サグラダ・ファミリア~輝く星の塔 マリアの祈り~ |
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放送:BS4K 6月6日(火)午前10:00~11:29(初回放送2022/6/25) |
出演:薬師丸ひろ子 、外尾悦郎 、鳥居徳敏 |
語り:三宅民夫 |
NHKアーカイブス:https://www2.nhk.or.jp/archives/movies/?id=D0009051447_00000 |
東京国立近代美術館の「ガウディとサグラダ・ファミリア展」(6月13日~)の開幕が迫り、改めてバルセロナの世界遺産、サグラダ・ファミリアへの関心が高まる中、10年以上にわたってサグラダ・ファミリアの取材を続けてきたNHKのベテラン番組制作者、星野真澄さん(55歳)にお話を伺いました。6月6日には星野さんが制作した「サグラダ・ファミリア~輝く星の塔 マリアの祈り~」が再放送されるほか、サグラダ・ファミリアや展覧会に関連した番組が次々と放送される予定です。(聞き手 美術展ナビ編集班・岡部匡志)
星野真澄さん NHKメディア総局プロジェクトセンターNHKスペシャル事務局長。1968年、長野県生まれ。92年NHK入局。「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」「プロジェクトX」などの番組ディレクターを担当。2011年3月放送のハイビジョン特集『二人の旅路―日中激動を生きた京劇夫婦』でギャラクシー賞受賞。著書に「外尾悦郎、ガウディに挑む 解き明かされる『生誕の門』の謎」(NHK出版新書)、「日本の食卓からマグロが消える日 世界魚争奪戦」(日本放送出版協会)
鮮明な映像に相応しいサグラダ・ファミリアの建築
Q 再放送される「マリアの祈り」では、サグラダ・ファミリアの周囲を初めてドローンで撮影した歴史的な映像が見られますね。
A これまでの番組収録で、建物の内部にドローンを飛ばしたことはあるのですが、サグラダ・ファミリアの周りは普通の住宅地ですし、常に観光客もたくさんいるので、万が一の事を考えて許可がおりませんでした。ところがコロナ禍で周囲にほとんど人がいなくなったので、特別に許してもらえました。コロナの影響なので喜んではいられませんが、ヘリコプターで望遠レンズで撮るのとは映像の質の点で全然違うので、そうした意味では有意義な取材ができました。
Q サグラダ・ファミリアの番組は、放送技術の進歩とともに歩んできたような印象があります。
A そう言われてみると確かにそうで、最初に私たちが制作した番組は2011年にした撮影したものですが、ハイビジョンの発展に伴って、サグラダ・ファミリアの壮麗な建築がそうした鮮明な映像に相応しい取材対象という側面はあったと思います。その後も8Kや4Kなど新しい放送が始まるごとに、番組の企画も考えました。8Kと4Kを同時に収録したこともあります。ドローン撮影もそうした放送技術の進歩の一環ですね。同じ建物を何度も取材することは普通はできませんが、サグラダ・ファミリアは年を追うごとにその姿が変わっていくので、記録性という意味でも重要だったと思います。
「ついでに」足を運び、衝撃の出会い
Q そもそもサグラダ・ファミリアを取材しようと思ったきっかけは。
A もう30年以上前になりますが、大学生時代の1990年に沢木耕太郎さんの『深夜特急』に憧れて、バックパックひとつでヨーロッパ旅行をしたことがあります。アートに関心があったので、バルセロナに寄ったのもピカソやミロの美術館に行くことが主な目的でした。たまたま時間があったので、ガイドブックに載ってるサグラダ・ファミリアも見てみるか、という軽い気持ちで、どんなモノなのかよく知らないまま足を運び、その迫力に強い衝撃をうけました。当時はバルセロナ五輪(1992年)の前で、観光地化もされていなかったので、ただの工事現場みたいでしたが(笑)もちろん、自分が将来、この建物に関する番組を作ることになるとは想像もしていませんでした。
Q その後、NHKに入局し、サグラダ・ファミリアの主任彫刻家、外尾悦郎さんとの出会いがあったのですね。
A 福岡放送局にいた2006年頃、福岡出身の外尾さんが帰国して、地元で講演会が開かれたことがあったのです。「サグラダ・ファミリアの人だ!」と昔を思い出して興奮し、講演会場で出待ち(笑)。御縁ができました。その後はメールをやり取りしつつ、取材のチャンスを伺っていました。
2週間通い詰めてようやく・・・
Q そして2011年の初めての取材となったわけですね。
A メールのやりとりで、外尾さんの大きな仕事となる「植物の芽」の彫刻の制作が佳境に入るということが分かり、これはチャンスと「外尾悦郎さんの独占取材ができます」という企画書を通して、クルーを伴って現地に。外尾さんに会ったら「本当に来ちゃったの……?」と微妙な反応で(笑)。「仕事場とプライベート以外だったら撮っていいよ」と言われてしまいました。
Q それでは番組になりませんよね。
A それから毎日、サグラダ・ファミリアに通って、仕事終わりの外尾さんをまた出待ちして(笑)。色々とお話するうち、2週間ほど経ったら「じゃあ出かけますか」と言われて、バルセロナ郊外にある巨大な彫刻制作の作業場へ連れていってもらえました。ようやく撮影ができてホッとしました
「ガウディを見るのではなく、ガウディが見ていたものを見る」
Q 以来、10年以上にわたって外尾さんの取材を続けています。
A 本当に魅力的な方です。握手をすると手が大きくてふっくらと柔らかく、一見、道具を使って石を刻む仕事をしている人とは思えません。「昔は下手だったから手はゴツゴツでマメだらけだった。無駄な力を入れなくても作業ができるコツがわかってようやくこういう手になった」と仰っていました。真の熟練を感じさせます。芸術家というより、職人であることに誇りを持っていて、「自分の名前を残すことに意味はない。ガウディの意思を継いで創り続ける職人たちの一部になれることが幸せだ」と。
外尾さんの話で印象的だったことに、「ガウディを見るのではなく、ガウディが見ていたものを見ることが大切」というのがあります。あれほどの歴史的建造物を天才建築家の仕事を引き継いで作り続けるわけですから、ついついガウディが当時作っていたものを研究して、そのマネをしてしまいそうですが、外見をマネしてもだめだと。ガウディが今生きていたら、どう考えるのかと考えて、そのときそのときで最良の選択をすることが大事なんだ、ということですね。
Q 創作ということの本質に迫るようなお話ですね。
A 「諸君、明日はもっといいものを作ろう」と常に職人たちに呼びかけていたというガウディの理念がそのまま実践として今も息づいているのです。
多様な価値観を認める「サグラダ・ファミリア」
Q 長年取材をしてきて、サグラダ・ファミリアの魅力をどう感じますか。
A 制作にあたって多くの人が関わり、多様な価値観を許容していることが印象深いです。外国人である外尾さんが働き続けていることがまさにそれで、例えとして適切であるかどうか分かりませんが、法隆寺の修復の中心に外国人がいる、と想像したら意味することが少し伝わるかもしれません。外尾さんの人並み外れた努力や才能が前提なのですが、それをきちんと受け止めて、評価できる周囲もすごいです。
そして外尾さんは制作の中心的な存在ではあるけれど、すべて決めているわけではないし、関わっている人それぞれが「ガウディだったらどうしただろう」と考えて、答えを出して進めています。だから細部を見るととても個性豊かなのですが、しかし全体としては不思議な統一感があります。
今回、マリアの塔に据え付けられた「星」はフランスの職人によって作られたものです。これも「今、一番いいものは何だろう」と考えて判断した結果でしょう。そうした環境はガウディが作り上げた伝統なのか、バルセロナという土地に根ざしたものなのか。いずれにせよ、サグラダ・ファミリアが魅力的である大きな理由だと思います。
「永遠の未完成」にこそ価値
Q 永遠に完成しないのではないか、と言われていたサグラダ・ファミリアですが、近年になって完成時期が具体的に取り沙汰される情勢になっています。どう感じますか。
A 完成しないと私は思います(笑)。土地買収とかリアルな課題もあるのですが、それよりずっと未完成であることにこそ価値があるのではないでしょうか。完成すること自体に意味はなく、良いものを作り続ける行為にこそ尊いものがある、と感じます。世界で紛争が深刻になり、貧富の差が拡大し、分断が続くなか、サグラダ・ファミリアの安らぎに満ちた空間は一層、世界にとって大切なものになると思います。今回の番組でも平和が大きなテーマでした。今後もそうしたことを伝えていきたいと思います。(おわり)
■ サグラダ・ファミリア~輝く星の塔 マリアの祈り~
放送:6月6日(火)10:00~11:29 BS4K
内容:スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリア教会。2021年12月、世界中が見守る中で新しい塔が完成した。高さ138m、頂上に星を冠した「マリアの塔」。コロナ禍で一時は工事を中断しながらも諦めず建設を続けた背景には「困難な時こそ人々のために」というガウディの時代から受け継がれてきた精神があった。人々の大きな希望となったマリアの塔。そこに込められた「平和への願い」を案内人・薬師丸ひろ子さんとひもとく。
◆「サグラダ・ファミリア」関係では、ほかに以下の番組の放送がきまっています。この他にも発表があり次第、情報を発信していきます。
<Eテレ>7月26日(水)22:00~22:29NHKアカデミア「外尾悦郎・前編」
<Eテレ>8月 2日(水)22:00~22:29NHKアカデミア「外尾悦郎・後編」
(美術展ナビ編集班)
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