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Wednesday, December 30, 2020

パンデミックで問い合わせ殺到「建物のマイクロバイオーム」とは何か? | 新型コロナウイルスが圧倒的に屋内で感染しやすい理由 - courrier.jp

Photo: Janis Lacis / Getty Images

Photo: Janis Lacis / Getty Images

Text by Caroline Winter

新型コロナウイルス感染症のパンデミックのせいで、私たちは建物の衛生状態や換気に、これまで以上に気をつけざるをえなくなった。とにかく消毒したい気になるが、じつはそれが解決どころか根本的な問題の原因になっているかもしれない。「建築環境の微生物学」の最先端ではいま何が起きているのか──。

いまから4年前のこと、建築学の博士課程の学生がルーク・リャンに助言を求めた──何かいい論文のテーマはないだろうか。

世界一高いビル、ドバイの「ブルジュ・ハリファ」の事業も手がけたエンジニアのリャンはこんなお題を提案した。

「天国とは何か?」

世界最大級の建築事務所「スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル」(通称「SOM」)のサステイナブル工学スタジオ主任のリャンはこう回想する。

「その学生は徹底的に調査し、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教といった信仰の違いにかかわらず、天国とは必ず、庭園と流れる水があるところだということを発見したんです。

そこでわれわれは問いはじめました──『もしそれが天国だとすれば、私たちが生きている場所はいったい何なんだ?』」

なぜ建物が病気を媒介するのか?


西洋諸国だと、人はその生涯の9割の時間を屋内で過ごす。平均的なアメリカ人はさらに多く、93%の時間を、建物や車のなかで過ごす。

科学者たちは長年、屋外との断絶が多くの慢性的な健康被害につながっていると警鐘を鳴らしてきた。アレルギー、ぜんそく、うつ病、過敏性腸症候群、肥満などの健康被害だ。

最近では、なぜ建物が、しかもできるだけ無菌になるよう設計されたものでさえ、病気の媒介となっているのかを各分野の専門家が研究しはじめている。新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行して以降はなおさらだ。

リャンは言う。

「中国では7300件を超える研究がなされましたが、そのうちの何人が屋外で新型コロナにかかったと思いますか? たった2人です」

米国ミネソタ州で起こった「ブラック・ライブズ・マター」ムーブメント後の初期検査でも、屋外での新型コロナ感染はまれなことが示された。

何千人も集まって会話し、大声を上げ、スローガンを唱えたときでさえ、大半の人がマスクをつけていた場合は、少なくともそうだった。検査を受けた1万3000人を超える抗議参加者のうち、陽性者はわずか1.81%だった。他州でも同様の結果が出た。

屋内の「マイクロバイオーム」?


建築設計における「自然との不均衡」が、慢性疾患の蔓延と現在のパンデミックの一因だとリャンは言う。

空気の循環と太陽光の相対的欠如は明らかな課題だ。気温、湿度、そして屋内の空気汚染もその一端を担っている。

だがもうひとつ、あまり論じられていない要因がある。建築環境のマイクロバイオーム(微生物叢)──つまり、細菌、菌類、ウイルスなど何兆もの微生物の総体だ。

15年ほど前まで、科学者はおろか、ましてや建築家、デザイナー、エンジニアが、屋内の微生物に注目することは珍しかった。ただし、黒カビや、レジオネラ症を引き起こすレジオネラ菌など、露骨に問題あるものは別にしてだが。

事態は、2001年の炭疽菌テロのあとで変わった。致死的な細菌が混入された手紙が政治家や報道機関に郵送され、死者5人、感染者17人が出た事件だ。

非営利組織「アルフレッド・P・スローン財団」の専門家たちは、生物テロの脅威を軽減する建物の役割を検討しはじめた。そこで、屋内にどんな微生物が存在するのかをほぼまったく知らないことに気づいた同財団は、何千万ドルもの大金を研究に注ぎ込んだ。

ほどなくして科学者たちは、急速に進化する屋内の微生物集団の豊かな生態を発見した。

重要なことに、屋内の微生物集団の多くは、屋外の集団とほとんど重複していなかったのだ。後者には、何百万年もかけて人間と共進化してきた有益な種類が含まれている。

未来の建築とマイクロバイオーム


世界的なパンデミックが猛威を振るういま、こうした研究者の需要が突如として高まっている。

「予定はほぼ埋まっています」と言うのはオレゴン大学「生物学・建築環境センター」主任のケビン・バン・デン・ワイメレンバーグだ。

かつては、建物の衛生を改善する方法について助言を求める問い合わせが、週に2、3件あったくらいだ。いまでは1日に20件の問い合わせが来る。

「ありとあらゆる人々からです。病院から大規模な商業不動産、老人ホーム、学区、私の友人たちにいたるまで。友人たちは理髪店をやっているんですが、客の髪にドライヤーをあてるべきかあてないべきか決めようとしているんです」

いうまでもなく、微生物にまつわる喫緊の問いは、どこにコロナウイルスがいるのか、そしてそれをどう殺菌できるのかだ。

長期的な問いもある。私たちを慢性疾患にかからせない、あるいは致命的な病原体をかくまわない微生物集団をどう発展させられるのか? 農家が畑を耕すように、建物のなかで有益な微生物を培養することは実際に可能か?

バン・デン・ワイメレンバーグは言う。

「これから建物を運営する人や設計する人は、マイクロバイオームをどう形成するか考えることになるだろうと信じています」(つづく

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