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Tuesday, June 16, 2020

戦争調査会とは何か? <デマに流されないために> 哲学者が選ぶ「思考力を鍛える」新書!(本がすき。) - Yahoo!ニュース

現代の高度情報化社会においては、あらゆる情報がネットやメディアに氾濫し、多くの個人が「情報に流されて自己を見失う」危機に直面している。デマやフェイクニュースに惑わされずに本質を見極めるためには、どうすればよいのか。そこで「自分で考える」ために大いに役立つのが、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」である。本連載では、哲学者・高橋昌一郎が、「思考力を鍛える」新書を選び抜いて紹介し解説する。

連載第43回で紹介した『国際線機長の危機対応力』に続けて読んでいただきたいのが、『戦争調査会――幻の政府文書を読み解く』である。本書をご覧になれば、なぜ終戦直後に政府機関「戦争調査会」が設置されたのか、40回の会議で何が検証されたのか、なぜ突然1年足らずで廃止されたのか、明らかになってくるだろう。 著者の井上寿一氏は、1956年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、同大学大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。一橋大学助手、学習院大学助教授を経て、現在は学習院大学教授・学長。専門は日本政治外交史・歴史政策論。とくに戦前から戦後にかけての日本外交史の実証研究で知られ、著書は『日本外交史講義』(岩波書店)や『機密費外交』(講談社現代新書)など数多い。 さて、1945年10月30日、幣原喜重郎首相は、日本人の手で「敗戦ノ原因及実相調査」を行うために「大東亜戦争調査会」の設置を閣議決定した。1946年1月、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)により、その決定が認可され、名称は「戦争調査会」と改められた。3月27日、幣原が自ら総裁となって、五つの部会を設置し、各部会長を任命した。本書では、それらの部会の調査項目は、次のように分類されている。 〇第一部会(政治外交):世界情勢の分析(総括問題)、第一次世界大戦後の国内情勢批判、満州事変発生後の情勢批判、日中戦争発生後の情勢批判、太平洋戦争開始後の情勢批判、敗戦批判、平和再建の構想[部会長:斎藤隆夫(衆議院議員)] 〇第二部会(軍事):軍の政治干与とその影響、日中戦争以降の戦争指導、第一次欧州大戦後の太平洋を中心とする国際情勢判断と国防方針、軍の編制・組織運営の適否、作戦用兵上の主な敗因[部会長:飯村穣(元憲兵司令官)] 〇第三部会(財政経済):満州事変と日本経済、満州事変から日中戦争に至る日本経済、日中戦争発生後の日本経済、太平洋戦争開戦の背景、太平洋戦争下の日本経済、太平洋広域経済圏の建設、戦争経済の総決算[部会長:山室宗文(元三菱信託会長)] 〇第四部会(思想文化):日本人の国民性・世界観・文化世界、太平洋戦争前の思想界、太平洋戦争下の思想の動向、太平洋戦争前の社会(社会構造・国民生活・民心の動向)[部会長:馬場恒吾(読売新聞社社長)] 〇第五部会:科学技術現有の実情、戦争計画者の科学技術に対する態度、軍部と官僚の科学技術政策に対する科学者の反応、軍部内における科学技術活動の実情、科学技術の戦力化の可能性[部会長:八木秀次(大阪帝国大学総長)] 戦争調査会は、戦争の原因を日本と世界の両面から「世界史的立場」に立って究明するという理想に燃えた企画だった。多方面かつ客観的に調査を実施し、その分析を平和国家建設に役立てるはずだった。ところが、その成果が東京裁判の見解と合致しない可能性が出てきたため、GHQは即座に戦争調査会を打ち切ったのである。 昭和初期、国家主義者によるテロリズムとクーデター事件が頻発した。1932年(昭和7年)2月から3月にかけての「血盟団事件」では、政財界の要人が暗殺された。同年5月にはクーデター未遂の「五・一五事件」が発生した。その思想が引き継がれた結果、1936年には陸軍将校らによるクーデター「ニ・ニ六事件」が生じた。 戦争調査会が、昭和初期の軍部の政治介入に「大正時代の社会的背景」があったと分析している点が興味深い。第一次大戦が終結した1918年(大正7年)以降、日本社会は「平和とデモクラシー」に彩られた。「軍縮」によって「軍」の社会的地位は低下し、「軍人蔑視」の風潮が生まれた。若い将校は結婚できず、子供は「言うことを聞かないと軍人にするぞ」と叱られる始末だった。憤慨した軍人は、「レビュー、ジャズ、喫茶店、酒場」といった「退廃的享楽」を憎んだ。そこから軍人が国家主義思想と結びつき、日本の国家改造を目指すようになったという分析である! “戦争を傍観した責任、敗戦に拍車をかけた責任、民衆の戦争責任、これらを含めた戦争責任の考え方に立つ戦争調査会の調査結果が公表されれば、「自然戦争責任の所在と云うものも判明する」はずだった(1945年12月1日の貴族院における幣原の発言)。しかし報告書の公表の機会は訪れなかった。戦争責任の問題は先送り後回しになった。問題はこじれて現在に至る。今こそ戦争調査会の原点に立ち返って、日本人一人ひとりが戦争の検証をおこなうべきである。(P.243) 2016年に公刊された「戦争調査会」の全資料で何が分析されているのか、その成果によって戦争責任問題を改めて考察するためにも、『戦争調査会』は必読である!

高橋昌一郎(たかはし・しょういちろう) 國學院大學教授。専門は論理学・哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』(講談社現代新書)、『反オカルト論』(光文社新書)、『愛の論理学』(角川新書)、『東大生の論理』(ちくま新書)、『小林秀雄の哲学』(朝日新書)、『哲学ディベート』(NHKブックス)、『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(筑摩選書)、『科学哲学のすすめ』(丸善)など。情報文化研究所所長、JAPAN SKEPTICS副会長。

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June 15, 2020 at 07:02PM
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