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Saturday, April 25, 2020

「天才大臣」だけでない台湾の強さとは何か(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 新型コロナウイルスへの対応を巡り、台湾の内閣が「専門家ぞろいだ」として日本でも注目が集まっている。台湾では、「鉄人大臣」の異名を取る陳時中・衛生福利部長(衛生相)や、IT担当で「天才」と称される唐鳳(オードリー・タン)政務委員らの活躍が目立つ。主に国会議員から閣僚を選ぶ日本で、パソコンをまともに使えないのにIT担当相に就任するなど専門性を度外視した人選が行われるのとは対照的だ。ただ、国会議員が閣僚になることを禁じる台湾の制度にもリスクはある。【台北特派員・福岡静哉】

 では何がポイントなのか。日常的な取材や政治学者の話を通じて私が感じた台湾の強さの源は、政治をチェックする有権者の力だ。

 ◇台湾の制度は「お友達内閣」になる懸念も

 「台湾の執政制度が日本より良いとは必ずしも言えません。さまざまなリスクがあります」

 比較政治学が専門で台湾政治にも詳しい松本充豊・京都女子大教授はこう語る。執政制度とは、三権分立の民主主義社会の中で、行政のトップが立法機関や国民とどのような関係にあるかを定めた仕組みのことだ。主に三つのタイプがある。日本では国会議員から選ばれた首相が内閣を組織し、閣僚の過半数を国会議員から選ぶと憲法が定める。これを「議院内閣制」と言い、英国が典型例だ。二つ目は米国に代表される「大統領制」で、有権者の直接選挙で選ばれた大統領が国会議員以外から閣僚を任命する。三つ目は議院内閣制と大統領制の両方の要素を取り入れた「半大統領制」で、フランスが代表例だ。台湾も半大統領制に分類される。大統領に当たる総統が有権者の直接選挙で選ばれ、総統は首相に当たる行政院長を任命し、行政院長が組閣する。

 議院内閣制は、国会の多数派から首相が選出されるため、政治が安定しやすいとの指摘がある。だが内閣と国会の「なれ合い」が起きたり、閣僚が専門知識を持たなかったりといった弊害が生じることもある。一方、台湾やフランス、米国の憲法は「国会議員は閣僚になってはならない」と定める。行政と立法の独立を厳格にし、互いにチェックする機能が強い。

 だが半面、大統領と国会の多数派政党が異なる「ねじれ」による対立が起きやすい。知事や市町村長と議会が別々に選ばれる日本の地方自治体は大統領制に似ており、大阪府の横山ノック知事(当時)や長野県の田中康夫知事(同)は議会と激しく対立した。

 松本教授は「半大統領制や大統領制は民衆の直接選挙でリーダーを選べるが、ポピュリストがトップになる可能性もある。また、情実人事による『お友達内閣』が生まれる恐れも否定できない」と指摘する。総統や大統領が自身に示された民意を背に、取り巻きばかりを閣僚に選ぶことも可能な制度だからだ。松本教授は「ドイツは日本と同じ議院内閣制だが、メルケル首相のコロナ対策は評価されている。議院内閣制でも、政府内に専門家の組織を立ち上げ、素早いコロナ対策を取ることは可能だ。どの制度も一長一短があり、政治家がうまく運用できるかどうかが最も大切だ」と指摘する。

 コロナ対策本部のトップを務める陳時中氏は歯科医出身で感染症の専門家ではない。陳氏の下に結成された張上淳・元台湾大医学院長をリーダーとする専門家チームが、知見に基づいた迅速で的確な対応を支えている。日本の厚生労働省にも医師・歯科医師資格を持つ医系技官が約300人おり、こうした人材が活躍しやすい環境を作ることが先決だろう。

 ◇発足当初は悪評だった蔡政権の内閣

 蔡英文政権は2016年5月に発足した際、70%近い支持率があった。だが直後に急落した。最大の原因は「老藍男」と痛烈に批判された内閣の顔ぶれだ。「藍」は野党・国民党のイメージカラー「青」を指し「高齢、国民党系人脈、男性」という意味だ。国民党系の有識者らを登用しており、蔡氏としては野党に配慮したのかもしれない。経済学者出身の林全・行政院長を筆頭に専門家ぞろいだったが、清新さに欠いた。

 また当初は立法院(国会)との調整もうまくいかなかった。台湾では行政院長が立法院に法案を提出する。立法院は与党・民進党が過半数を占めているが、有権者の受けがよくない法案に対する与党議員の抵抗が頻繁に起きる。議員経験がない林院長は国会対策に不慣れだった。年金改革や労働法制改革などは世論の激しい反発を受け、国会審議は混乱した。台湾の世論は変化が激しい。蔡政権の支持率は20%を切り、民進党は18年11月の統一地方選で国民党に惨敗。蔡総統は民進党主席を引責辞任した。

 蔡総統は主席辞任時に「一番変わらなければならないのは私だ」と述べた。学者出身でパフォーマンスを好まない蔡氏は、失言を警戒し、記者会見ではプロンプター(原稿が表示される液晶画面)を見て読み上げるだけだった。だが主席辞任を機に、蔡総統は「変身」に努めるようになった。18年12月以降、プロンプター無しで記者の質問を受けるようになった。自分の言葉で語っているため、以前に比べて言葉や表情に迫力がある。その後もSNSなどを活用して積極的に情報発信するようになった。

 しかしこの時点で、20年1月の総統選で蔡氏が再選するとみる人は極めて少数派だった。ここで皮肉にも、中国の習近平指導部の強硬姿勢が蔡氏を「アシスト」した。習氏は19年1月の演説で「1国2制度」による台湾統一に強い意欲を示した。さらに同年6月には1国2制度下にある香港で大規模デモが起き、台湾人に「明日は我が身」と中国への強い警戒感を抱かせた。もともと中国に厳しい姿勢を取る民進党の背中に強い追い風が吹き、対中融和路線の国民党は逆風に見舞われた。蔡氏はこの勢いに乗って総統選に大勝した。

 台湾は中国に経済的に依存する構造から抜け出せていない。世論の対中姿勢は「強硬」と「融和」の間で揺れていることもあり、民進党と国民党は8年ごとに政権交代を繰り返してきた。コロナ問題は、ちょうど世論が最も「強硬」に傾いている時に起きたため、蔡政権は早期に中国人の入境禁止という厳格な措置を打ち出すことができた。「今がもし国民党政権だったら、中国に対し同様の厳しい対策を取れたかどうかは疑問だ」(台湾紙記者)と指摘する人は多い。

 また19年1月に就任した蘇貞昌行政院長が内政を下支えしたことで、蔡政権はスムーズに上昇気流に乗れた点も見逃せない。蘇氏は民進党の結党メンバーの一人で弁護士。国民党の独裁政権に抵抗して多くの民主活動家が逮捕された1979年の事件で弁護団に加わった。民主化運動を後押しした民進党の「レジェンド」の一人とも言える。蘇氏は立法委員、県長(県知事)、総統府秘書長(内閣官房長官に相当)、党秘書長(幹事長)、党主席を歴任した。松本教授は「台湾では立法委員の経験がある人物が行政院長になると長期内閣になる傾向がある。重鎮の蘇氏が行政院長になり、国会対策も安定した」と評価する。

 ◇民意を恐れる政権

 18年までは悪循環で何をやっても裏目に出ていた蔡政権。しかし19年の習氏の演説がターニングポイントとなり、好循環期に入った。陳時中氏や唐鳳氏ら今になって高く評価されている閣僚は、政権初期から内閣の一員だった。かつて批判の対象だった内閣が、今では称賛されている。

 陳建仁副総統も当初はあまり目立つ存在ではなかった。しかし、陳氏は台湾大感染症研究所長も務めた台湾有数の防疫専門家。02~03年に大流行し台湾で37人が犠牲となった重症急性呼吸器症候群(SARS)問題では担当閣僚として現場を指揮した経験もあり、今回のコロナ対策で的確な助言をしている。

 陳其邁・行政院副院長(副首相)は18年11月の高雄市長選に敗れた後の19年1月、副院長に就任した。当時は「選挙で負けた人がなぜ政府の要職に就くのか」と激しい批判を浴びた。陳氏も台湾大で公衆衛生学の修士号を取得した感染症対策の専門家で、今では政権の好感度を上げる存在に変わった。蔡政権が感染症の拡大を予想してこの2人を要職に就けたわけではなく「偶然の適材適所」と言える。台湾のコロナ対策の成功は、こうした一連の好循環の延長線上にある。

 では、こうした好循環の要素を抜きにした、台湾の強さはどこにあるのか。歯切れの良い政治分析で知られる台湾大の張佑宗教授に話を聞きに行った。

 張教授は私の疑問に対し、こう指摘した。「台湾民衆はいつも政権を厳しく監視しているが、日本ではこの監視の力が弱い。だから安倍晋三首相は思いのままの政治を進めてきた。台湾人は政治はどうあるべきかを熱く語る人が多いが、日本人は政治と自分たちの生活は関係ないと考えている人が多いと私には見える」

 私は張教授の指摘に膝を打った。台湾でタクシーに乗れば運転手が政治談議を始めることは日常茶飯事だ。日本に比べ「政治が自分の生活を左右する」ととらえている人が多いと感じる。蔡政権が大敗した18年の統一地方選で投票所の取材をした際は、多くの有権者が私にこう言った。「今の政権に失望したら、私たちの1票で新しい人に代えればいいだけだ」

 20年1月に総統選と同時にあった立法委員(国会議員)選で、比例得票率は民進党34.0%、国民党33.4%で接戦だった。国民党は一定の支持基盤を維持している。政権の側は「失敗すれば政権を失うかもしれない」と民衆の目を恐れるため、民衆の生活や思いに必死で寄り添おうとし、政策の改善に生かす。陳時中氏が毎日、専門家と共に欠かさず記者会見を開き、記者の質問が途切れるまで答え続けるのも、民意重視の表れだろう。

 台湾ではデモが日常的に起きる。民意は揺れ動きやすく、政治はしばしば混乱する。だが、こうした有権者の政治に対する熱い視線こそが、民主主義を前に進めるエネルギーだろう。SNSでは「日本にも、台湾のように優秀な専門家の大臣がほしい」という嘆きをよく目にする。しかし参考にすべき点はむしろ、政治を動かす民衆のチェック能力だと思う。

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April 24, 2020 at 06:00PM
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