世界一に沸いたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。決勝で本塁打を放った村上宗隆選手をはじめ、プロ野球選手が使うミズノのバットは全て、ミズノテクニクス養老工場(岐阜県養老郡養老町高田)で作られる。もう一つの主力製品のゴルフクラブも含め、「クラフトマンシップとテクノロジーの融合」で選手の活躍を支える確かなスポーツ用品を世に送り出し続ける。
野球のダイヤモンドが床に描かれたバット工場に入ると木の香りが漂う。棚に整然と並んでいるのは「丸棒」と呼ばれる円柱型の木材。樹種はメープルやホワイトアッシュで、現在は全て北米から輸入している。
丸棒は「倣(なら)い加工機」と呼ぶ機械で一定の形まで削る。量産品と別注品で異なるが、いずれもセットしたバットや金型の形をまねるように丸のこが動き、刃を押し当てて削り出す。回転速度を変えて、粗削り、削り、仕上げ削りを経てバットの形に近付けていく。
同じ樹種でも一本ずつ癖がある。その癖を見極め、ミリ単位やグラム単位の精度で削り出すのが「クラフトマン」と呼ばれる熟練の職人だ。プロ用のバットは、クラフトマン2人でセ・リーグとパ・リーグを担当。年間1万本以上を削る。
オフシーズンには選手が工場に隣接するバット工房を訪れ、キャンプ中はクラフトマンが遠征。球を打った選手の感触をじかに聞いて目の前で削り、再び打つ。長さや重さ、重心、グリップの形状などは選手によって千差万別。のみやかんなを駆使してマスターモデルを完成させる。能勢孝行社長(57)は「人が道具に合わせるのではなく、道具が人に合わせることで付加価値が生まれる」と話す。
別の建屋にはゴルフクラブの製造工場がある。クラブはヘッド、シャフト、グリップで構成。ヘッドは鍛造品を仕入れ、まず人の手で粗研磨を行う。削ると重量が変わるため、研磨しては重さを細かく確認。職人の目と感覚で偏りがないように慎重に削る。磨き研磨を経て、金属の美しい光沢が表れた。サンドブラストやメッキ加工、ロゴの刻印など全6~8の工程を経て完成する。
ヘッドで重要なのがライ角とロフト角と呼ばれる二つの角度。両方を一度に調整するため難しく限られた職人のみが担う重要な工程で、力を加えて曲げ、1度以下の微妙な角度を調整していく。シャフトはシート状になったカーボンやスチールなどの素材を筒状に丸めて作る。重心が偏らないよう斜めに巻いていく。
組み立ての製造ラインは量産品や別注品で三つに分かれる。他のメーカーはグリップを最後に取り付けるのに対し、同社はヘッドが最後。グリップは均質に見えて偏りがあり、完成品に影響するためだ。バランス調整の樹脂パーツをシャフトとヘッドの間に入れて仮止めし、機械で熱して接着して完成。オーダー品にはY(養老)の刻印が入る。
能勢社長は、社の強みを「高い技術を持った職人の存在と、加工機械の開発を自社でも行っている点」と説明する。工場設立から今年で80年となるが、「扱う製品は変わっても、ものづくりへの愚直さは変わらない」と自負を語った。
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