福島県中部に位置する須賀川市は、特撮怪獣映画『ゴジラ』や、特撮テレビドラマ『ウルトラマン』の生みの親で知られる特撮監督、円谷英二(1901-1970)の生まれ育った街。「円谷英二ミュージアム」は、「特撮の父」と呼ばれる円谷の功績や特撮の魅力を発信し、次世代へ生きる人々の夢や学びの場として2019年1月に開館した。
福島県須賀川市:「M78星雲 光の国」の姉妹都市
福島県須賀川市は「M78星雲 光の国」、ウルトラマンの故郷の姉妹都市にもなっている。
特撮(特殊撮影技術)とは、映画の舞台となる街や風景のミニチュアセットを作り撮影し、映像・撮影の合成技術を駆使して、実際の撮影が困難な空想世界を作りだす撮影技術。1960年代に黄金時代を迎えたが、近年CG技術の発達とコストダウンにより、大規模なミニチュアのセットを用いる特撮の出番は減った。過去の作品で用いられたミニチュアの造形物や背景画など、関連資料が劣化・散逸の危機にさらされている。2020年11月には「須賀川特撮アーカイブセンター」が開館し、「特撮の父」の故郷は、特撮を文化として広く継承し、収集・保存・修復及び調査研究する役割を担っている。
駅から円谷英二ミュージアムへ向かう道、松明通りでは姉妹都市からやってきたウルトラヒーローや怪獣たちが迎えてくれる。ウルトラマンタロウ、ウルトラの母、ベムスター、ゴモラ、ピグモン、ウルトラマンほか、街の中で懐かしい顔ぶれと出会うことができる。
円谷英二ミュージアムは、tette(テッテ)という須賀川市民交流センターの5階にある。建物の中に入るとエントランスの「ひかりのまちひろば」で、「ウルトラマンシリーズ」に登場する宇宙ロボット・キングジョーと宇宙忍者・バルタン星人、どくろ怪獣・レッドキングがお出迎え。
特撮の父
展示には、円谷の生涯を振り返る「円谷英二クロニクルボックス」というスペースがある。須賀川の麹屋「大束屋」に生まれた円谷は、少年時代に飛行機操縦士の夢を抱く。飛行機学校に入学するも、学校の飛行機の墜落事故により勉強を続けられなくなってしまう。その後、映画技師の枝正義郎との出会いにより映画制作会社で働くことになり、撮影技術の研究に勤しむこととなる。また、空中撮影のカメラマンとして飛行機に乗る機会も得る。
1933年、円谷はアメリカの特撮映画『キング・コング』を見て感動し、特撮技術者になる決心をする。戦中戦後の紆余曲折を経て、1954年に製作された日本初の特撮怪獣映画『ゴジラ』が大ヒット。展示されているゴジラのスーツは、円谷と同じ須賀川市出身の怪獣造形作家の酒井ゆうじ氏監修で初代ゴジラのスーツを再現したもの。ミュージアム開館の際に撮影されたミュージアム特別映像『〜夢の挑戦 ゴジラ須賀川に現る〜』において使用された。ゴジラのデザインには、ステゴサウルスの背びれ、ティラノサウルスの骨格など、当時公表されていた恐竜の姿を重ね合わせた特徴が見られる。
空想アトリエー特撮映画の発想の源
空想アトリエと名付けられた展示スペースには「空想機械学」、「空想生物学」など様々なテーマごとに分け、それぞれに関連づけた怪獣やメカ模型などを展示し、関連図書も配架している。円谷監督や特撮の発想の元となったテーマや図書に触れることができる。
特撮による空想の科学も、常に現実の科学による最先端とせめぎ合ってきた。大空をとび、宇宙を目指すロケットも重要なテーマだった。特撮の黎明期の背景には、冷戦中のアメリカとソ連(当時)の宇宙開発合戦が繰り広げられていた。
「特撮世界と環境学」というコーナーでは、人間が制御できる範囲を超えた科学技術への過信や公害問題を戒める化身としての怪獣たちが紹介されている。中でもヘドラは、公害をテーマにした『ゴジラ対ヘドラ』(1971)の中で、ヘドロから生まれた新怪獣。隕石で地球に飛来した宇宙生物が、工場排水で海に生じたヘドロを養分として急成長した。オタマジャクシ状から飛行形態、直立歩行形態など数段階にわたり変態する。
「空想生物学」というコーナーでは、怪獣を生み出した発想などを紹介。
これまで人類が神話や伝説の中で生み出してきた想像上の生物たちは、実在する生物を巨大化したり、複数の生物を組み合わせたりして創造されてきた。近代になり、恐竜の発掘などが進むにつれて科学的・生物学的な知見とともに怪獣たちもバラエティ豊富に展開した。
『モスラ』(1961)に登場するモスラは、両翼の長さが250メートルにも及ぶ巨大な蛾の怪獣。
特撮映画では時折、怪獣たちの生物としての成長過程が物語の重要な鍵となる。
モスラは、卵から幼虫、繭を経て、成虫へと変態する。南太平洋にあるという架空の島、インファント島の守り神。巨大な卵は虹色をしており、インファント島の祭壇に安置されている。原住民たちの儀式が最高潮に達した時、守護神モスラの幼虫が誕生する。
特撮スタジオ:チームによる総力の結集
展示コーナー「特撮スタジオ」では東宝撮影所(現・東宝スタジオ)の円谷組の撮影風景がミニチュアジオラマで再現されている。円谷最後の映画作品『日本海大海戦』(1969)の大プールでの撮影シーンでは、様々な特撮の現場に関わる人々の仕事ぶりを垣間見ることができる。企画準備から特撮が完成するまで特撮パートの全てを仕切る指揮官である特撮監督。被写体全てを設計し、製作する特殊美術。特殊効果は火薬を使った爆発や火花、街や山の炎上、煙や霧を作り出すためのスモークやドライアイス、怪獣の火吹きなどを扱う。操演は、動かないものに命を吹き込み、戦艦を操舵したり、怪獣映画では怪獣の尻尾や首、羽根などをピアノ線で操り、埃や風の効果も担当する。
東宝第8ステージで円谷が須賀川を舞台にした初代ゴジラの特撮作品を撮っていたらという想定で、撮影現場が再現されている。
特撮セットにおける照明は、単に太陽光線の代わりではなく、狙いに応じた劇的な空間を演出する。夜の街をライトアップするサーチライト、壊れるビルの中で光るフラッシュ球、怪獣の光線が当たった照り返しなどシチュエーションに応じてさまざまな技法を駆使する。
展示コーナー「特撮スタジオ」の壁面には、特撮美術の背景画家、島倉二千六氏による直筆の背景が見られる。東宝では、『宇宙大戦争』(1959)を皮切りに背景作画を担当し、以後『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)など円谷特技監督をはじめ、映画・テレビから舞台や博物館、美術館の展示背景まで幅広く描く。短時間で仕上げることができるという島倉の雲や山岳や宇宙は、スクリーンやテレビ画面の向こう側に果てしなく広がる空間を作り出す。
災厄の化身―怪獣
特撮に関わった円谷たち世代は、戦前、戦中、戦後の焼け野原、復興を経験した。科学の発達、宇宙開発など、高度成長期の怖いもの知らずの人類の闇に起こった災厄に警鐘を鳴らした。彼らは、戦争や核の恐怖、原水爆反対(第1作ゴジラ)、高度成長期の公害や環境問題についての自分達の声を荒ぶる化身たち怪獣に託した。怪獣たちは科学文明によって人知を超越した存在に変貌した。
東日本大震災後は、『シンゴジラ』(2016 総監督 庵野秀明、監督・特技監督 樋口真嗣)がCGを駆使して発表された。災厄の化身、怪獣たちは、その時代の社会問題に警鐘を鳴らす形代として人間の想像力と最先端の技術力が結集し、メッセージを発信し続けている。(キュレーター・嘉納礼奈)
「円谷英二ミュージアム」 |
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住所:福島県須賀川市中町4-1 |
休館日:毎週火曜日、年末年始(12月29日~1月3日) |
開館時間:9時~17時 |
入場料:無料 |
詳しくは、同ミュージアム |
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