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Monday, August 3, 2020

怪異とは何か 読み解く懐徳堂の知性 - 産経ニュース

懐徳堂跡に残る碑の前で話す木場貴俊さん=大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)
懐徳堂跡に残る碑の前で話す木場貴俊さん=大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)
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 お化けは本当にいるのか、不思議な現象はなぜ起こるのか-。江戸時代、こんな疑問を儒学、中でも朱子学の観点から研究した学問所が現在はオフィス街が広がる大坂・淀屋橋にあった。町民が学んだことで知られ、大阪大学の源流とされる懐徳堂だ。この場所で怪異はどのように捉えられていたのか、国際日本文化研究センターの木場貴俊プロジェクト研究員(41)とその跡地を訪ねた。  (藤原由梨)

不思議なことは計り知れない

 懐徳堂は、江戸幕府で徳川吉宗が8代将軍を務めていた享保9(1724)年に創設された。「五同志」と呼ばれる5人の豪商の出資によりつくられ、開設から2年で学問所として幕府の公認を得た。

 「勉強したい有志が個人で作った学問所です。今でいうと、自主的なカルチャーセンターのような場所ですかね」

 木場さんは、懐徳堂跡地の碑を指し示しながら言う。明治2年に財政難で閉校するまで約140年間にわたり、山(やま)片(がた)蟠(ばん)桃(とう)や富永仲基ら多くの人材を輩出した。跡地には現在、日本生命本店本館が建ち、その由来を書き示した碑がビルの壁面に埋め込まれたように残るだけだ。

 まずは、初期の代表的な講師、五井蘭洲(ごいらんしゅう)(1697~1762年)の説から説明を受ける。蘭洲は怪異に対して「もとより変怪はかるべからず、是をしらぬは我智のいまだ至らぬ故也」(茗話)と記した。「不思議なことは計り知れない。ただそれは自分の知がそこまで至っていないからです」という意味という。裏を返せば、勉強すれば不思議なこともその理由を知ることができるという、人間の可能性を肯定する主張だ。

 例えば、キツネが起こしたとされる怪異も、キツネは人についたり化けたりはせず、それは人が作り出したものか、売僧(まいす)の仕業だとする。「今でいう霊感商法だろうと喝破しているんですよ」

 「朱子学は、合理的に怪異を説明できると考える。これを『無鬼論』といいます。人間の知性に限界はない、というのが懐徳堂の精神です」。蘭洲の考え方は、後輩に受け継がれた。

大坂の人の知識欲とは

 この日は今にも雨が降り出しそうな怪しい雲行きだった。蒸し蒸しと湿度が高く、木場さんは、大量の汗をかきながら話を続ける。

 次に懐徳堂の黄金期を築いた中井竹山(1730~1804年)が登場する。竹山は徳川家康に関する歴史書「逸史」の著作などで知られる。「竹山はやり手。寛政の改革を断行した老中、松平定信が来坂した際に諮問に答え、それが『草茅危言(そうぼうきげん)』としてまとめられています」

 この中で「出雲の大社の龍燈、備中の吉備津の宮の釜鳴など、鬼神の威令に託して、巫祝(ふしゅく)輩の愚民を欺き、銭を求むるのを術とす」などと記し、神の命令や霊怪を悪用して金もうけをする宗教者と、それにだまされる民衆を批判した。

 懐徳堂跡地から100メートルほど東に歩くと、蘭学者、緒方洪庵が弘化2(1845)年に開いた私塾「適塾」の建物が国の重要文化財として残っている。

 「懐徳堂も適塾も、当時の最先端の学問を学ぶことができた。当時の大坂の人の知識欲には驚かされます」。木場さんはさらに汗をかいている。

コロナ禍にも必要な判断力

 そして、懐徳堂の歴史は終盤へ。最後の教授、並河寒泉(なみかわかんせん)(1798~1879年)が怪談の形成と広がりを追究した「弁怪」を書き、懐徳堂無鬼論の集大成となる。寒泉は、怪談の広がりの根源には、人々が奇怪な現象を明らかにすることができないまま発信してしまうことがあると指摘した。そのうえで、怪異を、詐謀によるもの、客観的事実を不思議なこととするもの、自分は怪しまなくても他人が不思議に思うもの-の3つに大別し、それぞれの対策を述べた。

 「懐徳堂の人たちは、分からないものを知をもって解説しようとした。不思議を不思議ではなくそうとすることに、学問的な魅力があったのです」

 ただ、分からないものを怖がることと、楽しむことはコインの裏表だ。それが人々に怪談話が好まれる理由で、恐怖は時にエンターテインメントになる。

 現代に目を転じても、IT(情報通信)技術が進み、情報量もより多くなり、その情報に踊らされる機会も圧倒的に増えている。「個人が情報をどう判断するか、どう行動するかがより強く問われている時代です」

 そこで「新型コロナウイルス感染拡大で、誤った情報も面白おかしく拡散される現代社会は、怪奇を信じた昔から進歩していないのでしょうか」と水を向けてみた。少し考えて「情報を適切に咀嚼(そしゃく)する力は、今も昔も変わらず必要なことです。何が正確なのかを見極めるのは、個人の知性によるところが大きい」と木場さんは締めくくった。

 「分からないものに出合ったとき、そして今回のコロナのような非常事態に陥ったとき、人間のいろんな顔が映し出されます」。急に涼しい顔になった木場さんは、地下鉄の駅に吸い込まれるようにいなくなった。

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August 03, 2020 at 06:30PM
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