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Monday, February 1, 2021

ゲームストップ革命、ここに至る原動力は何か - Wall Street Journal

――筆者のジェイソン・ツヴァイクはWSJパーソナル・ファイナンス担当コラムニスト

 素人トレーダー集団がウォール街随一の切れ者たちを、まるで間抜けのようにみせた1週間だった。

 1月25日~29日の間に、個人の寄せ集め部隊が米ゲーム小売りチェーン、ゲームストップの株を500%押し上げ、他の多くの銘柄も急騰させた。こうした銘柄の多くは3日間で、大半の銘柄の10年分を超えるほど急伸し、逆の動きに賭けていたヘッジファンドは数十億ドルの損失を被った。

 これは50年近くに及ぶ市場の民主化が最高潮に達したといえる動きだ。これを始めたのは、他ならぬ米資産運用大手バンガード・グループ創始者の故ジャック・ボーグル氏だった。

 だがこの1週間の金融革命がどれほどの興奮を呼ぼうとも、投資家はそれを長い進化における最新の段階と捉えるべきだ――そして市場全体を混乱させる可能性は低いと。

 それでもこれは注目すべき瞬間だ。まるで、米プロバスケットボール(NBA)のロサンゼルス・レイカーズの試合をテレビ観戦していたカウチポテト族が、ビールとナチョスを一気にのみ下してコートに押し寄せ、レブロン・ジェームズのシュートをブロックし、アンソニー・デービスに容赦なくダンクを食らわせたかのようだ。

 アマチュア投資家は常にプロより有利な立場にいる。彼らは長期的に投資し、短期的成果は無視してもよい。アンダーパフォーマンスを理由に解雇されることはなく、最悪のタイミングで資金を投じたり引き揚げたりする顧客もいない。

 ところが今、素人トレーダーたちはその特権を進んで行使し始めた。彼らは瞬時に連絡を取り合い、数千人単位で――あるいは数百万人単位で――団結し、手数料なしで株取引を行うことができる。

 オンライン掲示板レディット上のフォーラム「ウォールストリートベッツ」に参加するメンバーが先頭に立ち、ヘッジファンドなどの機関投資家が値下がりを見込んでいた銘柄を大量に買う素人集団を主導している。

 こうしたトレーダーは、たとえ個々の投資はごく少額でも、同調して一斉に動くことで株価を大きく上げ下げできる。一方、プロのトレーダーは、法的に共謀が禁じられているほか、はるかに高額の仲介手数料を払っている。

 素人トレーダーという新たな暴徒は、まとまって行動する野生動物の群れに似ている。あなたも魚の一群が海の中で同時にきらめく様子や、ムクドリの大群が空に巨大な弧を描いて飛ぶ動画を見たことがあるかもしれない。

 こうした群れは獲物を見つけたり捕食者を避けたりするために、突発的に協調した動きで方向転換もできる。

 ただ、この動きを名もなき人々によるウォール街のエリート層に対する正面攻撃だと考えるのはあまりに短絡的だ。

 この新種のトレーダーを風刺漫画のように描くなら、生まれ育った家の地下室に引きこもる19歳の若者だ。新型コロナウイルスの大流行で外出できず、退屈している。賭けの対象になるスポーツイベントも減ってしまい、景気対策で支給された小切手を使いたくてウズウズする中、その若者は株式取引に楽しみを見いだす。そして大抵はより大きく、より手早く利益を手にできるオプションを売買する。

 このステレオタイプはある意味で真実だ。「ウォールストリートベッツ」の文化は未熟で粗野なものになりがちで、リスクを顧みず短期的なスリルを求める。ただ、リーダーの中には非常に洗練された人もおり、株取引に殺到する素人全員がウォールストリートベッツのメンバーというわけではない。

 ショーン・マッティングリー氏(35)はオレゴン州ポートランド在住の半導体エンジニアで、低コストのインデックスファンドに幅広く投資するシンプルなポートフォリオを好み、短期売買とは無縁だ。

 同氏は1月25日、「ボーグルヘッズ(Bogleheads.org)」という長期投資を推奨するお気に入りのフォーラムを見ていた。そこで偶然目に留まったのが、ゲームストップ株の乱高下に言及した投稿だ。

 慎重派のマッティングリー氏は、危険そうな投資に使う資金をポートフォリオの5%以内に抑えている。ウォールストリートベッツを閲覧した後、「これは面白いかもしれない。いちかばちか買って何が起きるか見てみよう」と考えた。

 同氏は1月26日、ゲームストップ株が約110ドル(約1万1500円)の時に「20株弱」を購入。同株を保有すること自体、「ものすごく楽しかった」と話す。先週一時483ドルの高値をつけた。それだけではない。「ムーブメントの一部になること――予想すらしないまま――も本当に楽しかった」と語る。(1月29日午前に1株400ドルで売却し、「最高の気分だった」と同氏は言う)。

 このムーブメントは、ボーグル氏の理想が生み出した怪物だ。バンガード創業者の故人が1975年に最初のインデックス型投資信託を世に出してから、投資コストがひたすら下がり続けた45年間の集大成となる。株式ファンドはかつて手数料が最大8%、年間費用が最大2%もかかったが、今では手数料ゼロ、年間費用0.05%弱でインデックスファンドを購入できる。

 数十年前なら、小口投資家は株取引に5%程度の手数料を払ったかもしれない。当時の株式仲買人は美しい羽目板を張ったオフィスで9時から5時まで働き、客が売買するたびにそのポケットから金をかすめ取った。だが近頃はスマートフォンのアプリを使えば、いつでも好きな時に手数料ゼロで株を取引できる。あなたのポケットに株式仲買人がいるようなものだ。

 ウォールストリートベッツでこの進化は最終段階を迎えた。大勢の人々の少額取引を集めた資本の巨大プールを作り、互いを駆り立てて集団的熱狂へと突き進むのだ。

ゲームストップ株の乱高下でウォール街は混乱している。オプション取引がこの動きに拍車をかけた仕組みを解説する(英語音声・英語字幕あり)

 神経科学者が言う「ダイナミック・カップリング」では、同じ作業に携わる異なる人々の脳の活動が一つに収束し、同調するようになる。プリンストン大学のウリ・ハッソン教授(神経科学)によると、そのような状況では「私があなたの行動の仕方を形成し、あなたが私の行動の仕方を形成する。おびただしい数の個人が協調した行動を取ることで、個別に生み出せるものを超えた大きなダイナミクスを生み出すことができる」

 それはまた、感情を高ぶらせることがある。空売り筋のヘッジファンドは金融エコシステムにおいては弱小勢力で、その運用担当者はエスタブリッシュメント(既得権益層)の一員というより、一匹オオカミが多い。だが「フラッシュモブ」と化した群衆は、空売り筋を時として「ゴリアテ」(訳注:旧約聖書に登場するペリシテ軍の巨人でダビデに殺される)のように描き出す。

 1月28日、オンライン証券大手が最も値動きの激しい銘柄の買い注文を制限すると、何千人もの個人トレーダーがソーシャルメディアで一斉に怒りをぶちまけ、是正を要求し、「絶対に後に引くな」と励まし合い、株を売らないよう念押しした。

 ダビデ対ゴリアテは誇張された描き方ではあるが、証券会社の取引制限に対する大衆の怒りは本物であり、ワシントンはすぐこれに呼応し、数人の連邦議会議員がこの件の調査を要求した。

 テクノロジーの後押しで社会の投機熱が高まる現在の市場は、1999年から2000年初めの状況とそっくりだ。当時、証券会社のテレビ広告では母親がパジャマ姿でデイトレードに興じる姿を流し、レッカー車の運転手にも南国の島が買えるくらいもうかるとうたっていた。

 あるいは投資家が電信・電話を広く利用できるようになり、新世紀を迎えた熱意に沸き立っていた1901年をほうふつとさせる。ニューヨーク証券取引所(NYSE)の出来高は前年比2倍の2億0900万株に膨れ上がった。当時としては未曽有の数字だった。同年4月24日、ユニオンパシフィックの発行済み株式のうち3分の2が売買された。NYSE全体の年間売買回転率(株式売買のペースを示す指標)は319%に達し、この記録は約100年間破られなかった。

 数千軒もあった潜りの株仲買店では、個人が株を買わずに株価が上がるか下がるかの賭けをしていた。合法的な会社が要求する最低額よりずっと安い5ドルか10ドルで株価の方向性に賭けができるため、潜りの株仲買店は大盛況だった。多くの州で違法であったにもかかわらずだ。

 「働かずに裕福になりたいという願望は、いつの時代もまん延している」。ジャーナリストで経済学者のホレス・ホワイト氏は1909年にこう書き記した。「人間の本質が変わらない限り、これからも続くことは間違いない」

 翻って今日のフラッシュモブ・トレーダーの話に戻ろう。彼らが遊び道具にした少数の銘柄にとどまらず、彼らは株式市場に全体としてどのような影響を与えたのだろうか?

 約100銘柄をほぼ均等に保有することを目指すSPDR S&PリテールETF(上場投資信託)では、1月27日にゲームストップ株が総資産のうち19.9%に達した。だがこのような小規模で特化したファンドは、米株市場の約42兆ドルという大海の小さな滴にすぎない。

 米投資会社マタリン・キャピタル・マネジメントによると、12月31日時点で、映画館チェーン大手AMCエンターテインメント・ホールディングス、カナダのブラックベリー、米アイロボットのように大量に空売りされた銘柄や、そのほかフラッシュモブのお気に入り銘柄が、S&P500種株価指数に占める比率は0.13%で、主要な小型株指数に占める比率も4~5%にすぎなかったという。

 1月27日になっても、最も空売り比率の高い銘柄はS&P500の0.17%を占めるにとどまった。小型株の指標であるS&Pスモールキャップ600指数では8.6%、ラッセル・マイクロキャップ指数では11%とおよそ2倍に拡大したが、それでも分散投資を十分に行う投資家が大きな影響を感じることはないだろう。

 ディスティレート・キャピタル・パートナーズによると、2021年のS&P 500の年初来ボラティリティーは若干上昇したものの、1928年以降記録されている水準のほぼ中央に位置するという。ゲームストップなどフラッシュモブの人気銘柄を含むS&Pスモールキャップ600指数でさえ、2021年の変動幅は長期平均値に比べて約3分の1縮小している。

 これらを総合的にみれば、フラッシュモブに人気の高い20数銘柄から30数銘柄を除いて、市場にさほど大きな影響を与えていないことがわかる。

 2010年5月6日に株価の瞬間的急落「フラッシュ・クラッシュ」の引き金になったコンピューター取引の一時的障害は、高速・高頻度取引を手がけるトレーダーを苦しめたが、長期的な投資家は無傷のままだった。同様に、今回の騒動は投資家のポートフォリオよりも、彼らの関心に与える影響の方が大きくなりそうだ。

 金融フラッシュモブは、近年世界を席巻してきたポピュリスト的な混乱を象徴するか、もしくはその症状かもしれない。ただ、それが混乱を引き起こす原因になる公算は小さい。

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