
アタックス研究員・坂本洋介
本紙において、2011年から4人の筆者のリレー形式による読者の経営の役に立つ、参考になる情報を提供し続けてきた。この原稿をもって、本連載は終了となるので、最後にテーマとなっていた「知恵の経営」とは何かを振り返ってみたいと思う。
「しゅうち」という言葉があるが、それには同音異義語として「周知」と「衆知」という2つの言葉があり、それぞれ意味が異なる。まず「周知」とは、広く知らせること。または既に広く知れ渡っていることという意味であり、もう一方の「衆知」とは、「多くの人々の知恵」という意味の言葉だ。この多くの人というのは1人や2人ではなく、より多数の人々のひらめきやアイデアを指している。つまり、知恵の経営とは衆知を元にした経営であるといえる。
この衆知という考えを経営に生かした代表的経営者が、松下電器産業(現パナソニック)を創業し、世界的企業へと成長させた松下幸之助だ。同氏は1978年に出版した『実践経営哲学』の中で次のように言っている。「衆知を集めた全員経営は、私が経営者として終始一貫心掛け、実行してきたことである。全員の知恵が経営の上により多く生かされれば生かされるほど、その会社は発展する」
さらに、衆知の集め方についても、「自分には学問、知識がなかったから、必要に迫られて、従業員皆に相談し、皆の知恵を集め、衆知経営を実践したのだ」と言っている。
この衆知の必要性・重要性を、この1年以上に渡る新型コロナウイルス禍での政府・各企業の対応をみるとより強く感じる。一見、多くの人が集まって解決に向けた議論を進めているように見えて、実際には誰一人として知恵を出すことをせず、また有効な議論もなされることもなく、全くと言っていいほど議論が前進していないからだ。
これからも、コロナ禍の中で、VUCA(V:Volatility(変動性)、U:Uncertainty(不確実性)、C:Complexity(複雑性)、A:Ambiguity(曖昧性)といわれる先行きの見えない予測不能な状況が続いていくことは間違いないだろう。
このような時代だからこそ、1人の強力な指導者のリーダーシップに頼るのではなく、これまでの連載の中でも紹介してきたような、従業員の声・知恵を集める提案制度であったり、上司からの指示をただ待つのではなく、目的達成のために、組織のメンバー全員が個別に自分の意志で考えて行動できるティール組織のような組織を構築していくことで、自律型人財を育成していくことが強く求められる。この難局を乗り越えるために、今後も「知恵の経営」を実践し続けてくれることを強く願っている。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ220人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡、仙台でサービスを展開している。
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