
数ミリの厚さで剥ぎ取った新屋宮ノ段遺跡の精錬鍛冶炉遺構(鳥取県米子市)=大岡敦撮影
博物館を訪ねると建物や炉の跡、人骨を納めた墓穴など様々な遺構の展示をよく目にする。発掘現場からごっそり切り出す場合もあるが、近年多いのが地表を薄皮一枚で剥ぐ「立体剥ぎ取り」技法による展示だ。歴史遺産を後世に残すため、この技法を手掛けるスタジオ三十三(京都市、井上喜代志社長)の門を全国の発掘調査機関がたたく。
鳥取県米子市の埋蔵文化財センターは2020年3月から、新屋(にいや)宮ノ段遺跡(同県日南町)の精錬鍛冶炉の遺構を展示している。石を組んだ炉口や金床石、作業場の覆い屋の柱穴列。戦国時代末期の工房の姿を知る重要な手掛かりだ。
国道整備に伴う発掘で17年に発見。調査した米子市文化振興課佐伯純也さんは「残り具合が非常によかった。現地で保存できず工期も押しており、立体剥ぎ取り技法で移設した後、鉄片の分布状況などを調べた」と話す。移設作業を担当したのがスタジオ三十三だ。

精錬鍛冶炉の遺構表面にシリコーンを塗布(2019年、鳥取県日南町の新屋宮ノ段遺跡)
まず地表にシリコーンを塗る。シリコーンに接着力は無く、土の粒子の隙間に浸透させて数ミリの厚みで絡め取る。「遺構の状態や作業日の温湿度に合わせて塗るシリコーンの量や手法、硬化剤の量などを調整する。経験がものをいう」と撫養(むや)健至常務は説明する。
シリコーンが固まると、繊維強化プラスチック(FRP)などを重ね塗りし凹凸を写しとる。変形を防ぐため木枠を取り付けて全体を引き剥がし、同社の作業場へ移設する。裏表が反転した状態の遺構にFRPを塗り、展示台となる枠を取り付けて天地をひっくり返した後、地表面からシリコーンを除去。微調整し、最長でも半年ほどで完成する。

遺構面の裏表が反転した状態(2019年、京都市にあるスタジオ三十三の作業場)
こうして仕上げた遺構展示は一見重々しいが、厚さは数ミリしかなく実際は軽い。新屋宮ノ段遺跡の鍛冶炉の遺構展示は縦4.5メートル、幅1.8メートルもの大きさだが、数人がかりで持ち上げて動かせるという。
遺構の移設には土を数十センチの厚みで切り出す「切り取り」技法も用いられる。ただ土に樹脂を染み込ませて仕上げるのに1~2年を要し、非常に重くなる。
剥ぎ取りは土層の断面などを保存する際、樹脂を使ってよく行われる。ただし対象は平面で、展示も裏表が反転した状態。複雑な凹凸を立体的に剥ぎ取る技法は同社が特許を持ち、依頼は年々増えている。剥ぐのは表面だけで遺構本体は現地保存できるのも利点だ。

地表面のシリコーンを除去し、展示台を取り付ける前の状態(2019年、京都市にあるスタジオ三十三の作業場)
同社は博物館展示品の企画や制作、文化財の修復などを手掛ける。得意とするレプリカ制作で用いるシリコーンの型どり技術を応用したのが、立体剥ぎ取り技法だ。1998年以降、全国で54件の実績を誇る。
「剥ぎ取り、切り取り、レプリカと、幅広い選択肢から最適の技を使えるのが当社の強み」と撫養常務は話す。宮城県では立体剥ぎ取りと切り取りの合わせ技で、繊細な線刻画が描かれた古墳時代の横穴墓の壁面を搬出。和歌山県では直径15メートルもある大型竪穴建物跡をまるごと移設した。
文化財を地域再生に生かそうとの国や自治体の掛け声は日々高まっている。保存と公開を両立すべく、きょうも技に磨きをかける。
(編集委員 竹内義治)
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May 31, 2020 at 10:01AM
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地表数ミリ、歴史剥ぎ取る 全国から遺構保存の依頼 - 日本経済新聞
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