。
無知だからこそ、限界を超えていける
住宅を購入すると、大抵の場合35年間ローンを払い続ける。言い換えれば顧客は、35年分ものローンをかけてまでの大仕事を施工者に任せるということだ。
「35年間、責任を持って顧客をサポートするために、長く続く会社をつくりたい。それには、顧客を満足させ続けることが必要」というのが田尻社長の根底にある思いだ。
一般的に建設業界で会社を長く存続させるための方法として思い浮かぶのは、売り上げを増やすために熟練の営業マンや腕の良い建築家を採用することだろう。
しかし業界経験者は、自分の過去の経験を基準にする傾向にある。業界構造の壁にぶつかったときに「それが常識だから仕方ない」と努力を放棄してしまうことがある。
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